TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】キノコ日記

執筆:菅原徹

2026年10月13日

キノコといえば「秋の味覚」というイメージが強いかもしれない。しかし、実は季節を問わず、一年中その姿を見ることができるのをご存じだろうか。
春に地面から顔を出すアミガサタケやハルシメジ。夏になれば、鮮やかな色彩で山を彩るタマゴタケや、濃厚な旨味を持つチチタケが採れる。そして真打ちとも言える秋のコウタケやマツタケを経て、冬の寒さの中ではヒラタケやエノキタケ、ナメコなどがひっそりと息づく。キノコの本体である「菌糸」は、土の中や朽ち木の中で途切れることなく、一年中命を繋ぎ続けているのだ。

とはいえ、やはり秋がたくさんの種類のキノコたちに出会える最高のシーズンであることに変わりはない。今年も狙いの獲物を確実にゲットするため、私は早くから入念なスケジュールを立て始める。
その際、何よりの道標となるのが、毎年欠かさず書き溜めている「キノコ日記」だ。ベテランのキノコハンターなら誰もが持っている、秘密のメモや日記帳。そこには、何年にもわたって蓄積された膨大なデータが眠っている。もっとも、発生ポイントや日付がごちゃごちゃと殴り書きされているため、時に自分自身ですら解読に苦しむこともある。
桜前線とは逆に、キノコ前線は北から南へと南下してくる。その年の雨量や気温のわずかな変化が、発生のタイミングや量に劇的な影響を与えるため、少しでも油断しているとあっという間に旬のピークを採り逃してしまう。特に最盛期ともなれば、一瞬たりとも気が抜けない。だからこそ本番が始まる前には、キノコが少しでも顔を出していないか、何度もソワソワと山の様子を見に足を運ぶ。いわゆる「段取り八分」。このもどかしくも愛おしい準備期間こそが、キノコ採りの醍醐味の一つなのだ。
そしていよいよ迎える本番当日。キノコ採りの朝は驚くほど早い。
午前4時、あたりはまだ深い闇に包まれている。前夜のうちに用意しておいた背負い籠に、愛用のナイフと手袋を詰め込む。まだ眠っている家族を起こさないよう、そっと家を出る。

キノコ採りの朝が早いのには、それだけの理由がある。
まだ夜が明けきらない時間帯は、涼しくて虫も少ないため山を歩きやすい。また、太陽が昇ってしまうと、光が落ち葉や草に反射して、お目当てのキノコがカモフラージュされて見つけにくくなってしまうのだ。
誰よりも早く目的の山へ入り、ベストな大きさのキノコを 見つけるためにも、起きるのは早ければ早いほど良い。
期待に胸を膨らませて静まり返った山道を歩き始める。

プロフィール

菅原徹

すがわら・とおる|1987年生まれ。地元岩手県矢巾町で18歳の時から祖父、父と山に入り、「キノコや山菜は生活の一部」という環境で育つ。キノコ・山菜歴は18年。岩手菌類研究同好会所属。岩手県・住田町でのきのこ講座、盛岡つどいの森での採取会、県内各地の緑化センターなどで、きのこの見分け方指導や展示などの活動をする。

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