TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#2】渦 UZU〜メキシコ・愛知編〜

執筆:久保寛子

2026年10月21日

「青い四つの手を持つ獅子」 あいち国際芸術祭2025

最近は「渦」についてよく考えている。
人の渦、場の渦、空気の渦、渦文様ーー

『メキシコ国立人類学博物館』で見た遺物

自分がイメージする渦とは、回転しながら中心に向かっていく力。
大きくなったり小さくなったり、強くなったり弱くなったりしながら動き続ける運動体。

山梨県にある『釈迦堂遺跡博物館』の縄文土器

人々が集まってくる場、多くの人たちを惹きつける人やモノに出会ったとき、それらを中心とした見えない渦がある。逆に、悪いことばかり続くときや、治安の良くない場所などには文字通り負の「スパイラル」があるように感じる。

近年、自分の人生で感じた不思議な渦の話を書いてみようと思う。

2025年の春、私は2ヶ月間メキシコに滞在した。2週間ほどをメキシコシティ、6週間をオアハカ州のアーティーストインレジデンス「CASA WABI」で過ごした。

メキシコシティでの一つの目的は壁画運動時代の作品を生で見ることだった。「メキシコ壁画運動」とは、1920〜1930年代にかけて、ディエゴ・リベラやシケイロスなどの画家たちによって起こされた絵画を使った社会運動だ。

世界では2022年にロシアによるウクライナ侵攻、2023年にイスラエルによるガザ地区侵攻が始まった。爆撃、虐殺、瓦礫、傷つき泣き叫ぶ子供の映像、“核兵器使用の示唆”や“genocide”など、時代を逆再生しているような情報がスマホ画面に流れてくる。バーチャルとリアリティの境界がボヤけたイメージをスクロールするうちに、悲しみや怒りの感情は失望に変わっていった。

壊れゆく人間性と社会秩序を前にして、アートは極めて無力で無意味なもののように思えて仕方がなかった。

そんな中、メキシコに降り立ち、芸術で社会を変えれると本気で信じていた活動家/芸術家たちの作品を目の前にして、私は衝撃と勇気を与えられた。彼らから(勝手に)芸術のバトンを手渡された気すらしていた。

日本に帰って、「あいち国際芸術祭2025」に出展するための新作に取り掛かる。

メキシコ滞在中に構想を練っていた、高さ18メートル、幅11メートルのブルーシート巨大タペストリー。テーマは人類史における「災」。

自分にとってこの作品は、現代文明の暗闇を直視し、アートの無力さも認めつつ、それでも創作の手を止めないという、自分なりの抵抗の表明であった。

作品が公開されてから間も無く、instagramを通してあるミュージシャンが作品を見てくれたことを知る。

次に続く。

プロフィール

久保寛子

くぼ・ひろこ|1987年、広島県生まれ。テキサスクリスチャン大学美術修士課程修了。現在は千葉県旭市を拠点とし、先史芸術や民族・民俗芸術、文化人類学などにまつわる学説のリサーチをベースに、ワイヤーメッシュや農業用シート、防風ネットなどの工業製品を用いて彫刻作品を制作する。自然の脅威や遺物の破壊と再生、周縁化されてきた女性の表象などをテーマに、神話や祈りがかたちをなす偶像や、人々の暮らしの中から生まれた実用品に宿る美について、作品を通じて現代的な視点から再考を促す。Casa Wabiレジデンスアーティスト(2025年)、広島文化新人賞(2022年)、六甲ミーツ・アート公募大賞(2017年)受賞。KAMU KANAZAWA(石川)、おおさか創造千島財団(大阪)、株式会社 IZAK(富山)などに大型作品が収蔵されている。2017年より広島で『オルタナティブスペース コア』を運営している。

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