フード
イラン料理店『ボルボル』/異国の店主と土地の味。Vol.32
インタビュー・土井光
2024年8月20日
各地のローカルな風を届けてくれる東京近郊の外国料理店の店主を、
料理家の土井光さんと巡るコラム。
土井光(以下、土井) イランは、日本に比べて国土が広いですよね。ボルボルさんはどの地域で生まれ育ったのですか?
ボルボル・ホセイン(以下、ボルボル) テヘランという、800万人以上が住む首都です。イラン自体は確かに広いですが、国土の1/5以上は砂漠で、街と街の間も基本砂漠なんですよ。だから別の街へ行く時は、車か鉄道に乗って数時間かけて移動します。テヘランを経由して、北部のカスピ海と南西部のペルシャ湾までを結ぶ約1394kmのイラン縦貫鉄道もありますよ。通路を挟んで両側にベッド付きのコンパートメントがあって、車内は音楽も流れているし、ネットも使えるし、できたてのご飯と紅茶のサービスまであるんです。
土井 シベリア横断鉄道みたいで楽しそう! 砂漠の国から遥々日本にいらしたんですね。
ボルボル 日本人はイランのことをあまり知らないと思いますが、イランでは日本の映画とかドラマが人気です。黒澤明監督も有名だし、圧倒的一番人気は『おしん』。ワタシが学生だった頃に放送していたのですが、ドラマが始まる時間になるとみんな家に帰って、街から人がいなくなったくらい。そんなふうに若い時から日本の文化には触れていたので、いつか日本に行ってみたいという気持ちがありました。なので、学校を卒業して2年間兵役に行った後、思い切って来日を決めたんです。1990年だったかな。
土井 イランの方から『おしん』の話が出てくるとはびっくり。来日したばかりの頃は、どんなふうに過ごしていたんですか?
ボルボル すぐにイタリアンレストランに就職しました。最初は日本語がわからないから、お皿洗いをすることからスタートして、徐々に料理もさせてもらって。他にも数軒のイタリアンレストランで修行して、15年くらいで日本語も料理も一通りマスターしたので、2004年にお店をオープンしました。イラン料理だけだと珍しすぎるので、はじめはイタリア料理もメニューに入れてお客さんに来てもらいやすいようにして、少しずつ今のイランスタイルに変えていきました。

友人に協力してもらって、低かった天井や空間を仕切っていた壁を壊し、開放的な空間へとリノベーションした店内。床一面に敷かれた味のあるペルシャ絨毯は、ボルボルさんがイランから持ってきた年代もの。毎週金曜と土曜の夜には、ベリーダンスのイベントが行われている。


空間を360度彩るイランの工芸品。すべて、ボルボルさんが直接買い付けてきたもの。
土井 ブレずに飲食の道一本なんですね。イラン料理はケバブのイメージがありますが、実際はどんな味付けのものが多いんですか?
ボルボル 串焼きのケバブは一番よく食べる国民食ですね。でも、トルコなどと比べてトラディショナルな作り方だと思います。スパイスやハーブは使うけど、3〜4種類と塩胡椒のみでとてもシンプルだし、料理ごとに使う種類が違うのでいろんな味が楽しめます。主食はご飯とナン両方あって、インドのナンよりも生地が薄くて甘味が控えめなのでペロリと完食できちゃいますよ。

クビデ(ビーフとラムのひき肉の串焼き)とジュージェ(ヨーグルトのたれにつけ込んだ鶏肉の串焼き)とバーグ(玉ねぎとピーマンに漬け込んだラム肉の串焼き)の3種セット(麦スープとサフランライスorナン付きで5,780円)。その上は、4時間ほど火を通して柔らかくした骨付きラムすね肉のスパイストマトソース煮込み(2,000円)。下は、トマトやきゅうりにミントとライムのドレッシングがかかったイラン風サラダ(850円)と、くるみとザクロソースで和えたイランスタイルのオリーブ(880円)。美容にいいとされるザクロジュース(奥・650円)と、自家製ヨーグルトの炭酸ドリンク(前・650円)も一緒に。
土井 スパイスはしっかり効いているけど、味は濃すぎず、どちらかというとさっぱりしてて食べやすいですね。お酒というよりも、ソフトドリンクが合うかんじ。
ボルボル 実際イランでは、お酒は基本飲まないんですよ。1970年代末にイランで革命が起きたことでイスラーム原理主義の共和国になったので、イスラームの教えに従って法律で飲酒が禁止されてて。その分、ソフトドリンクの種類が豊富だし、お酒がなくても楽しめる家庭的な味付けが多いのかもしれません。
土井 単に宗教で禁止というだけでなく、情勢が絡んでいるのですね。イランでは、家で食事をするのが一般的なんですか?
ボルボル そうです。基本はお母さんが毎日作ってくれて、子供たちが野菜を洗ったりお手伝いをするのが当たり前。そうやってみんな、自然と料理のレシピを覚えていくんです。

ゴルメサブジィ(ラム肉とレッドビーンズのハーブ煮込み)は、イランの王道家庭料理。「タンパク質が豊富で体にもいいし、カレーと同じで一晩寝かせてさらに美味しくなります」とボルボルさん。麦スープとサフランライスorナン付きで1,580円。
土井 大人になった時に自立した生活ができるので、小さい頃から料理の仕方を知るのは大事ですね。
ボルボル そもそもイラン人の国民性として、何か困ったり苦しいことがあっても、自分の力でなんとかしようとする逞しさがあります。特にワタシは、ちょうど兵役の時にイラン・イラク戦争にも行って大変な思いをして生き延びたので、もう何が起きても挫けない自信がありますよ。
土井 20年間お店を続けてきたことも、ボルボルさんの力強い生き様を体現していますね。通し営業でランチも食べられるので、また高円寺に来た際は遊びに行きます!

土井さんからのコメント。「私事ですが最近世界史にハマっていて、イランの歴史の凄さをひしひしと感じております。そんなときの取材だったのでお店に入った瞬間興奮状態。鳥の鳴き声に様々な装飾の部屋に圧倒され、もうここはイランです。5000年以上前から芸術文化を気付き上げてきたイラン。そんな国のお料理を日本人にも身近に感じられるようにボルボルさんが丁寧にお料理してくださっています。ラム料理はもちろん美味しいのですが、付け合わせのオリーブやサラダやジュースまで美味しい。タンパク質が豊富なお料理はカロリーを気にされている方も十分楽しめるお料理です。そしてお店の雰囲気とボルボルさんの優しい笑顔が、全く違う世界観なのに安心感を感じさせる優しいレストランです。高円寺の雰囲気にピッタリの異国情緒満載なイラン料理を食べに、ふらっと立ち寄ってみてください!」
インフォメーション

ボルボル
◯東京都杉並区高円寺北3-2-15 八字ビル2F ☎︎03・3223・3277 11:00〜23:00 無休
今回取材した店主の故郷について

イラン・イスラム共和国
◯面積は日本の約4倍。
◯世界17位の国土面積を誇る。
◯多くはペルシャ人、言語もペルシャ語。
◯1935年までは国名は「ペルシャ」だった。
◯国土の大半は砂漠や山岳や高原。
◯石油と天然ガスの輸出が盛ん。
◯男性は兵役を終えるまで、パスポートを取得することができない。
◯ボルボルさんいわく、見ず知らずの人にも親切なのがイラン人の国民性。
◯ペルシャ語で美味しいは「خوشمزه(ホシュマゼ)」。

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