TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#3】景色
執筆:香本正樹
2026年2月24日
繕う
と言っても、多様な技法や方法ありますが、今回はダーニングを中心にお話してみたいと思います。
最近だとその名を聞いたことあるという人も結構いるのではないでしょうか。見た目の魅力はさることながら、数ある刺繍関連のテクニックの中でも特にプロセスが面白いと感じるものの一つです。
個人的にユニークだと思う点が、刺繍と織物の両生類みたいだというところ。針と糸が刺繍という過程を経て後に織りの動きをする、というのを繰り返した結果小さな‘布’が立ち現れる。その‘布’でダメージや穴を覆い被せるように補修をすると言う技法です。芋虫が蛹を経て蝶になるみたいな、、、というとちょっと飛躍が過ぎて聞こえるかもしれませんが、実際にダーニングをしているとそれと似たような感動を覚えます。
とある時、地元の先輩で備前焼作家のM氏が自身の作品を見せてくれながらチラッと一言。窯の中で土や火の具合で生まれる思いもよらない色や模様のことをそう呼ぶのだとか。
この話をふと出してみたのは、繕われたものを面白いとか美しいとか感じる感覚になんとなくその言葉を重ねてしまうことがあるから。ダーニングに限らず、修繕されたものの独特な趣のある景色に、街中ではっと足を止めてしまうことも。
この永遠に穴が開き続けるスウェットパンツ、ダーニングを施し始めてからはちょっと特別な機会に履くようになりました。
Gの長く大事にしている羊毛のロバ。こちらはスイスダーニングというニット*の構造を応用したダーニングの一種を使いました。一度ブルーで直した箇所はGの飼い猫が遊んで壊してしまったとのこと。二回目は少し体に馴染む色で、可愛い形と顔に癒されながらの作業でした。
*日本語で編み物というと棒針編みとかぎ針編みの両方を指します。棒針編みに特定するという意味でニットと記述しています。
Jのカシミヤのリバーシブルハット。上質な天然素材さぞかし美味しかっただろうに、裏表虫食いの穴だらけ。「基本おまかせ、でもマサキの仕事の跡がハッキリと分かるような仕上がりがいいかな。色はピンクとか?」と言っていたので、ちょうどあったお気に入りの糸を使いスイスダーニング。
修繕後の受け渡しは時として切なさを伴うこともあるけれど、Jからhaven’t stopped wearingとメッセージをもらい、なんとも嬉しい気持ちになりました。
Yのカーディガン。両手首リブに比較的大きなダメージ。部分的に棒針でパーツを編みそれをスイスダーニングでリブに繋げるというハイブリットなアプローチを片方に(写真のように)。もう片方は色も変え少しざっくり目のダーニングをしました。
Aのウールソックス。よくある洗濯機で縮めてしまったもの。縮絨によりボヤがかかったようなニット地の目に、元の編み目を思い出すようなイメージでスイスダーニング。
ちなみに今回のコラムで使っている写真は全て、父から譲り受けた70年代に趣味で買ったというカメラで撮影したものです。撮りそびれることも多いし、記録としてはあまり優れないところもあったりもしますが、なんというか景色をより感じる質感やムードが好きで細々と撮り続けています。
このソックスは父のカメラで撮り始めるきっかけとなったものでした。
自宅の綿の布巾に麻糸でダーニング。実際にヘビーに使う/洗うものもダーニングの‘その後’リサーチの一環として修繕し、観察の対象としたものです。この後また、すぐボロボロに。
こちらも‘その後’リサーチの自分の靴下。最初は足の裏の異物感で不快だったのが、だんだんと馴染み結局はそんなに気にならないどころか、むしろちょっと気持ちいいかも、、、となりました。意外と多い、やってみないと分からないこと。まさにそういう発見でした。
道具も極シンプルで、始めるハードルが実は低いダーニング。手芸は苦手と思い込んでいる人も、もしかしたら新たな景色を見出す針と糸の旅、ハマってしまうかも?
プロフィール
香本正樹
こうもと・まさき|岡山県育ち。刺繍を中心に、編み物やその他の手芸技法を独学にて研鑽し、作品制作を行う。個人制作の他、コラボレーションやコミッションワークも行っている。最近の活動に、展示「1826」(ユトレヒト、東京)(OMA、福岡)、「One Step Forward, Thank you」(代官山蔦屋書店)、オランダのデザイン誌『MacGuffin』第15号 –The Stitch– への刺繍作品の寄稿などがある。
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