トリップ

カニ食べて、温泉浸かろう。関西随一の温泉街のオールドアンドニュー。

Trip to 城崎温泉

2023年12月16日

ガールフレンド ’23


photo: Jun Nakagawa
text: Neo Iida
2023年1月 909号初出

若き料理人が特産のセコガニでパスタを作る一方、文人墨客に愛されてきた歴史も色濃く残る、城崎。湯と食とアートと文学に、そっと包まれる1泊2日。

トマトクリームパスタ
セコガニの身をていねいにほぐし、濃厚なトマトクリームと和えたパスタ(¥2,860)。甲羅に収まった身ともちもちの麺をズズッといけば、旨味が染み渡る! リゾット(¥2,860)もね。フレッシュマッシュルームサラダ¥930

Couple Profile

カップル
今回旅をしてくれた、堀内一途くんと石原日和さん。
東京出身の二人は、インスタの共通の友人を介して仲良しに。一途くんはオンラインで古着を販売する傍らスタイリストの仕事も。日和さんは大学4年生で、アパレル企業に就職予定。

 ともに東京生まれ東京育ちの堀内一途くん、石原日和さんの二人がよく行くのは祖師ヶ谷大蔵の『鳥貴族』。気分を変えたいときは経堂のマクドナルドへ。カニなんて大人の食べ物すぎて、正直カニカマでいいくらい。でも、兵庫県の城崎にこの時期限定のセコガニのパスタがあると知り、ちょっと気になった。東京から電車で5時間弱の長旅だけど、たまには小田急沿線から飛び出すのもいいかも。

 東京駅から新幹線で京都まで行き、山陰本線に乗り換え、福知山で「きのさき」に乗車。『城の崎にて』を一気読みしたら、もう城崎温泉駅だ。「カニだ!」と駅前のカニバサミで記念撮影を済ませ、念願のパスタにまっしぐら。情緒溢れる大谿川沿いから静かな木屋町小路に入ると、『OFF』発見! 「セコガニは松葉ガニのメス。取り過ぎると繁殖できなくなるので、漁は12月末まで。足も早く都会に出回らず、地元で消費して終わり。希少なカニです」と店主の谷垣亮太朗さん。旨味が凝縮され小ぶりなぶん、処理も面倒。カニ味噌を食べる程度だったのを、工夫を重ね新たな食材にしたんだそう。運ばれてきたカニのパスタとリゾットは濃厚で、二人も「うんまーーー!」と大興奮。内装を手掛けた建築デザイナーの関祐介さんもこのパスタめがけて城崎を訪れるそうで超わかる。「えっ、やばい、食べ終わっちゃう」と幸せと悲しみの完食。着いて早々、旅の目的を果たしてしまった! でも満足!

Spot 1. 行きの車内で城の崎にてを読む。

Spot 2. 城崎温泉到着!カニとピースで記念撮影。

Spot 3. 早速、セコガニのパスタとリゾットで乾杯。

カップル
土地の食材を使った料理とワインが人気の『OFF』は、11~12月になるとセコガニのパスタとリゾットでお祭り状態に。店主の谷垣亮太朗さんが8年前に完成させたオリジナル料理で、下準備に時間がかかるもののセコガニの旨味がガツンと感じられる逸品。もはや城崎の冬の風物詩だ。「春には川沿いの桜が満開になるんですよ」と谷垣さん。
カップル
橋の手すりに備え付けられたテーブルで食べる、このシチュエーションも最高。
ワイン、OPENの旗

OFF

谷垣さんの双子のご兄弟も豊岡で飲食店『TANIGAKI』を営む。

◯兵庫県豊岡市城崎町湯島536 ☎0796・21・9083 11:00~LO15:00 18:00~21:00、水・金・日11:00~LO15:00 月休

Spot 4. MMMでアペロを楽しむ。

ドリンク 田口幹也さん。
『OFF』の隣には、元「見番」の建物を改装したポップアップスペースが。店舗兼住居として活用する田口幹也さんは、「城崎国際アートセンターの館長を務めるにあたって移住し、街の魅力に気づいたんです」と城崎の歴史をたくさん教えてくれた。現在、アペロ(食前酒)をふるまうバーも準備中。右は〈Mitosaya〉のスロー・ジンをオレンジジュースで割ったもの。左は〈PERNOD〉のアニス酒。空気に触れるとこの色に。
MMM 外観

