カルチャー

目指せGEEK WATCH図鑑!!! Vol.10

写真・文/久山宗成 a.k.a. Donald

2022年12月30日

photo & text: Muneaki Kuyama a.k.a. Donald
edit: Yukako Kazuno

こんにちは。奇天烈な腕時計の沼にハマり気づいたらコレクション本数700本以上。
GEEK WATCH偏愛家のドナルドです。今回も東久留米の改造秘密基地からお届けします。
さて、今回特集するのは私ドナルドが大注目している1990年に〈SEIKO〉が仕掛けたプロジェクト『LE VENT』。YouTubeのGEEK WATCH CHANNELもぜひご覧ください。

カタログ資料提供:横森美奈子

1990年といえばバブル時代。秋篠宮さま御成婚、イラクのクウェート侵攻、東西ドイツ統一、雲仙・普賢岳噴火、即位の礼、秋山豊寛さん日本人初の宇宙飛行、オグリキャップラストランの有馬記念では有終が大きなニュースに。しかし、一番印象深かった社会現象は80年代後半から90年代にかけて、中高年男性のような言動をとる若い女性「オヤジギャル」だろう。スポーツ新聞で野球や競馬の記事を読む、立ち食いそばや牛丼、カツ丼などをかき込む、居酒屋で「プッハーッ!」、笑う時は「ダハハ」。そんな男性顔負けの女性たちのパワーを敏感に感じ取った〈SEIKO〉は、『女性の社会進出を後押しする』ために風を起こそうと考えました。そして、仕掛けたのがフランス語で風を意味する『LE VENT』プロジェクト。〈SEIKO〉は各界で大活躍していた外部の女性たちに腕時計のデザインを依頼。いわば、女性の憧れる女性オールスターチーム。外部のデザイナー、しかも腕時計デザインとはあまり縁がないクリエイターたちの斬新なアイデアにより歴史的にも類を見ない、交通事故的な優れたデザインの腕時計が誕生しました。

左から作詞家の阿木燿子さん。ファッションモデルの山口小夜子さん。ファッションデザイナーの横森美奈子さん。

オールスターメンバーが〈SEIKO〉の本気を感じさせます。

先ず紹介するのはファッションモデルの山口小夜子さんのデザインした腕時計。若い世代は知らないかもなので、山口小夜子さんをざっくり説明。(1971年にプロのモデルとしてデビューし高田賢三や山本寛斎のショーで注目を集める。1959年、また1972年にパリコレクションに起用され、次いでニューヨークコレクションにも出演。白い肌に切れ長の目の美しさを作り出す繊細なアイライン、高い位置のチーク、くっきり縁取った赤いリップによる彼女のエキゾチックな顔は、ヨーロッパで熱狂的に支持され、「SAYOKO マネキン」というマネキン人形が欧米のブティックを席巻した。)小夜子さんがデザインしたのは三日月の腕時計。私が知る限りケースも風防も三日月デザインの腕時計というのは類を見ない。 

『輝きは、失せることがあるから美しい。時と共に満ち欠けする月に心惹かれて月の欠片を腕にしてみたかった。月の放つ光は冷たいけれど、エネルギーはとても強いと思う。人が生きていくことへの影響も強い、月。月への想いが、時を泳ぐ風になる』ー『LE VENT』カタログ掲載の本人談話ー。

お次は作詞家の阿木燿子さん。若い世代は知らないかもなので、阿木燿子さんもざっくり説明。(1975年、「港のヨーコ・ヨコハマ、ヨコスカ」で作詞家としてデビュー。以後日本レコード大賞、日本作詞大賞など数多くの受賞がある日本を代表する作詞家の一人。)彼女が一番注目したのが風防。なんと風防を2枚張り合わせるというアイデアで、光が当たると文字盤に六芒星が浮かび上がるんです。

身につけていると、パワーが出てくる。透明の液体のイメージを詩にしたら、こんな形の時計に生まれ変わった。触れると気持ちが良くて、時と共に生きることを感じさせてくれる時計。自分の世界を解放するための時計。身につけた人はきっと風になる。ー『LE VENT』カタログ掲載の本人談話ー。

最後にパリダカーラリースト山村礼子さん。若い世代は知らないかもなので山村礼子さんをざっくり紹介。(パリ=ダカールに2度も挑戦した女性ライダーの草分け的存在)。

時間を身体に刻み込み、無意識のリズムにマシンを踊らす。そして、本能をアンテナにして進み続ける日々。無機質な砂の大地、延々と続く風の荒野。そこには、目に見えぬ宝石が散りばめられている。気がついたのは、幾度めの砂漠だっただろう。
風紋の一つ一つがくっきりと浮かび上がる満月の夜。この星を彩る全てのものたちの声が聞こえる。ー流れゆくことが生きることだーあの月は今も輝いている。オアシスのように。私のなかの宇宙で。ー『LE VENT』カタログ掲載の本人談話ー。

こちらが私が探し続けている幻のレアモデル。時計本体を明けると下にコンパスが隠されている。88,000円という値段も納得の仕上がり。

御覧頂いたように、今見ても斬新な『LE VENT』のシリーズは販売価格が高価だったこともあり、販売本数はごく僅か。全てのモデルが神の如くレアに。次回は今回紹介できなかった横森美奈子さんご本人が登場。開発秘話など当時のお話をお伺いしました。お楽しみに。

プロフィール

ドナルド魔苦怒奈流怒

久山宗成 a.k.a. Donald

くやま・むねあき | 改造活動家、企画編集者、GEEK WATCH偏愛家。ワタリウム美術館のミュージアムショップ地下中二階にて、2014年より改造見世物小屋『+R.I.P. STORE』を営む。様々なマテリアルや手法を組み合わせてジュエリー、腕時計、プロダクト、舞台美術などを制作している。趣味的に始めてどハマりしたGEEK WATCHのコレクションは今や700本以上。現在『GEEK WATCH PEDIA』なる本を編集中。

Instagram
https://www.instagram.com/geekwatch_tokyo/

https://www.instagram.com/kuyama_donald_muneaki