TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

エア ジョーダン 1のシワ。

執筆:大橋高歩

2025年2月7日

自分の頭が固いだけかもしれないけど、世の中に無数にあるスニーカーを無意識にこれは自分が履けるもの、これは履けないものって選別していた、特に若い頃は。

どのスニーカーでアウトフィットを完成させるかって言うのは、自分がどんなカルチャーの中にいるのかを伝える”ストリートの暗号”みたいなものだし、僕の価値基準の礎になったHIP HOPという文化の中でスニーカーが持つ意味合いは大きい。例えばHIP HOPの文脈を踏まえてAF1を履く人とコルテッツを履く人では生涯ベストアルバム5選も、被ってるベースボールキャップのチームも違う。

初めて自分でスニーカーを買ったのは中学1年の時。92年のバルセロナオリンピックでドリームチームが履いていたバッシュはどれも輝いて見えたけど、やっぱりエア ジョーダン 7は特別だった。僕にとって初めて目にしたエア ジョーダンは、7のオリンピックモデル(ほぼ同じタイミングでお洒落な先輩が履いていたエア ジョーダン 6も目にしたけど7の方が洗練されていて格好良く見えた)。バスケ部でも無いのに『月バス』(月刊バスケットボール)の通販ページを毎月チェックする僕は、既にスニーカーの魅力の虜になっていたし、その後8,9,10……と、毎年エア ジョーダンの新作が出る度に「これは前作を超えてる」とか、「前の方が格好良かった」などと休み時間の教室で友達と延々話したものだ。もちろんエア ジョーダンの過去作も気になって雑誌でチェックしていたし、「エア ジョーダンは5が最高傑作なんだ」って言う先輩の話を聞きながら、内心では「最新のが1番格好良いのにな」なんて思ったりもしていた。

高校の頃は放課後に上野に行ってクラウンエースでカレーを食ってからアメ横を行ったり来たり、センタービルの2Fのベンチから通行人の足元を眺めたり買えもしないスニーカーをひたすらチェックしていた。エア ジョーダン 1のオリジナルもヴィンテージのスニーカーを扱う店やフリマなどで何度も見ていたけど、当時HIP HOP以外頭に無い生粋のヘッズだった自分にとってはエア ジョーダン 1は『Boon』を読んでヴィンテージのLevi’sを履いている人達の為のスニーカー、自分が履いて良いモノじゃなかった。

時は経ち高校を卒業して昼間週6でアルバイトをするようになると、スニーカー熱はさらに加速していく。

NBAのカスタムキャップや洋服とスニーカーのカラーマッチングにこだわるようになり、どう合わせるかでスニーカーをチョイスするようになる。ちょうどその頃、2001年にリリースされたのがエア ジョーダン 1のシルバーやネイビー。こいつらは自分達のスタイルにもハマるカラーだったし周りで買っている友人も多かった。シルバーは当時流行っていたホワイトゴールドのテニスチェーンやジーザスピースに完璧にマッチしていたし、ネイビーとヤンキースのキャップの相性もバッチリ。初めて僕らのカルチャーにフィットするエア ジョーダン 1が出たって思ったんだけど、自分には少しばかりシルエットが綺麗過ぎた。

結局その当時手に入れたエア ジョーダン 1は僕のスタイルにはしっくりこなくて、あまり履くことはなかったのだ。

バギーなデニムを腰履きする当時の僕には同じ年にリリースされていたエア ジョーダン 3のTRUE BLUEやMOCAの方がしっくり来ていたし、赤黒のゴアテックスのジャケットにBLACK CEMENTを合わせるのがお気に入りのスタイルだった。

その後HIP HOPシーンでのスタイルにも大きく変遷があり、ハイブランドのサングラスやベルトにスキニーなパンツを履いてエア ジョーダン 1を履くスタイルが主流になり始める。けれど、ハイブランドにもスキニーパンツにも食指が動かなかった僕には、やっぱりピンピンのエア ジョーダン 1をフレッシュに履くのに抵抗があった。

2010年代初頭、何度目かの、かつ過去最高のスニーカーブームが来る。

エア ジョーダン 1の特にオリジナルカラーの復刻モデルは誰もが憧れるスペシャルな一足。年に何回か行くニューヨークでもピンピンのエア ジョーダン 1のBREDを履く若者達には、ストリートからの羨望の眼差しが注がれていた。

そんな折、仕事でとあるLAのブランドのオフィスに行く用事があった。普段ラフな格好のデザイナーの足元を見るとエア ジョーダン 1。

僕が痺れたのは彼の履き方だった。

僕はそれまでエア ジョーダンを履く時にはいつも履きジワが入らないように気をつけていて、シューレースは緩め、ミッドソールが汚れたらクリーナーで拭くなど、とにかくフレッシュにキープする事に細心の注意を払っていた。一方彼の履き方はシューレースを締めて気にせず爪先でしゃがんでトゥーにもシワが入ってヨレている。でも、その感じで履かれているエア ジョーダン 1を見た時に、このスニーカーの本当の格好良さがわかったような気がした。僕が大好きなエア ジョーダン 3、7、8、11あたりはどれをとってもガンガン履き込んでシワがガッツリ入った方が格好良く見えるなんてものはない。

それ以来、僕は自分が履くエア ジョーダン 1に関しては、汚れやシワが入った時に格好良く見えるカラーのものを選ぶようになった。
RETRO HIGH OG “SHADOW”はだんだん良い雰囲気になって来ているし、HIGH 85「GEORGETOWN」、LOW OG”「NEUTRAL GREY」あたりはこれからじっくり履き込んでいくのが楽しみだ。王道のRETRO HIGH 85 OG 「BRED」もいつかは手に入れて時間をかけて履き込んでみたい。
合わせる洋服も時間の経過と共に自分の体に馴染んで愛着の増して来たアイテムが相性が良い。
ウールのベースボールキャップにアメリカ製のヘビーオンスコットン100%のスウェットシャツ、パンツも長い年月履き込んで自分の生活のシワが刻み込まれたダブルニーのワークパンツなんかがバッチリだ。
この感じが40代半ばの今の僕にはしっくりくるし、これから更に時間を共にしていつかこれこそが自分のエア ジョーダン 1だって思えるように育てていきたいと思っている。

1994年の復刻モデルを鉛筆立てに!

ハイとロー。この2足を自分のものにしたい。

プロフィール

大橋高歩

おおはし・たかゆき|『the Apartment』オーナー。1979年、東京都板橋区生まれ。中学時代にヒップホップと出合い、アメリカ東海岸のスタイルに傾倒。アメリカのヘビーデューティなアイテムを収集し始める。2009年、NYのファッションやカルチャーとリンクし、現地のリアルな空気感が充満したセレクトショップ『the Apartment』を吉祥寺にオープン。

Instagram
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Official Website
https://www.the-apartment.net/