TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】夢が形に

執筆:マシュー・ケルソン

2025年12月31日

 土地が決まったら、次は古い幼稚園をシネマにどうやって変えていくかを考えることに。最初の作業は、物置状態で全体的にカビ臭かった建物の中から再利用できるものを探すことでした。

 しかし、結局そういったものはほとんどなく、建物奥の水漏れで床は完全に腐っていました。映画のスクリーンや雛壇を入れるには天井も低すぎたため、それも取っ払うことに。そうやって地域の方にも協力してもらいながら、解体の作業が始まりました。解体作業を2ヶ月コツコツ進めたら、建物の全容がようやく見えてきました。

解体が進み、天井の構造が姿を現しました。

 美しく傾斜している天井は高さもあり、中央にスクリーンを設置するのにも十分。レイアウト的にも43席を設けることができて、ミニシネマとしてぴったりでした。

 デトロイトでは、ほとんどの映画は35mmフィルムでした。当時使っていた古いプロジェクターがデトロイト郊外の倉庫に何年も置かれたままで、新たな役目を見つけてあげたいと思っていました。アメリカの劇場や映画制作で長年愛されてきたアルテック社の「ボイス・オブ・ザ・シアター」という劇場用のスピーカーもありました。それらを回収すべく、私は上野原での解体作業を終え、10年以上ぶりにデトロイトへと向かいました。

 ザ・バートン・シアターの古い小学校はまだ建っていて、久しぶりに見る建物の姿に覚悟を新たにしました。倉庫内でホコリと蜘蛛の巣に覆われていたプロジェクターを丁寧に掃除し、彼らは今まさに海を渡って日本へ向かっています。

息子と一緒に、壁にパテを塗っているところです。

 帰国すると、プロジェクトの最難関フェーズが待ち受けていました。地元の建築士と大工さんの協力を得ながら、シネマを形にする長いプロセスが始まりました。これまで既存のスペースに何かを作るという作業は何度もしていたけれども、ほぼゼロから何かを作るというのはまったくの別ものでした。シネマではすべてのディテールが大事で、座席や壁の色、使う素材、室内の音の流れなど、すべてがスクリーン上の体験を左右します。

上映室が、ひとまず完成しました。

 一つずつ空間を一緒に作る。地元ボランティア、家族や友人の協力もあり、シネヤマはようやく完成を迎えようとしています。インテリアは夜の山をコンセプトにしており、壁は夜空の深い青、黒ベルベットのカーテン、濃いモスグリーンの座席、そして茶色いアースカラーのカーペットという仕上がりになりました。映画に没頭するのに最高の、静かで居心地の良い空間になっています。

屋根も新しく塗り直しました。
写真: 中矢昌行

 山梨の上野原という里山で、長年の夢がもう間もなく、本当の場所として体験できる日が来ます。

ここから、本格的な工事が始まりました。

CineYama
〒409-0133
山梨県上野原市八ツ沢117-1

*オープンは2026年2月下旬を予定しています。

プロフィール

マシュー・ケルソン

アメリカ・デトロイトで、廃校を利用した100席のアートハウス映画館「バートン・シアター」を共同設立。その後、Netflixに10年以上勤め、オリジナル映画やシリーズのプレミアや特別試写会の技術的な企画・実行を世界各地で担当。現在は妻と2人の子どもと共に山梨の里山に住み、廃園になった幼稚園を「CineYama(シネヤマ)」というミニシアターに作り変えています。日本と世界の映画を紹介する、新しいシネマを作っています。

Instagram
https://www.instagram.com/cineyama