カルチャー

カーディナルズは、エブリデイ・ホリデーだ!

アイルランド・コークからやってきた気鋭のオルタナティブロックバンドにインタビュー。

photo: Kawazumi Daikichi
text: Miu Nakamura
edit: Ryoma Uchida

2026年11月3日

「バンドを組む前から僕らは友達で家族なので、こうやって時間を過ごすことはとても自然なことなんです。」と語るのは、アイルランド第2の都市、コークを拠点とするオルタナティブバンドCardinals(カーディナルズ)の5人。兄弟と従兄弟、その幼馴染からなり、メンバー全員が23〜25歳。今年2月にリリースした1stアルバムでは、ダークで荒っぽい“生”を感じるサウンドメイキングに幻想的なリリック、そこに美しく響くアコーディオンの音色を巧妙に溶け込ませ、前作からさらなるジャンプアップを遂げた。その音像を紐解くべくいろいろ聞いてみると、音楽に限らず尽きることない探究心を燃やし続けるディガーであることはもちろん、気のおける家族で親友のメンバーと毎日ゆるーく楽しむ肩の力が抜けたラフな姿も垣間見えた。楽曲制作についてから、最近買ったレコードの話、地元のユースカルチャー、今ハマってるゲームまで。“エブリデイ・ホリデー”に過ごす、シックでクレバーでチャーミングな彼らの魅力をお届け。

今年2月に発表されたニューアルバムを聴きながら読んでみてね〜。

左から、ダラー・マニング(Dr)、アーロン・ハーレー(Ba)、オスカー・グディノヴィック(Gt)、ユアン・マニング(Vo/Gt)、フィン・マニング(Accordion)

時間、それは無限に潰せるもの。

ーーこんにちは〜、お会いできて嬉しいです! 来日中にすでに訪れた場所はありますか?

オスカー 今回は東京だけじゃなく、関西へも行くことができたので、京都や奈良でお寺を見て回ったり、ナイスな飲食店でお酒をしこたま楽しんだり、鹿と戯れたり……かなりエンジョイしています!

フィン 日本はレコードが充実しているのもいいですよね。原宿の『BIG LOVE RECORDS』とか、他にも何軒も回ってアイルランドでは手に入らないものを買い込んだし、この取材の後も渋谷の『タワーレコード』に行ってディグる予定なんですよ。サイコーの気分です。

ーーどんな盤をゲットしたんですか?

フィン 僕がゲットしたのは、ニューヨークの実験的ポップ音楽のプロジェクト、Chanel Beadsの新作「YOUR DAY WILL COME」。他にも、アメリカ出身のチェリストのArthur RussellのLPとか、ウクライナ発ブラックメタルバンドのKëkht Aräkh、パンクロックバンドIceageのフロントをやってるElias Rønnenfeltの一枚、もちろんFKA twigsまで、各々全然違うチョイスをしてたよね。

ーージャンルも国もかなり多彩ですね! 音楽の好みはみなさんバラバラなんですか?

フィン 全員が共通して好きなものもたくさんありますが、個々人の興味の範囲はかなり広いので、作品によっては他のメンバーの好みと全然違う、という場合も結構あります。だからこそ、僕らの歌詞や作曲に幅が出て良いんですけどね!

ーーちなみに滞在中に見つけた、気になる日本の音楽は?

ダラー 日本ではFishmansを知って、今どハマり中です。それから昨晩渋谷でCOPTER4016882という音楽ユニットも初めて聴いたんですが、彼らの楽曲はとんでもなくクールですね。

ーーアイルランドやコークの音楽事情も気になります。今どんな音楽が流行っているんですか?

フィン フォークやラップが人気だよね。アイリッシュトラッドやインディーロックの要素を取り入れたキングフィッシャーはその最たるものかも。deathtorickyとか、フォンテインズD.C.もみんな聴いてるし、ドレイクとケンドリック・ラマーのファンは変わらず睨み合ってるよね。

ーーコークで流行っているカルチャーもあれば教えてください!

