フード

編集者・岡本仁の旅先コーヒー案内。

【大阪・神戸編】

2021年10月25日

コーヒーと旅の話。


photo & text: Hitoshi Okamoto
2021年11月 895号初出

好きなコーヒー店が見つかれば歩くのがさらに楽しい。

 東京で長く生活していると東京全体の位置関係、どっちが東にあるとか西にあるとかが、大まかに頭に入っているし、地下鉄やJRの路線図もだいたい記憶している。もしそれがないと、大きな街を歩くのはひと苦労だろう。

 ぼくは大阪へ何度も行っているのに、どうも全体像を掴めない時期が長く続いていた。キタやミナミがどこらへんを指すのかもわからない。でも、もちろんいまだって見えているわけではないのだが、この辺りなら地図なしでも歩けるとか、迷っても何とかなると思えるようになった最初のエリアは北船場のあたりだった。

 いちばん北が「大阪市立東洋陶磁美術館」で、いちばん南が『Udon Kyutaro』。このふたつに挟まれたエリアをひとつにしていいのかどうか自信はないが、うろうろする時になくてはならないのが『平岡珈琲店』で、ドーナツを食べながらコーヒーを飲むと、もう少し歩いてみようという気分になる。歩くと面白い建物や店が見つかるので楽しい。コーヒー店が東洋医学で言うところのツボで、そこを押さえると、いろいろな場所に血が流れていくかのごとく、この通りを真っ直ぐ行ってみようと歩き出す。歩いていて嬉しかったのは、ぼくの大好きな『出入橋きんつば屋』の暖簾分けした店が見つかったことだ。やはりコーヒーブレイクは大切なのである。

『平岡珈琲店』のドーナツ
平岡珈琲店
大阪市中央区瓦町
ここのドーナツが美味しいと教えてもらって行った店。そのドーナツは、先に知っていた京都の『六曜社』に似た味わいで、それ以来、必ず頼む。長く歩いて少し疲れた時に、このじんわりとした抑えめの甘さが、とても嬉しい。それにしても、この店があるエリアは本当に魅力的だと感じる。大阪府大阪市中央区瓦町3-6-11 ☎090·6244·3708 10:00~18:00 火休

 最近、このエリアのさらに北にある天満橋エリアをよく歩くようになったのも、やはり『ロングウォーク』という店を教えてもらったからだ。それまでは、目的の場所に行ったらすぐに引き返すというようなパターンばかりだったエリアに、やはり気に入ったコーヒー店ができると、他にもいいものが見つかるかもしれないと、付近を歩き始めるのである。そうしたら自然派ワインのバーが見つかった。

『LONG WALK』のカレー
LONG WALK
大阪市北区天神西町
若い店主が、ターンテーブルでジャズのレコードをかけている。通りに面した大きな窓からは、外の通りを行き交う人々や車がよく見える。それでも充分だが、付け加えるならカレーも美味しい。そういえば、ぼくが昔から好きな喫茶店は、コーヒーだけではなくカレーも美味しいところが多かったなあ。大阪府大阪市北区天神西町8-19 ☎なし 8:00~19:00、土・日・祝9:30~18:00 木休、不定休あり

 ぼくは大阪に来ると阪急梅田駅に行きたくなる。あの美しい阪急電車の車体を眺めているうちに、それだけでは物足りなくなり、そのまま電車に飛び乗る。そして神戸三宮まで。このキャラクターの大いに違うふたつの都市も、特急ならわずか30分しかかからない。そこから歩いて『エビアンコーヒー』に行く。いや、エビアンは朝早くに行って朝ごはんを食べるほうが好きだ。だから神戸元町のホテルを予約して、翌日のコーヒーをここで飲む。大阪へ行くのはその日の夕方だ。そして大阪淀屋橋のホテルに泊まって、翌朝は朝ごはんにうどんを食べる。

阪急電車
阪急電車
写真を撮っている自分が写り込んでしまうほどにピカピカに整備が行き届いた電車。そのカラーリングも美しい。この電車に乗ること自体が楽しみのひとつになっている。特に阪急梅田駅で次々と入ってくる電車、そして発車する電車を見るのが好きだ。ただ、可能な限り地下街には入らないようにする。梅田の地下では迷うことが多い。それも一度や二度ではない。なかなかの迷路だと思う。
エビアンコーヒー
エビアンコーヒー
神戸市中央区元町通
よく泊まるホテルは、この店の近くにある。というよりも、この店の近くのホテルを探したのだ。白いシャツにネクタイ、あるいは白い上着を着た男性が働くカフェというのは、それだけで気持ちが良いものだ。そして椅子に張られた緑のビニール。古い映画を観ているような心持ちになってくる。兵庫県神戸市中央区元町通1-7-2 ☎078·331·3265 8:30~18:30、日・祝9:00~18:00 第1・3水休

 神戸で忘れてはならないのは『六珈』という店。ここも友人が教えてくれた。というか友人の友人の店だ。そんな訳だからこの店のご主人と一緒に酒を飲みに行ったことがある。その時に水道筋の面白さを知った。たぶんここでコーヒーを飲まなければ、ひとりでは行こうと思わないエリアだろう。

『六珈』
六珈
神戸市灘区八幡町
阪急神戸線の六甲駅の近くにある。主人は座ってコーヒーを淹れる。ぼくはこの店のコーヒー券を買って、店に預けている。あと何枚、残っていただろう? ときどき、コーヒー券を壁に貼り付けた喫茶店を見かけることがあるが、ぼくにとってはそれはファンの多さの証であるように見える。兵庫県神戸市灘区八幡町2-10-5 ☎078·851·8620 10:00~18:00 日休、不定休あり

 一目で観光客とわかるような人は見当たらない。彼が案内してくれる店もそうだった。学校帰りの小学生が商店街に入っていくと、あちこちから「おかえり」の声。いい光景が見られた。

コロンボ・コーナーショップ
コロンボ・コーナーショップ
大阪市中央区南久宝寺町
古本店だが、コーヒーも飲める。ぼくはこの店と相性がいいのか、探していた本が安価でよく見つかる。買ったばかりの本を手に店の外に置いてある椅子に座り、コーヒーを飲みながらニヤニヤ。その椅子の後ろには飾り窓があって、店内から見た時は気づかなかった本が置いてあり、それが欲しくてまた店に入るということもあった。大阪府大阪市中央区南久宝寺町4-3-9 ☎06·6241·0903 13:00~19:00 水休

プロフィール

岡本仁

編集者。 小社で『BRUTUS』『relax』『Ku:nel』などの編集に携わった後、〈ランドスケーププロダクツ〉に参加。「manincafe」のIDで日本全国、世界各地を旅した様子をインスタにポストしている。「コーヒーブレイクは大切ですね」のフレーズとともに喫茶店やカフェの記事も数多く執筆している。著書に『ぼくの鹿児島案内』『東京ひとり歩き ぼくの東京地図。』など。