MMM

◯兵庫県豊岡市城崎町湯島537 ☎なし 営業時間、店休日はポップアップにより異なる。開催情報はインスタグラムを参照。

Instagram
https://www.instagram.com/mmm_kinosaki/

Spot 5. 憧れの旅館「三木屋」にも寄ってみよう。

三木屋
その歴史ゆえ、老舗旅館が多い城崎。なかでもキングオブ憧れは志賀直哉が静養した老舗旅館「三木屋」だ。創業は江戸時代の元禄年間(!)で、ゆうに300年以上の歴史を誇る。幾度かリニューアルを重ねているものの、重厚な佇まいは健在で、国の登録有形文化財でもある。いつかビッグになったら泊まりたい!

三木屋

◯兵庫県豊岡市城崎町湯島487 ☎0796・32・2031(8:00~20:00) 宿泊料金など詳細はホームページを参照。

Spot 6. 外湯めぐりで茹でガニ状態!

柳湯

中国の西湖から移植した柳の木の下から湧き出たことが由来。足湯あり。

◯兵庫県豊岡市城崎町湯島647 ☎0796・32・2097 15:00~23:00 木休 大人700円

御所の湯

文永4年(1267年)、後堀河天皇の御姉安嘉門院が入湯した記録からこの名に。

◯兵庫県豊岡市城崎町湯島448-1 ☎0796・32・2230 7:00~23:00 木休 大人700円

Spot 7. 温泉街散歩の楽しみは、地ビールに射的!

カップル、コーヒー
湯上がりポカポカで歩いていたら、旅館「山本屋」の軒先でビールタップを発見。直営工場で造っているオリジナルらしい。まだ夕方だけど、ローストした麦芽の風味が香る黒のビール(¥500)をゴクリ。
カップル 射的
さらに歩くとザ・昭和な射的場が。温泉街っぽい! と即入店してエアライフルと弾を借り、身を乗り出してエイム。銃口を的ギリギリに近づけるのがコツらしい。パン! コツン! と結構落ちて、「わりとうまいかも!」と喜ぶ二人。得点を合計して、アヒルのおもちゃを手に入れた。
山本屋の地ビール

山本屋

◯兵庫県豊岡市城崎町湯島643 ☎0796・32・2114 玄関横での販売は9時~20時30分。宿泊情報はホームページを参照。

センター遊技場

センター遊技場

射的の他にパチンコやスマートボールも。

◯兵庫県豊岡市城崎町湯島394 ☎0796・32・2474 19:00~22:00 不定休

Spot 8. かに寿司&かに軍艦で、旬の旨味を堪能する。

寿司
旬の味なら寿司は外せないよねってことで昭和17年創業の『をり鶴』へ。大ぶりの松葉ガニをどどんと使ったかに握り(¥2,970)は、昭和40年代からの定番メニュー。脚を握りに、ほぐした身は軍艦にして一丁上がり。3代目の谷山正利さんは東京の『銀座久兵衛』などで修業を積んだそう。令和の城崎は若旦那衆が盛り上げている。
谷山正利さん

をり鶴

谷山さんはデザインにも造詣が深く、ロゴなどのビジュアルはBOOTLEGの尾原史和さんに依頼。

◯兵庫県豊岡市城崎町湯島396 ☎0796・32・2203 11:00~13:30、17:00~21:00 火休 

Spot 9. 電話一本で駆けつける、出来たて人情ラーメン。

宮政ラーメン

宮政ラーメン

味は他に醤油(¥650)、塩バター(¥680)、常連に人気の油そば(¥650)。

☎0796・32・3702(電話は『居酒屋海猫』のもの。注文の際はまずこちらにお電話を)18:00~24:00 火~木休

「昨日のラーメンの宮嶋さん、超カッコよくなかった?」「うん、あんな大人になりたいって思ったよね」と夜食に食べた『宮政ラーメン』の思い出を噛みしめる、2日目の朝。昨晩は『をり鶴』で握りを食べ、射的を楽しみ、温泉街を堪能しまくった。泊まったのは城崎に最近増えているという素泊まり宿で、温泉は付いてないけれど、城崎には外湯が7つもあるから巡り放題。一途くん日和さん世代も気負わずに城崎を満喫できるというわけ。もちろん「三木屋」みたいな老舗にも憧れてるから、散策中に建物を拝んできた。

