ライフスタイル

美意識を落とし込んだ〈KITAWORKS〉のミニマルなステンレスチェア。

どんな人が作ってるんだろう?

2025年2月27日

部屋作りのマイルール。


illustration: Yusuke Nagaoka
photo: Koh Akazawa
text: Fuya Uto
2025年3月 935号初出

心惹かれた家具の作り手に会うために、日本各地のアトリエへ。
ものづくりの背景にも共感して選べたら、長く大切に使えるはず。

左/2024年に発表された最新作のアーチチェアは、細いラインで強度を出せるステンレスの特徴を生かし、要素を極限まで省いて生まれたひとつの理想型。¥182,600 右/見た目のとおり、その名もN.Nチェア。チューイングガムを曲げたようなぐにゃりと湾曲したパンチングメタルは、腰を下ろすとたわんで見た目以上に座り心地がいい。¥198,000(ともにKITAWORKS info@kita-works.com)

 一見すると、海外のデザイナーズ家具のように端正な佇まいの2脚のステンレスチェア。しかし、じっくりと観察すれば、背板を支える部材をも省いたミニマルさの一方で、生き物のような曲線や脚部の真鍮の飾りにには、不思議とエモーショナルな雰囲気も漂う。どうにも形容し難い魅力は、見るほどに作り手の胸の内に迷い込むようだ。椅子をデザインし、自ら溶接を行うのは〈KITAWORKS〉の木多隆志さん。岡山県津山市ののどかな町外れに佇む、父親から引き継いだ溶接工場を拠点とするクラフツマンだ。聞けば、家具を手掛けるようになったのは「父親から金属加工技術全般を学んでいた2007年頃に、自宅の家具一式を自作したことがきっかけ」。サラブレッドのように聞こえるけれど、その頃はいわゆる大手メーカーに機械部品を納品する町工場だったため、驚くことに家具製作は全くの独学。洗練されたデザイン感覚は、少年時代から憧れのあった自然や日本的な美意識が根底にある。

「高校生の頃から自給自足の生活に惹かれていて、卒業後に長野県の山小屋でバイトしていたんです。文明に頼らずに、どこまで生きられるんだろうっていう思いがあって。結局、向いていないとわかり、ものづくりの道に進んだのですが、身の回りのものを自分で作りたい気持ちはその頃と変わりません。禅の教えや自分の内面に興味があるのもそのときから。それが手を動かす過程や思考の奥にある〝語れない部分〟に影響を与えていると思います」

 言葉を慎重に選び、そう語る木多さんは、2009年に初作を発表してから約30型も椅子を手掛けている。深い思考や洞察力を持ち、ひたすらに新しい表現に挑戦するからこそ、言葉にはできない魅力が作品に顕現する。そんな〝奥行き〟が、この椅子からは漂っているように思える。

工房に隣接する予約制のショールームは、モダンな空気で包まれている。テーブルや壁の棚にずらりと並ぶ椅子など家具はすべて作品。壁面の陶磁器は民藝好きな本人のコレクション。

切断機をはじめ、板金加工機、溶接機、クレーンなど、ひと通りの設備が揃う工場。夏は灼熱で冬は極寒という過酷な環境だけど、2年前に今年27歳の若い職人も入ってきた。志があれば最高の環境だ!

プロフィール

美意識を落とし込んだ〈KITAWORKS〉のミニマルなステンレスチェア。

木多隆志

家具職人

きた・たかし|1978年、岡山県津山市生まれ。工業高校卒業後、2009年より父親から引き継いだ溶接工場を拠点に〈KITAWORKS〉の活動を開始。熔接の技術を生かして、鉄やステンレスなどの金属をはじめ、木材を用いた家具製作に取り組む。

Instagram
https://www.instagram.com/kitaworks/