カルチャー

『ランニング・マン』の監督エドガー・ライトにインタビュー。

2026年2月3日

text: Keisuke Kagiwada

©︎2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 1月30日から公開されるアクション映画『ランニング・マン』の舞台は、近未来のアメリカ。世間では巨大ネットワーク企業が運営する、コンプライアンス無視の一般参加型バラエティ番組が活況を呈していた。中でも、人気を集めていたのが、優勝者に巨額の賞金が与えられるデスゲーム「ランニング・マン」。労働環境の改善を訴えて職を失ったベン・リチャーズは、重病の娘の医療費を払うために同ゲームへの参加を決意するが……。原作はスティーブン・キングがリチャード・バックマン名義で1982年に発表した同名小説。1987年には、アーノルド・シュワルツェネッガー主演で『バトルランナー』として映画化された同作を、より原作に忠実に再映画化したのは、『ベイビー・ドライバー』などで知られるエドガー・ライトだ。原作の大ファンだったというライトに話を聞いた。

©︎2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

——原作のどこに惹かれて、映画化のアイデアを思いついたのでしょうか?

ライト 原作を初めて読んだのは、僕がまだ10代の頃。あの信じられないほど強烈な読書体験は、忘れられないよ。短い小説ではあるけど、たぶん僕が今までで一番早く読み終えた本のひとつなんじゃないかな。特に驚いたのは、すべてが主人公であるベン・リチャーズの視点だけで書かれていること。読者は彼の目線を通して、ゲームを一緒に追体験することができるんだ。だから、映画でも主人公の視点だけで描こうと思った。まぁ、それ自体は別に珍しいアイデアではないんだけど(笑)。とにかく、他の登場人物の視点に移したり、番組を収録しているスタジオに場所を移したりせずに、ベン・リチャーズが見ているものだけを観客には見せたかったんだ。そうすれば、実際には何が起きているのか完璧にはわからないまま、ときには嘘の情報も流される中でゲームを進めるベン・リチャーズに、観客がグッと入り込めると思ったから。

——映画『ランニング・マン』は、娯楽アクションとして楽しめると同時に、現在の露悪的なメディア状況を強烈に皮肉っている点が興味深かったです。長いこと映画化の企画を温めていたそうですが、結果としてアメリカで公開された2025年現在にこそ観られるべき作品だと思いました。

ライト それも原作の力によるところが大きいね。映画化にあたって再読した際、強く印象に残ったのは、まさにその風刺の鋭さだったんだ。この本は出版される9年も前に書かれていたんだけど、キングが1972年当時にメディア環境の未来を、ここまで正確に予見していたことには驚くしかないよ。彼に会ったときも、そのことについて聞かずにはいられなかったんだ。「メイン州の洗濯工場のような場所で働きながら、仕事終わりの夜に執筆していたはずのあなたは、テレビ局の巨大な役員会議室で起こっていることをどう想像していたのか」って。彼は「当時、それを想像するために役に立ったのは、プロレス中継だった」と答えたよ。この本に込められたある種の残忍な風刺が、プロレスに由来していたとはね(笑)。映画化にあたっては、その要素をさらに一歩踏み込んで引き出し、押し進めようと考えたんだ。とはいえ、観客を陰鬱な気持ちにさせるような作品にはしたくなかった。だから、この映画には過酷な未来に関して、多くの示唆に富むメッセージが込められてはいるけど、風刺におかしみを感じられるようにしたんだ。

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——2025年は、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ワン・バトル・アフター・アナザー』やアリ・アスター監督の『エディントンへようこそ』をはじめ、社会を風刺する娯楽アクションがいくつか公開されましたが、その状況をどう受け止めていますか?