Spot 10. 朝はカカオミルクティーとパティスリーで始める。

カップル
朝9時から営業中の『PARADI』は、姫路で和菓子屋『井上茶寮』を営む井上祖人さん・有紀さん夫妻が始めた店。シェフ経験のある祖人さん特製のシュー・ア・ラ・クレームは、生地にカカオのクッキーをオン。中にはプラリネとナッツのペースト入り。タルトキャラメルは塩を効かせたキャラメルを、こっくりとしたガナッシュで仕上げている。沖縄の『TIMELESS CHOCOLATE』が作ったカカオミルクティーや、釜炒りとヨモギのブレンドティー(各¥518)も一緒に。パティスリー各種¥291~
『PARADI』手拭い

PARADI

姫路でギャラリー『M1997』も営む井上夫妻。手ぬぐい(¥2,200)はグラフィックデザイナーの小林一毅さんがデザイン。

◯兵庫県豊岡市城崎町湯島538 ☎なし 9:00~17:00、土・日10:00~ 水・木休

Spot 11. 文人墨客が訪れた、文芸の足跡を辿ろう。

城崎文芸館
志賀直哉に限らず島崎藤村や司馬遼太郎、与謝野寛・晶子夫妻など多くの文豪、歌人、詩人に愛されてきた城崎。その歴史をアーカイブする城崎文芸館では、文人ゆかりの品々が並ぶ常設展と、「万城目学と城崎温泉」のような今を感じられる企画展が楽しめる。1階には映像インスタレーション「生きている本」もあり。文字が躍る!
トートバッグ

城崎文芸館

エントランス横には足湯も(土・日・祝のみ営業)。湯めぐりのおともに、書生の手さげぶくろ(¥680)。

◯兵庫県豊岡市城崎町湯島357-1 ☎0796・32・2575 9:00~17:00 水休 入館料 大人500円

Spot 12. 温泉街を歩きながら、カニを食べまくり。

カップル
さすがカニの街、ここでしか食べられないカニフードが充実してる。カニの形のかにもなか、カニマヨをトッピングした串ぬれおかき、カニ身たっぷりの蟹まん、カニソースに金粉を振りかけた黄金のカニソフト、からしが嬉しいカニシュウマイ。量も程よくぺろっといけるし、発想も面白くて「何これ!」なんて言いながら食べ歩いてしまう。疲れたら足湯で小休止。人生でこんなにカニを食べた日があっただろうか。
かにもなか

斎藤製菓堂

香住ガニがたっぷりの城崎蟹まん1,520円。

◯兵庫県豊岡市城崎町湯島107 ☎0796・32・2308 8:00~16:00 不定休
こしあんたっぷり、かにもなか110円。

蟹まん

但馬牛 デリカ茶屋

◯兵庫県豊岡市城崎町湯島206 ☎0796・32・2655 10:00~17:00 水休

串おかき カニ&マヨネーズ

寺子屋本舗

店頭に串おかきが色々。カニ&マヨネーズ300円。

◯兵庫県豊岡市城崎町湯島677 ☎0796・32・0707 9:30~17:30 不定休

カニソフトクリーム

ソフトクリーム専門店 そふと工房

塩気と甘味がいい感じの、黄金のカニソフト720円。

◯兵庫県豊岡市城崎町湯島397 ☎0796・32・2260 9:00~22:30 不定休

カニ爪しゅうまい

花兆庵

カニ身の存在もしっかり。カニ爪しゅうまい250円。

◯兵庫県豊岡市城崎町湯島411 ☎0796・32・3811 7:00~23:30 不定休

 さて、モーニングは『OFF』の並びにある『PARADI』でパティスリーを。ふっかふかのクロワッサンと、チョコのような風味のカカオミルクティーに癒やされる。窓の向こうに見える、なんてことない朝の風景も最高だ。食べてばかりもあれなので、城崎文芸館で開湯1300年を誇る街の歴史をお勉強。なんでも、温泉が湧いた起源は養老元年(717年)。奈良から来た僧侶・道智上人が、病に苦しむ人々のため、お告げのとおり現在の『まんだら湯』の場所に庵をつくって念仏を唱え続けたら湯が湧いたそう。以降全国に名を馳せ、江戸時代後期に作られた全国温泉ランキング「温泉番付」では、西の大関・有馬温泉に次ぎ、関脇「但馬城の㟢の湯」として格付けされていた。「日本人、当時から『王様のブランチ』みたいなことしてる」と古の温泉熱を感じた二人。文芸館を後にして、カニの食べ歩き再開だ。

