カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.17
紹介書籍『目的への抵抗』
2023年6月15日
text: Densuke Onodera
edit: Yu Kokubu
自分がこれまで何も考えずに受け入れてきたことの全てを疑うんだ
コロナ危機における行動制限が解除された先日、約3年ぶりにバンドでライブをした。その翌日、私は外出先のショッピングモールでトイレにこもっていた。便器にへたり込むのも約3年ぶり。久しぶりにライブを楽しむ自由と、二日酔いで休日を無駄にする自由を味わった。
パンクスが追い求めるもの。その一つは端的に「自由」だ。日本の有名なパンクの曲では「見えない自由が欲しくて」とか「僕らの自由はどこにある」などと歌われているし、海外のパンクバンドも自由についての曲は多い。例えば、アメリカのCRIMPSHRINEというバンドは「FREEWILL」という曲でこう歌っている。
Question everything I’ve accepted without Thinking
(自分がこれまで何も考えずに受け入れてきたことの全てを疑うんだ)
自由を求め、自由を志すためには、無思考のまま受け入れてきたことを疑い、問いを立て、考えを巡らせてみる必要がある。これは何度も反芻したい歌詞だ。
そして、このパンク的な姿勢は、哲学者・國分功一郎による著書『目的への抵抗』にも通底している。
本書において著者が疑い、問いを立て、考えを巡らせたのは「自由」についてだ。具体的には、私たちが仕方なく受け入れてきたコロナ危機における「自由の制限」を疑い、そもそもコロナ以前から現代社会には「不要不急」と名指されるものを制限しようとする傾向があったのではないかと問いを立て、それは「目的をはみ出るもの」を許さない消費社会や資本の論理によってもたらされたものではないかと、考えを巡らせる。
行動制限が解除され、バンドで演奏し、ウェーイと酒を呑み、二日酔いになる自由を喜んでいた私は、本書を読んで少し冷静になった。
コロナ危機が始まった当初、まっさきに槍玉に上げられたのはライブハウスで、パンクスのみならずジャズメンもDJも揃って自由を制限された。しかしながら、思い返してみるとコロナ以前にも風営法改正によってクラブやライブハウスの摘発が相次いだことがあったし、楽器を持っているとよく職質されたし、親や職場の上司から「いつまでバンドやってんだ」と呆れられ「男なら仕事に生きろ」と助言されたことも一度や二度ではない。
ひとのため、とか、経済を回すため、とか。社会人として立派に生きるため、とか。そういった類いの社会が要請する「目的」や「必要」をはみ出るものは、コロナ以前からその自由を制限しようとする傾向が確かにあったなと思う。
そういった傾向が突き進んだ最悪の結果として挙げられているのがナチスドイツの全体主義で、それが「そんな極端な」とは思えないほど現代社会とリンクしていて肝が冷えた。
本書はこんな言葉から始まる。
「自由は目的に抵抗する。自由は目的を拒み、目的を逃れ、目的を超える。人間が自由であるための重要な要素の一つは、人間が目的に縛られないことであり、目的に抵抗するところにこそ人間の自由がある」(P.3)
目的に抵抗するための自由。その重要なキーワードとして、「遊び」という言葉がでてくる。それは無思考でウェーイ的な遊びではない。自由を求め、無思考のまま受け入れてきたことを疑い、問いを立て、考えを巡らせてみた上での、抵抗としての「遊び」だ。
自由を志し、遊びを大事にするパンクスならば、いま読むべき名著。
紹介書籍
『目的への抵抗』
著:國分功一郎
出版社:新潮社
発行年月:2023年4月
プロフィール
小野寺伝助
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