ライト 映画を作っていると、そういうことがときどき起こるんだ。かつてもあったよ。今を生きている人々が感じていることに芸術で反応しようとした結果、真似したわけでも、真似されたわけでもないのに、同時期に似たようなことを考えている作品が公開されちゃった経験が。ただ、まさか『ワン・バトル・アフター・アナザー』で、『ランニング・マン』と同じく、ギル・スコット・ヘロンの「REVOLUTION WILL NOT BE TELEVISED」がサウンドトラックとして使われているとは思わなかったけど(笑)。ポールとは友達で、『ワン・バトル・アフター・アナザー』のプレミアには呼ばれていたけど、『ランニング・マン』の仕上げの真っ最中で出席できなかったんだ。だから、無事完成した数週間後に観たときは驚いたよ。同時期に公開された映画では、他にもヨルゴス・ランティモスの『ブゴニア』や、スティーブン・キングが原作の『The Long Walk』も、似たテーマを扱っているよね。映画はときに、そうやって歪んだ現実を映す鏡のようになってしまうものだし、僕たちの映画もそうあるべきだと思っていた。ちなみに、キングの原作は2025年が舞台なんだよ。劇中では2025年と明示することこそしなかったけど、そうした事情があるから舞台を遠い未来にしたくなったんだ。2025年に公開されたのは偶然だけど。いずれにせよ、本作の観客は、今この瞬間とほぼ同じ世界というか、5分先の代替現実を観ているような感覚になるんじゃないかな。

——2025年といえば、スーパーボールのハーフタイムショーでも、ケンドリック・ラマーが「REVOLUTION WILL NOT BE TELEVISED」をパロディして、“the revolution about to be televised”と言っていましたね。2025年は、優れたクリエイターがこぞってこの曲にインスピレーションを得た年として記憶されるかもしれません。

ライト 興味深いよね。『ランニング・マン』でこの曲が流れるというアイデアは、草稿の段階で既にあったんだよ。一緒に脚本を書いたマイケル・バコールが思いついたんだけど、しばらくの間、そのアイデアは不採用になっていたんだ。なぜなら、この曲が使用されるシーンは、ベン・リチャーズの協力者として登場するブラッドリーが、ゲームの真実を暴く場面で、ギル・スコット・ヘレンがスポークンワードのボーカルを担当する曲とうまく噛み合わせることができなかったから。だけど、原曲をインストゥルメンタルでカバーして、その上にブラッドリーのボーカルを乗せるというアイデアを思いついて、最終的にその案を採用することにしたんだ。いずれにせよ、世界が政治的に悪い状況にあるときほど、音楽シーンが活気づくというのは興味深いことだよ。実際、70年代のイギリスでパンクが爆発的に流行したのも、当時の政治状況に対するリアクションだったしね。

——最後に、映画監督として大事にしていることやモットーなどがあれば教えてください。

ライト ”常に学び続ける”ってことかな。僕にとって映画作りは、キャラクターたちの体験を生きると同時に、そこから何かの学びを得るってことでもあるんだ。実際、映画作りを通しては、1人の人間が一生のうちには決して経験できないあれこれを、見たり学んだりできる。いつも大学にいるような気分になれるんだ(笑)。その意味で、映画作りは世界最高の仕事と言えるかもしれない。と同時に、楽しむことを常に心掛けているかな。実はその部分が一番難しくて、忘れがちなことではあるんだけど(笑)。

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インフォメーション

『ランニング・マン』の監督エドガー・ライトにインタビュー。

ランニング・マン

職を失い、娘の治療費に困るベンは、巨額の賞金が得られるというリアリティショー「ランニング・マン」に参加する。しかしその実態は、殺人ハンターの追跡に加え、全視聴者すら敵になる、捕まれば即死の30日間の”鬼ごっこ”、生存者ゼロの究極のデスゲームだった。主人公のベンは、『トップガン  マーヴェリック』『ツイスターズ』への出演で人気急上昇中のグレン・パウエルが演じている。1月30日(金)より全国公開。
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プロフィール

エドガー・ライト

1974年生まれ。2004年、『ショーン・オブ・ザ・デッド』でホラーとコメディを絶妙に融合させ、世界的なカルト人気を獲得。音楽とカーアクションを完璧にシンクロさせた『ベイビー・ドライバー』では、その革新的な演出術が絶賛され大ヒットを記録。リズミカルな編集と細部まで計算された視覚的ユーモアを武器に、ジャンルの垣根を超えて映画ファンを魅了し続ける。その他の作品に『ホット・ファズ  俺たちスーパーポリスメン!』『ワールズ・エンド  酔っぱらいが世界を救う!』『ラストナイト・イン・ソーホー』など。