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Go with the 風呂〜 Vol.9/韓国伝統サウナ スッカマ【中編】

写真・文/大智由実子

2021年9月15日

photo & text: Yumiko Ohchi
background artwork: Fujimura Family
edit: Yu Kokubu

周りを見渡すと、駐車場の入口付近に小さな小屋があるのが見えた。半ベソ状態で小屋まで駆け寄ると、そこにはおじさんが二人いた。事態を飲み込めていないが嫌な予感だけはビンビンに察知していた私は、藁にもすがる思いで「アンニョンハセヨ(こんにちは)」と話かけてみた。おじさん達は韓国語で何か言いながら「今はやってないよ」的なジェスチャーをした。あわてて英語で「日本からスッカマに入りに来たのですが、入れますか?」と聞いたが、おじさん達に英語は伝わらなかった。ソウル市内では、たいてい店員の若い子達とは簡単な英語が通じていたのでたかを括っていた。ここにきて言葉の壁によるディスコミュニケーションというピンチに。

そういえば、スマホに日韓の翻訳アプリを入れていたことを思い出し、Wi-Fiが使えないか「ワイパイ?」と聞いてみた(※韓国ではWi-Fiを「ワイパイ」と発音する)。おじさん達は「ノー・ワイパイ」と返してきて、「4Gなら入るよ」的な感じでスマホを見せてきたが、私のスマホは日本仕様なので4Gは入らない。文明の利器も使えず、言葉も通じず、もどかしくなった私はとにかく「日本からわざわざスッカマに入りに来たんだ!」という情熱を伝えれば事態は好転するだろう、スッカマへの愛を伝えよう!愛があれば困難を乗り越えられる!と思い、おじさん達に向かって手でハートマークを作り「アイラブ・スッカマ!」と「フロム・ジャパン!」を繰り返した。そのくらいの簡単な英単語であれば通じたのか、それとも私の愛が通じたのか、おじさん達は目の前にいるかわいそうな日本人に同情を示し始めた。涙目に手でハートマークを作り「アイラブ・スッカマ!」を繰り返す私におじさんは「ちょっと待ってね」的なジェスチャーをして、スマホに何やらポチポチと打ち込んでから、スマホを向けると「何か手伝えることはありますか?」とロボットのような女性の声が。おじさん達が翻訳アプリを使って私とコミュニケーションを取ろうとしてくれているのだ。一筋の光が差し込んだ。

おじさんのスマホは日本語入力が出来ないから、韓国語→日本語の一方通行だけど、私はとにかく簡単な英単語を使ってなんとかおじさん達とコミュニケーションを図った。

どうやら管理人らしきおじさん達によると、今カマゴルランドは改装工事のため二ヶ月間の休業中で、9月末頃オープン予定とのこと。これはどうあがいてもカマゴルランドのスッカマには入れない、ということがわかった。結構大変な思いをしてこんな山奥まで来たのに…と、引くに引けなくなった私はせめて本場のスッカマだけでも見てみたい、と思い「キャナイ・ルック・スッカマ?」「フォト・OK?」と聞いてみたらおじさん達は「OKOK!」と、中へ入らせてくれた。

こんな感じの炭窯が奥までズラーッと並んでいる。

スッカマの窯場はやはり市内のスッカマより広く、窯の数も10個ほどあった。事態を飲み込んで自分を落ち着かせながら写真を数枚撮り「さて、これからどうしよう…大人しくソウル市内まで戻るか?」と考えながらガックリ肩を落としておじさん達のいる駐車場入口までトボトボ歩いた。

日本からスッカマに入りに山奥まで来たのに運悪く入れなかった可哀想な日本人の私に同情したおじさん達は、また翻訳アプリで「何か手伝えることはありますか?」と聞いてきてくれた。その優しさにウルウルしながら「この辺りに他にスッカマはありますか?」と聞いてみた。おじさん達は顔を見合わせながら「あそこがあるな」的な感じで話し合ってから私に「カー(車)」と言いながら車の運転をするジェスチャーをした。私は車で来ていないから行けない、と伝えるとおじさん達が車で送ってあげるよ、的なことを言ってきた。冷静に考えれば、女ひとり、異国の地、しかも人里離れた山奥で知らないおじさんの車に乗り込むなんてヤバい話なんだろうけど、その時の私には人を疑う余地は1ミリもなかったし、おじさん達と言葉の壁を超えてハートでつながっている感覚があった。私には、目の前にいるのはおじさんの着ぐるみを着た天使にしか見えなかった。とにかく感謝の気持ちでいっぱいで「カムサハムニダ!」を連呼して天使の車に乗り込んだ。

カマゴルランドからさらに車で山道を上り、ずんずんと山奥へと入っていった。道すがら、日本の山奥にもあるようなド派手なラブホテルなんかもちらほら見えたが、相変わらずおじさん達(=天使)に全幅の信頼を寄せていた私に「襲われたらどうしよう…」という不安はなかったが、唯一気がかりなのは「どうやってソウル市内に戻るのか?」ということ。市内と通じているバスのターミナルなんてとっくの昔に通り過ぎた。もちろんタクシーなんて走っていない。「まぁいいや。サイアク帰れなかったらその山奥のスッカマで住み込みで働こう」と腹を括った。

道中に車の中ではおじさん達とカタコトの英単語と知っている限りの韓国語で会話をしていた。私が「昨日スプソク漢方ランドでスッカマ体験をしてきたよ」ということを伝えたら、おじさん達は「あ〜」と残念そうな声を出して首を横にブンブン振りながら「スプソク、イミテーション!」と言ってきた。つまりは「スプソクのスッカマは偽物だよ」と伝えたかったんだろう。続けて「カマゴル・イズ・ベスト!」とニコッと笑って親指を立ててきた。

スプソク漢方ランドのスッカマでも普通に気持ちよくなっていた私は、余計に本場のスッカマ、カマゴルランドへの期待が高まった。

執筆者プロフィール

大智由実子

2012年よりMARGINAL PRESS名義で洋書のディストリビューションを行ってきたが2017年に活動休止し、世界中の様々なサウナを旅する。サウナライターとして花椿webにて『世界サウナ紀行』を執筆する他、サウナ施設の広報も務めるなど、サウナまみれの日々を送る。のちにサウナのみならず銭湯や温泉などお風呂カルチャー全般に視点が広がり、個性強めなお風呂を探究して現在に至る。お風呂以外の趣味は昭和の純喫茶とおんぼろ大衆食堂を巡ること。

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