TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#3】手延べか、機械打ちか──タリアテッレの拘り
執筆:片桐祐樹(Trattoria Annamaria)
2025年5月29日
Trattoria Annamaria は、「日本一美味しい手打ちパスタを提供したい」という思いから始まりました。私の中で、世界中の手打ちパスタの中で最も威厳があり、最も尊厳を感じるのが、手延べのタリアテッレです。
私は33歳のとき、この手延べのタリアテッレを習得するためだけに、イタリアへ渡りました。それほどまでに、私にとってこのパスタは特別な存在です。
タリアテッレには、現在主に使われる「機械打ち」と、昔ながらの「手延べ」という2つの製法があります。これらを比較する際、私は単に食感や見た目といった物理的な違いだけでなく、作り手としての気持ちの面からも語りたいと思います。

タリアテッレと言えば、定番のラグーと合わせるのがマスト。ラグーも勿論Annamariaさんから教えてもらったレシピでつくっている。パンはモデナの郷土パンのティジェッラ。
現在のイタリアでは、タリアテッレを含めた生パスタは、ほとんどが機械で打たれています。その理由は単純で、効率的に、均一に、美しく仕上げられるからです。そして何より、人件費を抑えられる。一方で、手延べでタリアテッレを打つ店は極めて少数。私がイタリアで修行していた頃も、手延べを学ぼうとする若い人にはほとんど出会いませんでした。手延べを継承している多くのお店は、地元のトラットリアで年配の女性がこの伝統を守っているのが現状です。
手延べには技術が必要であり、習得には時間がかかります。それ故に、イタリアでさえも失われつつあるこの手法を、今、日本の京都で味わえるということ自体が贅沢だと感じていただければ幸いです。
そして、今この瞬間も、手延べのタリアテッレを作ることができるのは、限られた年配の女性たちだけ。若い世代の担い手はほとんどいないのが現実です。このままでは、近い将来、本物の手延べタリアテッレを食べることは、ほぼ不可能になるでしょう。
次に物理的な違いについてお話させていただきます。
機械打ちのタリアテッレは、生地を強い圧力で何度も押し伸ばすことで成形されるため、表面が整い、食感はやや硬めになります。全てが均一な太さと厚みで、美しい仕上がりです。
一方、手延べのタリアテッレは、人の手でゆっくりと伸ばされるため、生地にストレスがかからず、やさしい食感になります。一本一本に微妙な厚みの違いがあり、それが独特の口当たりと風味の奥行きを生み出します。同じ料理でありながら、食べるたびに微細な違いが感じられる。それはまさに、料理の中に「生命」が宿っているということなのかもしれません。

生地(一個あたり500g程)を伸ばすところ。均一に薄く伸ばしていく。

伸ばし終えた生地。一回の仕込みで生地2個分仕込む。これで12人分取れる。

微妙に厚みが所々違うのがお分かりいただけるでしょうか。これにより一本一本厚みが異なる個性的なパスタになる。これが昔から作られてきたタリアテッレである。
タリアテッレのふるさと、エミリア=ロマーニャ地方は、ポー川流域の肥沃な土地で、小麦の栽培が盛んに行われてきた地域です。豊かな小麦文化の中から、手打ちパスタの伝統も育まれました。タリアテッレは、今でこそ身近な料理ですが、かつては貴重な卵を使って作る“ごちそう”でした。一般家庭では、水で練った生地を使うことも多かったようです。だからこそ、卵入りの手延べタリアテッレは、贅沢と豊かさの象徴でもあったのです。
私が作るタリアテッレは、この贅沢さやイタリアのパスタ文化の誇りを伝えたいという想いの結晶です。一本一本が違う表情を持ち、まるで生きているかのような手延べのタリアテッレを、ぜひ一度味わってみてください。
プロフィール
片桐祐樹
かたぎり・ゆうき|1986年生まれ、山形県出身。イタリア・モデナのOsteria Francescanaの近藤シェフに憧れ料理の道へ。イタリアやロンドンの星付き店で研鑽を積み、京都では日本料理店でも経験を重ねる。北イタリア郷土料理と手打ちパスタに情熱を注ぐトラットリアを京都で開業。
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