ファッション

僕の買い付け物語。/barr tokyo 古賀光歩

2021年11月21日

僕らの古着ワンダーランド。


illustration: Hirochika Machida
text: Ku Ishikawa
2021年12月 896号初出

古着といえば、やっぱり気になる買い付けのこと。
異国の地で何を見聞きし、どうやって探すのか?
中目黒にある古着屋『barr tokyo』の古賀光歩さんの買い付け物語。

 

パーティ前に偶然出合ったM-47カーゴパンツの山。

 兄と営む『barr tokyo』の買い付けは、フランスのリヨンに住む僕の仕事。現地の古着屋で週4日働きながら、週に3日は自分の店の買い付けをしています。現地に住んでいて助かることは、短期間に買い付けを集中させる必要がないことや、〝出る〟確証がない地域にも時間を気にせず行けること。フランスの車の9割がマニュアルなのですが、僕はオートマの免許しか持ってないので、移動は電車が多いですね。何より一番の強みはコミュニケーション。5年前にこちらに住むことになってから、フランス語を勉強し始め、今はもう不自由なく話せます。フランス語を話せる日本人ってそう多くないので、現地の人は面白がってくれるんです。カフェでお茶をしたり、食事やお酒を共にしたり。日本から来るバイヤーさんの多くはビジネスの話だけで終始するそうなので、逆に、売る・買うだけじゃない関係性を持つことができると、人脈も知識も自然に広がります。

 それに、日常生活の延長に買い付けがあるのは間違いなく良いところ。あるとき、友人の家のホームパーティへ行くことになり、場所を調べると、近くにミリタリーのサープラスショップがあって。上野の『中田商店』みたいなお店、と言うと伝わるでしょうか。名前だけは知っていたので入ってみたら、フレンチミリタリーの名品といわれるM-47カーゴパンツが売り場に何本か出ていて。「まさか」と思って倉庫を見せてもらうと、人間が10人は入りそうな麻袋にM-47がぎちぎちに詰まっていたんです! 前期・後期、いずれも全サイズ揃った状態で、すべてデッドストック。500本はありました。デッドストックなんて相当珍しいのに、それが山のように……。そのときの興奮は言葉にし難いですね。結局、閉店まで店の倉庫で仕分けをさせてもらい、友人の家に合流したのは夜のこと。バイヤーの先輩方が一つは持っている武勇伝的な仕入れが自分にもできたことが嬉しかったです。

 こんな話をすると、現地に住んでいれば誰でもできるんじゃ、なんて言われることも多いですが、今は世界中どこからでもInstagramでディーラーと連絡を取って買い付けできてしまう時代。良いものを見つけられるかは結局のところ努力次第なんです。その証拠にM-47事件みたいなことは、その後一回も起こっておらず、毎週末地道に足を使って買い付けをしています(笑)。

プロフィール

古賀光歩

こが・みつほ|1989年、佐賀県生まれ。バックパッカーを経て、『barr tokyo』バイヤーに。フランス現地でディーラー兼古着屋を営む『elephant vintage』のスタッフでもある。