TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】アーティストインレジデンスとは何か

執筆:久保寛子

2026年11月4日

 羽田空港を出て、一昨日ニューヨークに着いた。こちらは思ったよりも暖かく、日中は日差しがポカポカ気持ち良い。

 今回、20年ほどぶりにここを訪れた理由は2つある(前回は大学生のとき、バックパッカーとして1週間ほど滞在した。20ドルくらいの安宿に泊まってひたすら歩き回ったの、懐かしい)。

 ひとつ目は、自身の所属galleryである『Ulterior Gallery』での個展準備のため、そして2つ目は、アーティストインレジデンス「KINOSAITO」に滞在するためだ。

「KINOSAITO」はマンハッタンから車で1時間ほど北のverplanckという町にあるアートセンター。築100年以上の元カトリック学校をリノベーションした敷地内に、ギャラリー、スタジオ、シアターと教室、宿泊施設が併設されている。同時に2名まで滞在できるレジデンスは、広いスタジオのロフト部分が寝室になっている最高の環境だ。

 アーティストインレジデンスを行う者の目的は、アーティストと場、人、モノとの化学反応による活性化や新たな価値づくりにあると思う。アーティスト側にとっては、非日常の環境に身を置くことで、新たなインスピレーションやアイデアを得ることが大きな目的だろう。

「KINOSAITO」から車で30分の「Dia Beacon」。20年前ここを訪れて彫刻家になろうと決意した。

 美術館や行政、個人や非営利団体などアーティストインレジデンスの運営組織はさまざまであるが、その根底には「芸術文化の底支え」という意識があると思う。現在進行形で芸術をかたち作っているアーティストに考える、生きる場を提供し、展示などのアウトプットではなく制作行為自体に影響を与える。自身の経験からも、その影響力の多大さは実証済みだ。

 作品を購入したり展示場所を提供することとは別の、アーティストを支援するシステムがアーティストインレジデンスなのだ。

 昨年滞在したメキシコ「CASA WABI」は、アーティストのBosco Sodiとその一家が設立した施設であり、現在滞在している「KINOSAITO」も、日系アメリカ人画家サイトウ・キクオ氏の意思を継いで妻のミキコ氏が設立した施設である。

 アーティストがアーティストを助けるというシステムに私はとても興味がある。芸術的成功によって得た利益や経験を若い世代に還元する。これは投資というよりもアートという信仰を継承するための献金/布教のような感覚ではないかと思う。

 私自身もこれまでアートという世界に多くを学び、助けられてきた。また多くのアート界の先輩方に恩恵を受けてきたからこそ、いつか私もレジデンスという場という場を運営してみたいと思っている。今回ニューヨークに来て、いっそうその思いが確かになった。

CASA WABI 2025

NYの〈Ulterior Gallery〉で行う個展情報はこちら↓
https://www.ulteriorgallery.com/hiroko-kubo-falling-angel

「KINOSAITO」のアーティストインレジデンスの概要はこちら↓
https://www.kinosaito.org/future-resident-artists

プロフィール

久保寛子

くぼ・ひろこ|1987年、広島県生まれ。テキサスクリスチャン大学美術修士課程修了。現在は千葉県旭市を拠点とし、先史芸術や民族・民俗芸術、文化人類学などにまつわる学説のリサーチをベースに、ワイヤーメッシュや農業用シート、防風ネットなどの工業製品を用いて彫刻作品を制作する。自然の脅威や遺物の破壊と再生、周縁化されてきた女性の表象などをテーマに、神話や祈りがかたちをなす偶像や、人々の暮らしの中から生まれた実用品に宿る美について、作品を通じて現代的な視点から再考を促す。Casa Wabiレジデンスアーティスト(2025年)、広島文化新人賞(2022年)、六甲ミーツ・アート公募大賞(2017年)受賞。KAMU KANAZAWA(石川)、おおさか創造千島財団(大阪)、株式会社 IZAK(富山)などに大型作品が収蔵されている。2017年より広島で『オルタナティブスペース コア』を運営している。

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