オスカー やっぱり、アイルランドといえばパブですよね。あまりにもポピュラーすぎて問題にもなっていますが、出かけるってなったら飲みは外せないですね。

アーロン ライブハウスやコンサートに行く人も多いです。小さくて良い音を聞ける場所がアイルランドにはいっぱいあるんですよ。気軽に音楽を楽しめるのは贅沢ですよね。

ダラー 年間を通して曇りや雨が多い分、晴れた日には市内中心を流れるリー川で泳ぐ人たちもいますよ。ただ、本当は推奨されていないのですが(笑)。都市部の水は汚染されているのでウイルスも結構多くて、感染している人もチラホラいます。カヤックの方がおすすめですね。

ーーみなさんの中で、今流行っていることは?

アーロン とりあえずたっぷり寝ますね。映画を見たり、音楽を聴いたり、本を読んだり…..。オスカーはパソコンでゲームもするよね。

オスカー そう。最近はもっぱら『The Elder Scrolls III: Morrowind』。エルフとかドラゴンがたくさん登場するファンタジーゲーム。永遠に時間を潰せて良いんですよね。

ユアン 遠征するときは、メンバー同士でゲームをして遊んだりもします。最近僕らの中で流行ってるのは「Shithead」。それぞれルールを付与したトランプを使った、記憶力のゲームなんですが、負けると文字通り「バカだ」って言われるので、とにかく負けないように頑張るってやつで(笑)。それから「Victory」もよくやるよね。2人で対戦するゲーム。誰かに文章を言ってもらって、一文の中に何単語入っているかを即座に覚える。それを2つに割って、数字を割り当てる……ってやつなんですが、シンプルだけど超頭を使うんです。お題が52単語もある文でも、空でパッと計算しないといけないですしね。

フィン ツアー前にジョークのレパートリーを貯めておいて、会話中ふと誰も喋らなくなった瞬間に誰が1番最初に言えるか、みたいなゲームもやるよね。こんな具合にメンバー同士で自然にできた遊びで時間を潰すことも多いです。

ーー自作のゲームなんですね!

フィン そうです! 作ったゲームのルールはノートにも書き留めておくんですよ。

ーーバンドとして絆を深めるには、こうやって楽しく過ごす時間が大切なんですね。

ユアン ですね。でも、バンドを組む前から僕らは友達で家族なので、こうやって時間を過ごすことはとても自然なことなんです。友達と一緒にいれば毎日がホリデー気分だし、一緒にいる時間を最大限楽しめたら、この上ないですよね。

ーー今年の2月にリリースされたアルバムについても聞かせてください! 前作よりも、さらにたっぷりとアコーディオンの音が取り入れられて、バンドの音の輪郭もよりはっきりとしたのではないでしょうか。

ユアン そうですね。アコーディオンの音色は、使い方次第でぎこちなくも、シームレスで曲と一体にもなるので、サウンドを形作る中で僕らの音に合う方法を手探りで見つけていきました。

ーーアコーディオンを担当するFinさんは、この楽器のどんな点に魅力を感じますか?

フィン アコーディオンは制約の多い楽器なんです。例えば、ひとつのボタンを押して、引っ張り出すとある音になって、押し込むと別の音になる。ピアノみたいに、どんな音でも自由に鳴らせて、組み合わせれば自然にきれいに響く、というわけではないからこそ、強制的に違う考え方をせざるを得ない。不自由さに苛立つこともありますが、それだけ面白さも深まるし、挑戦を楽しませてくれる楽器です。

ーーある種の負荷がかかっているんですね。

フィン そうかもしれないです。それに、バンドとしては珍しい楽器な分、面白い繋がりもできますよね。そういえば、今回京都に行ったときに思わぬ出会いがあったんです。『Irish PUB field』というパブを訪れたとき、日本人のバンジョー奏者チャンピオンの方にお会いすることができて、その場でセッションをすることになったんです! 日本でまさかこんな楽しい即興ができると思ってなかったので、本当に思い出に残った夜でした。

ーーこのアルバムの至るところに、コークがモチーフとして用いられています。Cardinalsの音楽の“コークらしい”部分とは、どんなところだと思いますか?

