カルチャー
兵庫のレコード店『Tobira Records』が教えてくれた、ユニーク・レコードの世界。
2021年4月7日
photo: Hiroshi Nakamura
edit: Yu Kokubu
2020年9月、兵庫県加西市に新たなミュージック・スポット『Tobira Records』が誕生した。店主はアンビエント作家のHakobuneこと、依藤貴大さんだ。”朝8時に開店するレコード店”というだけでかなりユニークな存在だが、今回はお店を始めたきっかけを伺いつつ、”ユニーク”にかけて、お店で存在感を放っている視覚的にユニークな作品の魅力について話を聞いた。
——『Tobira Records』さんは視覚的にユニークな作品が多くて楽しいです!(上のカセットテープなんてほぼ笛ですもんね!) あまり見かけない作品ばかりで、ジャンルとしてはちょっと狭いような気もするのですが、楽しみ方があればぜひ教えてください!
依藤貴大(以下、依藤) 日本の音楽メディアをまったく参考にしていないので、一般的な感覚からは確かにズレまくっているかもしれませんね(笑)その点では狭いかと思いますが、自分が心をくすぐられる作品はジャンル分け隔てなくセレクトしていますので、実験音楽からヒップホップやテクノ、ハウス、ジャズ、R&B、ポップと、ジャンルは幅広いと自分では思っています。音楽は目に見えないものですが、レコードやカセット、CDなどフィジカルなフォーマットを通して聴くと、不思議と記憶に焼きつきます。普段サブスクリプションばかりで音楽を聴いている方は、お気に入りの音楽をフォーマットを通して聴いてみてください。絶対に耳が喜ぶはずです。それと、DJの方におすすめしたいのがカセット音源の「リッピング」。デジタルファイルと比べるとひと手間かかるのですが、出音が劇的に変化するはずですので是非お試しください。
——お店を出店された経緯もお伺いしたいです。
依藤 サブスクリプションだけでは味わえない音楽の魅力を伝えたい、と考えたのもレコード店を開店した理由ですが、音楽が好きな方とダイレクトに繋がりたいというのが大前提にあります。また、埋もれがちな作品を国内外へ提供したいというのも開店の理由です。私が普段作品を発表しているレーベルや、個人的によく購入しているレーベルの作品は、各作品を少部数でリリースしていくレーベルが多く、国内のレコード店にはほとんど流通していません。なので必然的に海外から購入するのですが、作品が届くまでに時間を要したり、送料を含めると結構な金額になってしまいます。国内にも”ニッチな作品をリーズナブルな価格で提供するレコード店”があれば良いなと思い、自分でやってみることにしたんです。入荷リクエストも承っておりますので、お気軽にご連絡いただけましたら幸いです。
ロシアから届いたユニークな作品
ベルギーから届いたユニークな作品
——お店には何カ国ほどの商品があるのでしょうか?
依藤 欧米からアジアまで約20ヵ国のレーベルから仕入れています。日本の作品も多く取り扱っていて、例えば3月のインストアイベントに出演された内田静男さんの主宰レーベル<haang niap Records>のものなど、私自身が音楽活動を通じて出会ったミュージシャンの作品を中心に取り扱っています。鈴木昭男さんのDVDなど、有名作家の国内であまり出回っていないものなども置いてます。中古盤や中古機材も多く取り扱っていますが、そちらは店舗のみの販売になります。
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2階が店舗。 -
内装は自分たちの手で。案内板もかわいい。 -
陽当たり抜群。 -
どどんっ。厳選された中古盤は実店舗のみで販売。 -
店主の依藤さん。週1でスノーボードへ行くのが最近の趣味。 -
隅々まで見たくなる壁一面のフライヤー群。
——インストアイベントの他に、極寒でアンビエントを聴くユニークな野外イベントも開催されていますが、『Tobira Records』は今後どうなっていくのでしょう?
依藤 ただ珍しい音楽を販売するのではなく、新たな聴覚体験を提供していきたいという想いから、積極的にイベントを企画しています。毎月のインストアイベントを継続し、ローカルシーンを築いていきたいです。直近では採石場での野外イベントを企画中。今夏までにレーベルもローンチしたいと考えています。また、先日市役所職員さんから依頼があり、ふるさと納税の返礼品を計画しています。
——採石場…すごいです。ちなみに、依藤さんが過去出合った「ユニークな音楽」は誰のどんな作品でしたか? 驚かされた作品があれば知りたいです。
依藤 2008年頃に発見したアメリカのカセット出版ブームに驚かされました。当時大学生で、京都にある『Meditations』というレコード店でバイヤー業務を担当していたのですが、アメリカで続々と良質の音楽カセットレーベル(とりわけRollOver Rover、Stunned、Digitalis)が誕生していました。今カセットフォーマットが盛り上がっているように見えますが、この頃が第一次カセットムーブメントだったように思います。
——今回お話ししてみて、「作家としての依藤さん」と、「店主としての依藤さん」にギャップを感じたのですが、個人としてユニークであること、ユーモアであること、などに対して意識していることはありますか?
依藤 私が制作している音楽はアンビエントにカテゴライズされるので、どうしても静かな印象がありますが、実際は喋ることが好きなのでよくギャップがあると言われます(笑)それはやはり関西人としてのDNAが大きく関係していると思います。関西で生まれ育った方はお分かりかと思いますが、「オチのない話は御法度」や「誰かがボケたら的確なタイミングでツッコミを入れなければならない」という暗黙のルールが根付いております。小学生の頃から、あるシチュエーションを決めてボケるというような遊びをしていたので、鍛え上げられました。
——色々教えていただきありがとうございました!最後に、依藤さんにとって”ユニーク”とは!
依藤 自分らしくあることかと思います。私自身、アンビエントを主として制作していますが、東京在住の頃はクラブに足繁く通っていましたし、とにかくいろんな音楽を聴きたいと常々感じています。また、今は週に一度はスノーボードにも行っています。アンビエント作家としてはユニークのような気がします。ゼロベースでシーンを築きたいという想いも、ユニーク性の表れかと思います。誰かのマネをするのではなく、ゼロから築き上げたものは必ずユニークなものになると信じています。そもそも、朝8時にオープンするレコードショップは世界中を探してもTobiraだけではないでしょうか(笑)
インフォメーション
Tobira Records
Official Website
https://tobirarecords.com
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