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戦前・戦後の老舗や懐かしさのある店が軒を連ねる、のどかな下丸子の商店街。

東京五十音散策 下丸子②

2024年9月20日

photo: Hiroshi Nakamura
text: Fuya Uto
edit: Toromatsu

東京都内の駅名を「あ」から五十音順に選出し、その駅の気になる店やスポットなどをぶらりと周っていく連載企画「東京五十音散策」。「し」は下丸子へ。

 昔ながらの和菓子処や理髪店、八百屋や定食屋らが軒を連らね、学校帰りの子どもが魚屋でお使いを。まるで昭和にタイムスリップしたかのようにのどかで、ほのぼのとした商店街が下丸子にある。

 下丸子駅の南側、その小さな商店街を管轄するのは「下丸子商栄会」だ。多摩川沿いにキャノンカメラや白洋舍といった日本を代表する一流企業の本社が立ち並ぶこの地で、1964年に発足した。現会長である『豊田屋』の店主・豊田明久さん曰く、多少の入れ替わりはあるものの昭和から営む老舗がほとんどで、現在営業をしているお店は74つ。当然長く過ごしている分ちょっとした言い合いもあったりするけれど、それでも今の豊かな風景を伝えるべく、各店舗で中学生の職場体験を実施したりと、一丸でまちづくりを行なっていることがわかった。

魚屋に猫。地域猫を6匹飼っているのも下丸子商栄会の特徴。

 中でもひっきりなしにお客さんが訪れていて気になった『魚清』は、創業70年以上の魚屋だ。ガラス棚には毎朝豊洲で仕入れられたシマアジ、マグロ、ホタテ、青ダイなど刺身はもとより、サケの超辛といったツウ好みな切り身まで、眺めているだけで味覚がそそられる新鮮なネタが揃う。

「今日は刺身だったら断然シマアジ、もしくはクジラがいいよ! 秋刀魚はもうちょっと寒くなってからの方が太っていて美味しいね。」

 教えてくれたのは女将の島田陽子さん。刺身は鮮度が命ゆえに素人でもハッキリと違いを感じやすいけれど、ここは鮮度を超えた“今日の旬”でチョイスできる。実際に買って帰ったクジラは驚くほど臭みがなく、じんわりとした脂の甘みだけが口いっぱいに広がった。魚というよりは上質な馬刺しのような食感で、みるみるうちに身体へ滋養が運ばれているのが感じ取れた。

 そんな『魚清』を筆頭に、商店街にはハワイコンセプトの理髪店『Beach』、大きな八百屋『とつか青果』、カツに強い定食屋『喜楽亭』など気になる店がずらり。再開発によって日々アップデートしていく東京は刺激に溢れているからこそ、たまにはスローペースに、こんな商店街でしみじみ過ごしたいものだ。

1922年から続く下丸子最古の理髪店『Beach』。オーナーの趣味が全面に溢れ出たサーフボードが目印で、特筆すべきは顔剃り。〈オメガ〉製のふわふわなブラシで泡立ててもらおう。

ストライプの配色が絶妙なファサードが目を惹く『とつか青果』は、沖縄県産の甘長とうがらしといった少し珍しい有機野菜や数十種類におよぶ豊富な果物が買える。近所にあったらいいのにな。

改札を出て徒歩1秒の定食屋『喜楽亭』。創業当初は下丸子駅の場所に店を構えていたが、1924年の駅開設に伴い隣に移転。約10種類ある定食の中でもチキンカツやメンチカツなどの揚げ物が店主のおすすめ。

インフォメーション

戦前・戦後の老舗や懐かしさのある店が軒を連ねる、のどかな下丸子の商店街。

下丸子の商店街

『魚清』のある約200mの通りがメインストリーム。並びには他にステーキハウスや天ぷら屋など、明らかにこれまで愛されてきたのがわかる良店が目白押し。10月初旬に各店舗のイチオシ商品や私物を放出する「下丸子オータムフェスタ」が開催予定。

○東京都大田区下丸子3-13番地〜15番地付近 ☎︎03•3750•7733 

Official Website
http://www.shimomaruko.com/