フィン 「Greedy(泥臭さ、土臭さ)」だと思います。この言葉は、コークの街をよく表しているし、僕らの根底にもあるものです。

ーー7曲目の『Barbed Wire』では、「From City Hall to George’s Quay」と、夜に街の役所からリー川沿いの埠頭『George’s Quay』までを歩く若者のリアルな描写が詩的でダイナミックな歌詞で描かれていて、街の情景が頭にくっきりと浮かびます。作詞を担当したユアンさんが刺激を受けた作品はありますか?

ユアン 現代アイルランドの文学を代表するケヴィン・バリーの作品はたくさん読みました。彼のデビュー作である『City of Bohane』は、ゴールウェイやコーク、ダブリンなど、いくつかの年を組み合わせた架空の街を舞台にしているのですが、他にはないフィクショナルな雰囲気に惹かれます。『Night Boat to Tangier』という、コーク出身の2人の麻薬売りのギャングたちについてのという小説も、独特のダークネスと荒々しさが唯一無二でおすすめです。

他にも、「フランク・オコナー国際短篇小説賞」でその名を冠したコーク出身の小説家、フランク・オコナーも言わずもがな素晴らしいですし、20世紀アイルランドを代表する作家、フラン・オブライエンの風刺に富んだ暗さも、バンドの目指す雰囲気に近しいものがあります。

ーー同じくアルバムに収録された『The Burning of Cork』では、タイトルの通り、1920年のアイルランド独立戦争の最中に起きた英軍による報復・放火事件である、コークで起きた悲惨な歴史的事件(コーク焼き討ち)そのものを扱った楽曲となっていますね。かつての街の歴史に目を向けて、この曲を通して伝えたかったこととはなんでしょうか。

ダラー 文字通り街が焼き払われてしまったこの事件は、コークの歴史の中で最も悲惨な出来事と言えるのではないでしょうか。今でもなお街のあちこちで痕跡を見ることができます。僕らがどういった感情を持つかはもちろんですが、僕らの故郷に何が起きたかについて触れること自体が大切だと思っているんです。

ーー前作のEPと比べ、よりダークで、アグレッシブで、耽美な雰囲気が強まり、さらにバンドのドラマチックなイメージが構築されたのではないかと思います。今のバンドのムードを教えてください。

ユアン 前のEPを書いたときは、まだ18〜19歳と今の僕らから見てもとても若くて、振り返ると強がっていた部分も多かったんです。今作は、僕らに当たり前にある“弱さ”を全面に出すことができたと思います。

ーー自分のルーツや気持ち、そして“弱さ”を曝け出していくことは、音楽や生活にどんな力をもたらしていると思いますか?

ユアン 外の世界で自分の内側にある何かを形にすることが目的だったとしたら、正直でなければやっている意味がありませんよね。ある程度のものは作ることはできると思うし、できるかできないかを白黒つけるものでもないと思います。でも、自分を誤魔化したままでは、どこにも辿り着くことはできない。細かなモヤモヤも丁寧に形にすることが大事だし、今作はどこまで踏み込むことができるのかという挑戦をしてみたかったんです。僕自身、音楽でも映画でも本でも、そういう作品が1番好きなので。

ユアン アートって、不思議と心を癒す力がありますよね。僕は音楽のそんなところが好きです。どんなジャンルでも、誰もが一度は何かを作ってみることに挑戦してみる価値があるんじゃないかなって思います。そうやって何かに打ち込む仲間が増えたら嬉しいですし、僕らもまだ見ぬ景色をもっと探りたいです。

インフォメーション

Cardinals

カーディナルズ|アイルランド第2の都市、コーク発の新鋭オルタナティブロックバンド。ユアン・マニングとフィン・マニング兄弟、その従兄弟のダラー・マニング、幼地味のオスカー・グディノヴィック、アーロン・ハーレーの5名で活動する。2026年2月にリリースしたデビューアルバム『Masquerade』は、次世代アイルランド音楽シーンを担う存在として、各方面から高い評価を受ける。同年8月には「SUMMER SONIC 2026」で初来日を果たす。

Instagram
https://www.instagram.com/cardinalsband_/