カルチャー
私たちの作品の中でもとりわけサスペンス性の強いものになりました。
『トリとロキタ』のダルデンヌ兄弟にインタビュー!
2023年3月30日

『トリとロキタ』の主人公は、まだ児童のトリと10代後半のロキタだ。いずれも保護者がないままベルギーへと渡ってきた移民で、周囲には姉弟だと偽りながら2人で協力して暮らしている。そんなある日、ビザが取得できず、まともな職にありつけないロキタが、大麻栽培工場で働くことになってしまい……。監督はダルデンヌ兄弟こと、ジャン=ピエール・ダルデンヌとリュック・ダルデンヌ。これまでも社会問題に鋭いメスを入れてきた2人に、今回の映画に対する思いを聞いた。
ーー『トリとロキタ』では、ベルギーにおける移民問題が描かれます。監督たちはこれまでも『イゴールの約束』などで移民の物語を描いていますが、今回の映画はどんなところからインスピレーションを得て生まれたのでしょうか。
ジャン=ピエール この映画に着手した直接的な理由は、とある記事を読んだことです。その記事では、たくさんの未成年の移民たちが、保護者のいないままヨーロッパにやってきていること、そしてその一部はまったく消息がわからないことなどが書かれていました。彼らは移り住んだ国でビザが取得できないとわかると闇社会に流れ、麻薬の密売や、女の子であれば売春に手を染めてしまうからです。これにはとても衝撃を受けたし、あってはならないことだと感じました。だから、保護者のいない未成年の移民の映画、つまりは『トリとロキタ』を作ろうと思ったのです。と同時に、この映画では主人公であるトリとロキタの友情も1つのテーマだと思っています。トリとロキタの間にある揺るぎない友情は、厳しい逆境に立たされる2人にとっての”安住の地”だと私たちは考えています。
ーーなるほど。そうした現実にある問題を扱う場合、ドキュメンタリーにするという選択肢もあったと思うんです。今回フィクションにした理由は、本作にとってはトリとロキタの友情こそが重要だったからでしょうか?
リュック その通りです。確かに、ドキュメンタリーを撮ることも可能だったでしょう。しかし、なぜそれを選択しなかったかと言えば、トリとロキタの物語を描きたかったからです。私たちは単に移民の子供たちの”あるケース”を撮りたかったのではなく、他ならぬトリとロキタという人間そのものに光を当てたかった。それはフィクションにしかなし得ないことだと思っているのです。フィクションであるこのストーリーによって、2人は生きた人間として結晶化し、描かれる友情もより豊かなものになると思っています。

Photos ©Christine Plenus
ーーおっしゃるように、トリとロキタは強い絆で結ばれていることは間違いありません。そこには兄弟である監督たちの関係も反映されているのでしょうか。
ジャン=ピエール それはありません(笑)。2人を姉弟という設定にしたのは、ロキタがビザを取るために、その関係が必要だったからというだけです。既に難民申請が通っているトリは、ベナンからの移民です。彼は母国で「不吉な力を持つ子供」と迫害され、このままでは殺されてしまうためにヨーロッパに逃げてきたわけですが、その際、赤の他人であるロキタが彼を助けたという設定なんですね。ですから、2人の関係は、血の繋がった兄弟姉妹よりも強く、かつとても美しい。実際、奴隷のような生活の中で、2人の友情は本当に美しいものとして、私たちの瞳に映ります。その一方で、この映画の中にはロキタを大麻工場で働かせる、闇社会の悪い大人たちも登場します。トリとロキタの友情は、彼らによる搾取や支配の正反対に位置するものなのです。
ーー今、大麻工場の話が出ましたが、あそこは観ていてとても印象的でした。素人のロキタが大麻栽培の手順をかなり具体的に教られるシーンがあり、「なるほど大麻はこうやって作れるのか」と知ることができるからです。その意味でかなり教育的なシーンだなとも思ったんですが(笑)。それは冗談として、とてもリアルなんだろうなと思ったのですが、リサーチなどはどうされたのですか?
リュック 私たちには警察で働いている親しい知人がいるんです。その人がちょうど麻薬密売の摘発などを担当しているので、闇社会でいかにして大麻が栽培されているのかを色々教えてもらいました。だから、おっしゃるように教育的と言えるくらい具体的なんです(笑)。もちろん本物ではありませんが、ほとんどあんな形で栽培されているんです。その人には感謝せねばなりませんね。
ーーそうだったんですね。しかし、本作はリアリズムに立脚していながら、同時に娯楽映画的な楽しさにも溢れています。とりわけ大麻工場で住み込みで働かされるロキタを、トリが助けに行くシーンの手に汗握るスリリングさには大変興奮させられました。社会に対する問題提起と、エンターテイメントとして楽しめるバランスというのを、監督たちは意識されているのでしょうか。
ジャン=ピエール もちろんです。私たちの作る作品は、何か1つの問題提起をして終わりというようなものではありません。社会批判もあれば、楽しめる部分もある。観客が興味をそそられ、なおかつ引き込まれるような作品を作りたいといつも思っています。だから、仰られたようなバランスは常に考えているし、それこそが私たちの仕事だとすら思っています。ただ、今回の作品はとりわけサスペンス性が強かったかもしれませんね。それは窮地に立たされる2人の友情がどこまで続くのか? という問いに関わっています。この問いをめぐる不安定さ、不完全さがサスペンスを発生させていると思います。
リュック 2人はヒーローとして生まれてきたわけではありません。強い友情で結ばれたからこそヒーローになり、勝利するわけです。結末を知っている人は、勝利などしてないじゃないかと思うかもしれません。しかし、そこで起きている出来事を注視すれば、2人が敗北したとは言えないと私たちは思います。
ーーありがとうございました。ところで、本作の上映時間は89分です。監督たちの映画は基本的に2時間以内に収まっていますが、3時間を超える映画も多い中、何か理由があるんですか?
ジャン=ピエール 確かに、最近は長い映画が増えていますよね。スピルバーグの新作(『フェイブルマンズ』)も2時間半でしたっけ? 私たちにも『息子のまなざし』など長い作品がありますが、それでも100分ちょっとです。その理由を説明するのは簡単で、私たちにはそんな長い映画が作れないというだけです(笑)。

Photos ©Christine Plenus
インフォメーション

トリとロキタ
アフリカから地中海をわたってベルギーのリエージュにやって来た少年トリと少女ロキタ。偽りの姉弟として生きる2人の強い絆と過酷な現実を描いたヒューマンドラマ。監督を務めたダルデンヌ兄弟は本作で9作品連続でのカンヌ国際映画祭コンペティション部門出品の快挙を成し遂げ、75周年記念大賞を受賞した。3月31日より公開。
プロフィール

ダルデンヌ兄弟
ジャン=ピエール・ダルデンヌとリュック・ダルデンヌによる兄弟コンビ。ドキュメンタリー映画製作を経て、1986年に『ファルシュ』で長編劇映画デビュー。ドキュメンタリー的な撮影方法で知られ、世界各国の映画祭で賞を受賞している。主な作品に『ロゼッタ』『ある子供』『少年と自転車』など。
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