TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】キノコ日記

執筆:菅原徹

2026年11月3日

秋の終わり、森に冬の冷たい気配が立ち込め始める頃になると、頭に浮かぶキノコがある。「ホンセイヨウショウロ」——いわゆる「和製白トリュフ」だ。

落ち葉をかき分けたその先、土の中にひっそりと息づくこのキノコは、「地下生菌(ちかせいきん)」と呼ばれる少し珍しいタイプのものだ。数年前にテレビの特集で取り上げられて一躍注目を集め、一時期は一攫千金のトリュフを追い求めて山へ足を踏み入れる人が急増したこともあった。しかし、本場イタリア産のトリュフに比べるとその香りはとても控えめで優しく、黒トリュフと比べても採れる量はほんのわずかだ。どこか奥ゆかしく、知る人ぞ知る存在なのだ。

地上に顔を出すキノコたちが不作に泣いた、いわゆる「ハズレ年」の今年だったが、冷たい土の底で静かに眠る彼らは、地上の気まぐれな天候をどこ吹く風と受け流していたらしい。例年と変わらない凛とした姿を見せてくれたときには、心からほっと胸を撫で下ろした。

山に通い詰めていた若い頃のように、たくさんの収穫量を追い求めて一喜一憂する時期はもう過ぎたのだと思う。今の私にとって何よりの贅沢は、毎年決まった秘密の場所を訪れ、「今年も無事に生えてくれたな」と、その小さな命を確かめる静かなひとときだ。

キノコや山菜を探し歩くとき、私は決して根こそぎ持っていくような真似はしない。 見つけたものを全て採り尽くしてしまうと、森に広がるはずの胞子が減り、次の年に同じ場所から芽吹く命の数も確実に少なくなってしまうからだ。来年もまたこの場所で変わらぬ姿と再会するために、半分は山への感謝として、しっかりと残しておく。それが山を歩き、山の恵みをいただく者が守るべき、大切な作法なのだと思っている。

自然への畏敬の念とマナーを胸に刻み、これからも私らしいペースで楽しくキノコハンティングを続けていきたい。
もし「自分もキノコの世界を覗いてみたい」と興味を持ってくださった方がいるなら、いきなり奥深い山を目指す必要はまったく無い。まずは身近な公園や近所の小さな林に足を運び、ゆっくりと足元を眺めてみることから始めてみてはいかがだろうか。本屋さんの棚に並ぶキノコ図鑑を一冊手にとり、ページをめくりながら目の前の小さな生命と見比べてみるだけでも、これまで気づかなかった新しい世界が足元に広がっていることに驚くはずだ。

ただし、山を愛する一人として、これだけは強くお伝えしておきたい大事な約束事がある。「正体の分からないキノコは、決して自己判断で口にしないこと」

自然の毒は時として容赦なく、私たちの命を脅かす。知識のない自己判断ほど危険なものはない。安全に、そして奥深いキノコの世界を本当の意味で楽しむためにも、最初はぜひ、山を熟知した知識のあるハンターと一緒に足を踏み入れることを心からおすすめしたい。

プロフィール

菅原徹

すがわら・とおる|1987年生まれ。地元岩手県矢巾町で18歳の時から祖父、父と山に入り、「キノコや山菜は生活の一部」という環境で育つ。キノコ・山菜歴は18年。岩手菌類研究同好会所属。岩手県・住田町でのきのこ講座、盛岡つどいの森での採取会、県内各地の緑化センターなどで、きのこの見分け方指導や展示などの活動をする。

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