カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.16
紹介書籍『本は読めないものだから心配するな』
2023年4月26日
text: Densuke Onodera
edit: Yu Kokubu
反システムとしての書店と読書
先日、近所のさびれた商店街の焼き鳥屋がひっそりと閉店した。数日後には数軒隣の八百屋も閉店していて愕然とした。その一方で、街にはまた新しいコインパーキングができた。
同じ頃、八重洲にある大型書店の閉店のニュースを見た。その前には、渋谷にある大型書店の閉店、赤坂にある大手チェーン書店の閉店のニュースもあった。いずれの書店も、閉店の理由は街の再開発だ。
さらに同じ頃、神宮外苑の樹木約1000本が伐採されようとしているニュースを見た。その理由もまた、街の再開発だ。
焼き鳥、野菜、本。どれも人々の生活に寄り添うものだが、効率的に稼げるような商材じゃない。焼き鳥一本110円、キャベツ一玉158円、文庫本一冊550円。コインパーキングにちょっとの間クルマを停めれば、余裕で超える金額だ。ましてや、都心の森に生える樹木は1円のカネも生み出さない。この社会システムの中で、生産性や効率が街を呑み込んでいく。巨大な者たちがより巨大になり、小さき者たちが淘汰されていく。街も私も虚無的になっていく。
FUCK THE SYSTEM。そう小声で嘯いて日本酒を舐め、本を読む気力もない私は『本は読めないものだなら心配するな』という本をちびちび読み進めたところ、もっと書店を訪れて、もっと本を買って、もっと読書をしたいという欲望がむくむくとわいてきた。そして、その欲望と行為そのものが社会システムに抗うことに繋がるのだと認識を改めた。
本書の著者は、世界にはふたつの「共和国」があると仮定する。一つは通貨を共有物とし、物や人や情報の流通が価格に換算されるグローバルな共和国。もう一つは書物を共有物とし、世界中の書店がかたちづくるネットワークとしての共和国だ。
なんのこっちゃ、と思うかもしれないが、前者は貨幣を中心に動くシステムとしてのリアルな社会に対し、後者は本を中心に世界中のリアル書店に集う市民によって形成される偶発的でイマジナリーな社会、といったイメージで私は捉えた。
前者は効率よく利潤を上げることを最大の目的として動くのに対して、後者の特徴をこう説明している。
「そこでは効率や利潤といった言葉は、口にすることすら恥ずかしい。人々は好んで効率の悪さ、むだな努力、実利につながらない小さな消費と盛大な時間の投資をくりかえし、くりかえしつついつのまにか世界という全体を想像し、自分の生活や、社会の流れや、自然史に対する態度を、変えようと試みはじめる」(P.27)
読書はタイパが悪い。難しい小説を読み始めて、がんばって読んで、結局よくわからないまま読了するなんてことはザラだ。効率が悪いし、むだな努力だし、実利に繋がらない。だが、そういった経験も含め、読んだ本の数々は、ひとりひとりの心の中にインストールされていく。例えば、世界的な名著であるジョージ・オーウェルの『一九八四年」やミヒャエル・エンデの『モモ』なんかは、世界中の書店に今も並び、何百万、何千万人もの人々の心の中にインストールされてきた。そして、そんなひとりひとりが「自分の生活や、社会の流れや、自然史に対する態度を、変えようと試みる」のだろう。
そういった人々、つまり書店の共和国に属するものは「たったひとりの日々の反乱、孤独な永久革命を、無言のうちに誓っている」と著者は言う。そして、システムとしてのお金の共和国に「対抗する。反乱を宣言する」のだと。「反システム」でありつづけるのだと。
書店の共和国とは、すなわちパンクスのユニティみたいなものだと解釈した。そして、とても共鳴した。街の再開発で書店がなくなるのは辛いが、世界中のネットワークとして存在する書店の共和国は容易になくならない。俺たちはしぶといぜ、と書店の共和国に属する一人として思った。
紹介書籍
『本は読めないものだから心配するな』
著:菅啓次郎
出版社:筑摩書房
発行年月:2021年9月
プロフィール
小野寺伝助
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