トリップ
ゴールドラッシュをめぐる冒険 in Finland Vol.9
写真・文/石塚元太良
2025年5月2日
シィーモとクルトゥラで別れた後、ひとりイヴァロ川を降り、10キロ下流のリタコフスキを目指す。イヴァロ川の「ゴールドラッシュ銀座」とも呼べる場所を、カヤックで通過していく。
リタコフスキまでの10キロは、増した水量のおかげであまり漕がずとも、漂流しながら流されていくようなイメージ。特にソタ川と合流した後は、水量が大幅に増え、その流れが迫力が増す。谷はこのあたりが最も険峻である。大きな岩を避けながら、川の真ん中をキープしていくのが肝要だ。
リタコフスキ周辺の土地は、名前の響きからも想像できる通り、ロシア系の人たちがゴールドラッシュ時に入植したエリアである。地図を広げてみると、ラップランドは、狭いエリアにフィンランドとスウェーデン、ロシア、ノルウェーの国境が近接したエリアであることがわかるだろう。
ルイカンムッカからクルトゥラ。そしてリタコフスキに至る15キロのほどの「ゴールドラッシュ銀座」は、まるでU字型のポケットのように隠された場所である。谷が深く、静寂に包まれていて「心地の良い」場所である。こればかりは、実際に来てみないとわからない実感である。
ニュージーランドのフィールドワークでも感じていたことであるが、金が大量に採掘された場所は、どこか神秘的な場所である。
当時ここで暮らしながら、金を掘るという労働に勤しんでいたいた人たちは、この自然をどんな風に感じていたのか。まるで「桃源郷」にいるような気分だったろうか。金が無尽蔵に収集できる期待と、自然の中での心地よい肉体労働。それが都市の富につながっているという多幸感。
リタコフスキの目印は、数百メートル手前にある大きな古い機械である。それはドレッジと呼ばれる砂金を掘るための大きな機械で、スウェーデンの会社により1940年代まで操業されていたという。
それは、船の形をした掘削機で、川底の砂金を採集するためのものである。残念ながら、十分な収益を上げることはないまま、まるでテクノロジー標本のように80年以上前に、この場所に放置されてしまったという。
人間がこれまで採掘した金の総量は、、よくプールの体積としてよく形容されることがあるだろう。21世紀の現在でもその総量はオリンピック仕様の50mプール3杯分にも満たないという。そのうちのプール2杯分以上が、ゴールドラッシュ時代を含む金本位制が残っていた20世紀初頭までに採掘されたものである。
技術が発達し、その探査の精度もあがり、なおかつ金そのものの価格が高騰しているにも関わらず、人類は金の発掘総量を微量づつしかあげることができない。それほどゴールドラッシュ時代に、自然の中から金を掘り尽くしたということなのだろう。
そんなゴールドラッシュのフィールドで、人類の欲望の強烈さを思う。こんな辺境の地で、金を掘り尽くし、あるときはまた石油を掘り尽くし、今度は現在その資源が争奪されているレアメタルなるものも、掘り尽くしていくのだろう。
僕らは、テクノロジーを驚愕のスピードで進化させ、この地球という星の表面を掘り尽くしていく。そして、技術そのものを更新させながら、古くなってしまった機械たちを、容赦なく捨て去っていくのだ。
そんな風に考えると本質的に僕らの文明は、多層な廃墟の上に成り立っているのだと思う。僕らの踏みしめる現在という地層の上には、テクノロジーの死屍累々が、さまざまな形で横たわっているのだ。
リタコフスキに残されたキャビン後の前で、カヤックを停泊させ、テントを張ってから、周辺の撮影を開始する。対岸のドレッジや、残されたキャビンなど。なぜ古いものに触れていると落ち着くのだろう。そんなことを考えながら、森の中を歩いていた。長い間、カヤックに座り込んでいるせいで、地面に足をつけて歩くことが心地よかった。
プロフィール
石塚元太良
いしづか・げんたろう|1977年、東京生まれ。2004年に日本写真家協会賞新人賞を受賞し、その後2011年文化庁在外芸術家派遣員に選ばれる。初期の作品では、ドキュメンタリーとアートを横断するような手法を用い、その集大成ともいえる写真集『PIPELINE ICELAND/ALASKA』(講談社刊)で2014年度東川写真新人作家賞を受賞。また、2016年にSteidl Book Award Japanでグランプリを受賞し、写真集『GOLD RUSH ALASKA』がドイツのSteidl社から出版される予定。2019年には、ポーラ美術館で開催された「シンコペーション:世紀の巨匠たちと現代アート」展で、セザンヌやマグリットなどの近代絵画と比較するように配置されたインスタレーションで話題を呼んだ。近年は、暗室で露光した印画紙を用いた立体作品や、多層に印画紙を編み込んだモザイク状の作品など、写真が平易な情報のみに終始してしまうSNS時代に写真表現の空間性の再解釈を試みている。
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