カルチャー

そのレコード、聴いてみたいな。Vol.3【前編】

DJ、「Stones Throw Records」創設者・Peanut Butter Wolf

2023年6月6日

レコードと時計。


photo: Shane Sakanoi
text: Koji Toyoda
2023年6月 914号初出

Point of view ゴールドディスク

OWNER

Peanut Butter Wolf

ピーナッツ・バター・ウルフ|DJ、「Stones Throw Records」創設者。1969年、カリフォルニア州サンノゼ生まれ。10歳でレコードを収集し始め、16歳になるとスクラッチやドラムマシンを駆使したビートメイクを手掛けるように。1996年にストーンズ・スロウ・レコードを創設。現在のコレクションは約6万枚。オフィスの下の階で営むバー『Gold Line』にはその一部、約1万枚が並ぶ。

僕のレーベルにも影響を与えた超名盤。
若者たちにも薦めたいね。

「またレコード買ったの?」と妻に呆れられながらも、今、僕が集めているのはゴールドディスク(アルバムの場合、50万枚以上のヒットを記録した際にアメリカレコード協会から贈られる記念品)だ。ビースティ・ボーイズのゴールドディスクをゲットしたことがきっかけで、本腰を入れてコレクトするようになったんだ。基本、僕自身や僕のレーベルに大きな影響を与えたクラシック作品が中心で、彼らのユニークなマインドをいつでも思い出せるようにと、オフィスに飾っている。今回、特にレコメンドした3枚は、どれも若かりし頃の生々しい思い出が蘇るようでとても感慨深いものなんだ。でも、レコードという媒体にはその生々しさや洗練されすぎない感覚が合っていると思っていて……、例えばアントワン&ザ・アンダーワールドの「ウィンドウズ・オブ・マイマインド」やアルラナの「ウェン ユー コール マイネーム」を聴けばわかると思うけど、まるで同じ部屋にいて生演奏を聴いている気分に浸れるんだよ。そういう、親密で純粋なサウンドはレコードで聴く価値があると思う。でも、そういったローファイな音楽を、高価でハイファイなステレオで聴いてしまうんだけどね。

若い頃に影響を受けた3枚

SELECT 1
1999
ARTIST Prince
RELEASED 1982
COUNTRY USA

全米だけで400万枚の大ヒットを記録し、全世界にプリンスフリークを生み出した2枚組アナログ。「これは12歳の頃に買ったレコードだね。当時のプリンスはエレクトロミュージックを始めた頃で、人種や性別を超えたバンド編成スタイルも含めて、とにかくクールだったんだ。僕も含めて、誰もが影響され、彼になりたいと思っていたんじゃないかな。ドラムマシンやシンセサイザーを多用したニューウェーブサウンドは全体を通してまとまりがあって、とても美しかった。どことなくファニーさがあるところも好きなんだ。曲を挙げたらキリないけれど、子供の頃に夢中だったのは、『D.M.S.R.』と『Little Red Corvette』。それと『Lady Cab Driver』だね」

SELECT 2
FRESH
ARTIST Sly & The Family Stone
RELEASED 1973
COUNTRY USA

ファンクの帝王、スライ・ストーンが自主制作した6作目も、全米7位に輝いたゴールドディスク。2曲目の「If You Want Me To Stay」はレッド・ホット・チリ・ペッパーズが2ndアルバムでカバーし、ヒップホップにおいても重要な不滅の名曲。「’87年頃からヒップホップでサンプリング文化が主流になり、僕も古いレコードを漁っていた16歳の頃に見つけたよ。地元の『Street Light Records』で4ドルだったかな。レッチリのカバー曲がきっかけで手に取り、アルバムを聴いたら、ローファイでカッコいい曲がたくさんあった。ソウル・ファンク好きになったきっかけだね。プリンスがスライに影響を受けていたと知って、さらに震えたよ」

SELECT 3
3 feet high and rising
ARTIST De La Soul
RELEASED 1989
COUNTRY USA

ロングアイランド出身のファニーなラッパー3人組が、1989年にリリースした1stアルバム。貪欲なサンプリングワークにSKITを挟み込んだお洒落すぎる文系ラップは、ニュースクールヒップホップの記念碑的作品に。発売後、3か月で50万枚を売り上げる驚異的なスピードでゴールドディスク認定。「19歳になって大学に入ると、ヒップホップのレコードを買うようになったんだけど、De La Soulは当時主流のGラップやハードコアラップとは何もかも違っていて、おかしな感じがよかった。僕も自分をアウトサイダーだと感じていたから、彼らの音楽がとてもフィットしたんだよね。ユニークなヘアスタイルで登場するMVも最高だったんだ」