TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#2】キノコ日記

執筆:菅原徹

2026年10月20日

あたりはまだ薄暗く、森の中はしんと静まり返っている。目的のキノコが生える場所を目指して歩くこの時間が、一番ドキドキして楽しい。

周りを見渡すと、木々は色づき、程よく葉が落ち始めていた。下草が枯れ始めてきたのも、秋のキノコが顔を出す合図だ。絶好の雰囲気に胸が高鳴る。

森の中には看板も道標もない。目に入るのは木々と斜面だけだ。自分だけの目印を頼りに、目的の木を目指して先へ進む。

ちなみにキノコは、その生態から大きく3つのグループに分けられる。倒木や枯れ木などを分解する「木材腐朽菌」、生きた樹木の根と共生する「菌根菌」、そして生きた植物や昆虫に寄生する「寄生菌」。その時に狙うターゲットによって、探すべき場所や視点の置き場が変わってくるのだ。

キノコはいわば「森の掃除屋(分解者)」である。木の硬い成分であるリグニンやセルロースを分解できる生物は、地球上でもごくわずかしか存在しない。キノコはこれらを強力な酵素で分解し、最終的に豊かな土へと還していく。もしキノコがいなければ、森の中はあっという間に倒木や枯れ木で溢れかえってしまうだろう。

さて、今回の狙いは私が一番好きなキノコ「香茸(コウタケ)」だ。

ここはライバルも多いポイントで、以前目をつけていた場所を丸ごと採られてしまい、悔しい思いをしたことがある。キノコは基本的に毎年同じ場所に生えるが、松茸や舞茸のように目印となる分かりやすい環境があるわけではない。雑木林に生えることくらいしか分かっておらず、探すのは至難の業だ。だからこそ「幻のキノコ」とも呼ばれている。

宝探しにおいて重要なのは「最初の1個」を見つけることだ。1個さえ見つけられれば、その近くには必ずと言っていいほど仲間が潜んでいる。

一般的には「斜面を下から見上げるように覗く方が見つけやすい」と言われているが、私の場合、なぜか山を下っている時の方が発見しやすい。

気配を殺すようにあまりガサガサと動かず、貴重なキノコを踏みつけてしまわないよう歩き回らずに、まずは目だけでじっくりと周囲を探す。そして、いざ見つけた時も決して慌てない。足元や落ち葉の陰など、周りにも隠れていないか注意深く視線を走らせるのだ。

息をのんで落ち葉の重なりを見つめる。

……見つけた。まるで森の保護色に守られるように、堂々と根を張る香茸の姿が目に入った。近づくにつれて、落ち葉の匂いに混じって香茸特有の芳醇な香りがふわりと鼻腔をくすぐる。この瞬間があるから、早朝の山歩きはやめられないのだ。

興奮を鎮めながら背負い籠を下ろし、私は丁寧にナイフを取り出した。

見つけた香茸は、持参したナイフを使って石突(いしづき)の汚れや土をきれいに削り落としてから、静かに背負い籠へと納める。

早く次のポイントへ向かいたい気持ちもあるが、この場で丁寧に下処理をしておくことが何より大切なのだ。土や落ち葉、ゴミがついたまま籠へ放り込んでしまうと、歩く振動でキノコのカサの裏に土が落ち、隙間に入り込んでしまう。そうなると、家に持ち帰った後の下処理がとてつもなく大変になってしまうからだ。

焦る気持ちをグッと抑え、手元の一石一石、一枚一枚と向き合う。こうした山の中でのひと手間が、最高の状態で持ち帰るための大切な秘訣なのだ。

プロフィール

菅原徹

すがわら・とおる|1987年生まれ。地元岩手県矢巾町で18歳の時から祖父、父と山に入り、「キノコや山菜は生活の一部」という環境で育つ。キノコ・山菜歴は18年。岩手菌類研究同好会所属。岩手県・住田町でのきのこ講座、盛岡つどいの森での採取会、県内各地の緑化センターなどで、きのこの見分け方指導や展示などの活動をする。

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