カルチャー
いまさら聞けないレコードのはなし。【前編】
2023年5月20日
レコードに興味はあるけど、知らないことだらけ。
盤の触り方だって不安だし、そもそも、針を置いて音が鳴るのはなぜ?
そんな疑問の数々をレコードの隅から隅まで知り尽くした
名店『黒猫』の店主、田口史人さんにぶつけてみた。
Q1. そもそも何で音が鳴るんですか?
薄い紙を口の前に持ってきて「ア〜」って声を出すと紙が振動するでしょう? 音は波でできているんです。その波を物体に刻みつけたら、音が鳴るんじゃないか、とやってみたらできたというのがレコード(笑)。だから、盤面を拡大すると溝はまっすぐではなく、ギザギザの波形になっているのがわかります。大きな音は振れ幅も大きく、小さい音は振れ幅も小さい。この溝の波に針を通すことで、音の振動が再現されて音が鳴るんです。レコードが1分間に33回転、もしくは45回転するスピードでまわる中、針は盤面の外側から内側に向かって、蚊取り線香のようにぐるぐると進むようになっていて。外側であればあるほど1回転するときの溝の長さが長くなるので、入れられる音の情報量も多い。A面(表面)とB面(裏面)の1曲目にキラーチューンが多いのは、外側が一番いい音になるからなんですね。エンディング曲を壮大にできない、というのは、レコードにとって最大の宿命です。
Q2. レコードっていつからあるんですか?
諸説ありますが、世界初のレコードは1877年にトーマス・エジソンが発明した円筒型のものといわれています。円盤型のレコードが登場したのは1887年で、エミール・ベルリナーが発明した「グラモフォン」というもの。円筒型は最初から最後まで音質が一定ですが、型を取るのに手間がかかる。対して円盤型は、金型を作ればプレスも簡単にできて、大量生産ができるので、おのずと主流になっていきました。プライドの高いエジソンは「こっちのほうが音質も変わらないし売れるんだ!」と言い続けていたみたいですが、玉砕したようですね。ちなみに、日本初のLPレコードは1951年に発売されたベートーベンの「交響曲第9番」。現在も「日本コロムビア」社で厳重に保管されているようですよ。
Q3. レコードはCDより音がいいって本当ですか?
レコードは音がいいっていうのを僕は疑ってます(笑)。「温かみのある音がする」という人がいるけれど、それは中音域、つまり人の話す声と同じ音域がよく聞こえるからなんですよ。言えるとすれば、レコードはアナログなものなのでどんな環境で再生するかで、聞こえる音にかなりの差が出ます。プレーヤーや針、カートリッジ、家に流れる電気の事情によっても変わってしまうんです。電気も波でできているから、古い電線が使われていたり家の中での配線の仕方によって流れが濁ってしまうみたいで。相当ハードなオーディオマニアの中には、夜中に電柱に登って勝手にトランスいじっちゃう人もいるみたいですね。もちろん違法です(笑)。
Q4. お店に行ってみたいけどレコードの触り方がわからなくて怖いです。
溝にはなるべく触れないよう、縁を持つようにしてください。DJの人がキュキュッと盤をこするプレイがあると思いますが、あれをすると手の脂が付いちゃうんですよね。後で拭けばいいですが、放置するとカビのもとに。あとは、プレーヤーの針は触らないこと。雑に扱うと針もレコードもダメになってしまいます。お店で物色中にストンとレコードを落とす行為もレコードのジャケットを傷つけるので注意しましょう。
Q5. 盤面を触らないようにというけれどもっと頑丈に作れないの?
40年代までは熱を加えてから冷やすとすぐ固まり硬さもある「シェラック」という素材で作られていましたが、硬すぎると割れやすくなるんですね。現在の「塩化ビニール」採用の決定打は、第2次世界大戦だと思います。前線でも娯楽を提供するため、アメリカ軍は蓄音機とレコードをパラシュートで送ったのですが、どんなに丁寧に包んでも落下の衝撃でレコードが割れてしまう。なるべく硬く、でも柔軟性もある素材を求めた結果が今のレコードなんですよ。’40年代以前まで生産されていたシェラック製レコードは「SP盤」と呼ばれています。
Q6. LP盤、シングル盤、7インチ、12インチ……。何がどう違うの?
直径30㎝、12インチの大きさで片面25分ほど入るレコードをLP(=ロング・プレイング)盤、直径17㎝、7インチの大きさで片面4分ほど入るレコードはシングル盤と呼ばれます。塩化ビニール盤が普及した’50年代、シングル盤とLP盤は、レコード盤の主流の座を争ったライバル規格同士でした。争点になったのは「長時間演奏」。溝を狭く盤も大きく改良したLP盤は、1枚で従来のSP盤の5倍収録できるように。一方のシングル盤は片面4分しか入りませんが、これはジュークボックスとセットで登場し、例えば、1曲ずつ入ったシングル盤を50枚機械にセットすることで両面で100曲を連続再生できるようにしたもの。ジュークボックスの大流行に伴い酒場を中心に普及しました。ちなみにシングル盤の穴がドーナツのように大きいのは、ジュークボックスの中でレコードの再生や取り換えをしやすくするため。双方に利点があるので、片方だけ作っていた会社も自然と両方作るようになったようですね。当時は他にも5インチや15インチなど様々なサイズがありました。
教えてくれた人
田口史人
たぐち・ふみひと|1967年、神奈川県生まれ。2003年に自主制作盤専門店『円盤』をオープン。2020年には店名を『黒猫』に変更し、現在は高円寺と長野県伊那市に店を構える。著書に『レコードと暮らし』(夏葉社)など。
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