フード
演劇のある憩いの場。『座・高円寺「演劇資料室」』。
東京五十音散策 高円寺③
2024年9月10日
photo: Hiroshi Nakamura
text: Ryoma Uchida
edit: Toromatsu
東京都内の駅名を「あ」から五十音順に選出し、その駅の気になる店やスポットなどをぶらりと周っていく連載企画「東京五十音散策」。「こ」は高円寺へ。
街ごとに、市民の憩いの場となる場所がある。どんな人に対しても開かれていて、居心地がよく、賑わいと楽しさがあるところ。高円寺北口を5分ほどの杉並区の公立劇場『座・高円寺』もその一つだろう。
2009年にオープンしたここは、舞台芸術の創造と発信、杉並区の地域に根ざした文化活動の拠点として設立された。建築は『せんだいメディアテーク』や『多摩美術大学図書館』を手掛けた建築家・伊東豊雄によるもの。優美で重厚感のある螺旋階段と、サロンのような広々したそれぞれのフロアの空間。近未来感のある不思議な水玉デザインの壁がオリジナリティがあって素敵だ。建物は、舞台や客席を変形することができる小劇場(座・高円寺1)と、一般の人が申込制で自由に使用可能な区民ホール(座・高円寺1)、「東京高円寺阿波おどり」の普及振興と、ダンスやパフォーマンスの上演もできる「阿波おどりホール」という3つの個性的なホールを構える。
演劇や舞台鑑賞・練習の目的がなくても大丈夫。ギャラリースペース「Gallery アソビバ」での展示や、カフェ「アンリ・ファーブル」で食事を楽しんだり、座学をしたりする人たちもいて、落ち着きあるゆったりした時間が流れていた。
ここで特におすすめしたいのが、3Fの「演劇資料室」。現代劇の戯曲とそれに関わる資料の収集・保存といった「アーカイブ」の運営を目的としている場所だ。「日本劇作家協会」の協力のもと、現在活躍中の劇作家の戯曲や上演台本を中心に収集しており、他にも『座・高円寺』での上演台本はもちろん、シェイクスピアやブレヒトなど世界各国の名作戯曲から日本の演劇・現代劇にまつわる書籍、『悲劇喜劇』『テアトロ』といった演劇がテーマの雑誌などが揃う。約7,300冊(2023年末時点)が収納されている閉架式の書庫から、読みたい資料を申請すれば無料で利用可能だ。館外への貸出は行っていないが、3階のフリースペースや2階のカフェ「アンリ・ファーブル」で読むことができる。
演劇の台本などは、流通を通した出版物ではないため、図書館や書店でも手に取って読む機会はなかなか少ない。だからこそ、『座・高円寺』での観劇後に類似のテーマや作家を深掘ることができるのも嬉しい。所蔵資料はサイトから検索することができる。演劇ホールを有する施設ならではの充実ぶりに驚いた。
「今はスマホさえあれば、手軽に楽しめることが多くなりましたよね。戯曲を読んだり、お芝居を観たりということが”面倒くさい”ことになってしまってきているのかもしれません。でも、自分の身体で体験したことは、ずっと残ることだと思うんですよね。後々になって、自分の考え方を刺激するきっかけになってくれるような。ぜひ、この施設や本に興味を持っていただき、ライブや演劇など”人がいまそこにいる”体験を増やしてもらえたら嬉しいです」
実は書庫には、絵本のコレクションも多く揃える。演劇とは関係がなくても、専門領域だけに留まらず、子どもから大人まで広く楽しんでほしいという思いが表れているように感じた。ちょっとした雨宿りから演劇鑑賞や研究にまで、どんな人でもシチュエーションでも受け入れる、街の大きな舞台がここにある。
インフォメーション
座・高円寺
『座・高円寺』では、様々な演劇やイベントプログラムを実施中。また、毎月第3土曜日には、朝採れ野菜やパン、お菓子などが並ぶ、たべもの市場「座の市」を開催。「演劇資料室 [アーカイブ] 」は、閉架式で資料を保存。劇場2階の受付で申込み後に利用可能。複写も受け付けている。詳細はこちらをチェック。
○東京都杉並区高円寺北2-1-2 演劇資料室の開室時間は15:00〜18:00(火〜金)、12:00〜18:00(土日) 月・祝・年末年始休
Official Website
https://www.za-koenji.jp/home/
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