Spot 13. 柱状節理の前で愛を誓う。

柱状節理の前 カップル
城崎市街からタクシーで約15分。「玄武洞公園」には玄武岩の石柱が立ち並ぶ絶景が。六角形の幾何学的な割れ目は、160万年前に流れたマグマが冷えて固まり生まれたもの。その後人間が石を採取して壁がえぐられ、洞となった。文化4年に玄武洞と名が付き、のち「玄武岩」の由来に。悠久の歴史を感じながら、チュッ。
柱状節理の前 カップル
玄武洞公園

玄武洞公園

敷地内には「玄武洞」「白虎洞」「青龍洞」など5か所の見どころが。通りを挟んだ向かいには石の博物館「玄武洞ミュージアム」があり、ステゴドンやティラノサウルスの全身骨格も鑑賞できる。

◯兵庫県豊岡市赤石1347 ☎0796・22・4774 9:00~17:00 大人500円

Spot 14. 乗車前まで浸かりたい。ラスト外湯は駅チカで。

さとの湯
帰るギリのギリまで城崎を楽しみたい! そんな願いを叶えてくれるのが、城崎温泉駅の真横にある『駅舎温泉 さとの湯』だ。男女入れ替え制で、屋上の露天風呂では眼前に円山川を望みながら滝に打たれることができる。見渡せば山と川しかなくて、かつてこの地を訪れた人々も同じ風景を見ていたのかなあとぼんやり思う。日差しを浴び、一途くんも思わずガッツポーズ。高温ドライサウナ、フィンランドサウナ、スチームサウナを備え、サウナ好きも満足。
さとの湯

駅舎温泉 さとの湯

入り口には無料で入れる足湯あり。

◯兵庫県豊岡市城崎町今津290-36 ☎0796・32・0111 13:00~21:00 月休 大人800円

Spot 15. 電車に揺られて追いガニ。旅の終わりはかにちらし。

かに寿司
遅いランチは車内でかに寿司(ちらし¥1,700)。駅近くの『かに寿司 大黒屋』が昭和40年頃から作っているお弁当で、酢飯に錦糸卵とカニをぎゅうぎゅうに詰め、口当たりはふんわり上品で、奈良漬けが効いてる逸品。

インフォメーション

かに寿司 大黒屋

かに寿司 大黒屋

品切れの可能性もあるため予め予約しておくと受け取りがスムーズで確実。他にかに握り(¥2,000)などもあり。

◯兵庫県豊岡市城崎町湯島87 ☎0796・32・2728 10:30~17:00

 帰る前に名所も見ておきたくて、タクシーで『OFF』の谷垣さんおすすめの玄武洞公園へ向かった。地質遺産でもある巨大な玄武岩の岩肌が鑑賞できるそうで、入場すると、眼前に『SASUKE』もびっくりの反り立つ壁! これはケイン・コスギも登れない! 「カクカクした岩、『ブラタモリ』で見たことある」「柱状節理だ!」。そう、壁面にはマグマが冷えて固まった、柱状節理がびっしり。160万年という長い時間が育んだ地層に、一途くんも日和さんも圧倒された様子。少しすると、スマホで写真をパチパチ。そうだよね、こんな風景なかなか見られないから、残しておかなきゃ。

 最後にひとっ風呂、と駅からいちばん近い外湯『駅舎温泉 さとの湯』で温泉納め。「きのさき」の車中では、『かに寿司 大黒屋』のちらし寿司をもぐもぐ。「あんなに食べたのに、食べられる!」と、すっかりカニ愛に目覚めた二人。1泊2日の滞在中、歩けば湯と食と休憩処があり、城崎という街に泊まらせてもらった感じ。3週間も滞在した志賀直哉を羨みながら、カニでみっしり満たされて東京に帰った。