カルチャー

RADICAL Localism Vol.11/あらゆるチャンネルを使ったアクティビズム:多津衛民芸館のリニューアル

文: ロジャー・マクドナルド

2022年9月8日

photo: Sayaka Takizawa
text: Roger McDonald
cover design: Aiko Koike
edit: Yukako Kazuno

 以前にもこのコラムで紹介しましたが、私はこの2年間、望月にある『多津衛民芸館』の理事を務めています。9月には、収蔵品展をリニューアルし、小林多津衛(1896~2001)の生涯と民藝への関心の背景にある歴史的文脈を紹介しようとする展示を新たに始めることができ、とても嬉しく思っています。

 この民藝館の面白さは、単に美しい工芸品を集めた美術館ではないことです。実はそれ以上のものなのです。民藝館は地域とその暮らしの象徴であり、工芸品のコレクションはその暮らしの中に埋め込まれています。それが多津衛民芸館のユニークなところだと思うので、展示替えのためのリサーチや準備では、このストーリーをできるだけ整理してみました。

 民藝館を支えてきた人たちは、今も地域の中で活躍しています。農家を営み、野菜や生鮮食品で地域の学校を支えている人、地域の平和活動に携わっている人、地方議会議員を務めるメンバー、地域の伝統的な保存食や料理の知識を若い家族に伝える活動をしている人など、さまざまなメンバーがいます。そこには、地元に密着し、地域との強い絆を築くという思いが込められています。農業、食、生涯学習と並んで、工芸、音楽、芸術がその中心的な役割を担っているのです。つまり、自主的な地域自治を重視しながらも、地方議会を通じての地域政治や、国政にも常に関与しているのです。

 今の若い人たちは、基本的に大きな政治に希望を持てなくなっているような印象を受けることがあります。確かに代議制民主主義は弱体化し、地方や国の政治家の言動にはビジョンが感じられなくなっているように思います。しかし、民藝館で先輩の方々と一緒に仕事をしていると、私は重要な教訓を得るのです。

 社会変革や活動は、できるだけ多くの面で同時に行わなければならないということです。あらゆるチャンネルを投じて、より良い世界を作っていくこと、ローカルな活動(アナキストの視点と言えるかもしれません)と同時に、地域や国の政治に参加することも重要であると思います。平和研究の創始者の一人であるノルウェー人のヨハン・ガルトゥング氏は、継続的な活動を行うための優れた指針を提示しています。「平和とは、暴力を使わず、共感をもって、創造的に紛争を変革する能力であり、終わりのないプロセスである」。この「終わりのないプロセス」はまさに様々なスケールで実践されていくのが、多津衛民芸館の先輩たちから学んでいることです。

プロフィール

ロジャー・マクドナルド

東京都生まれ。幼少期からイギリスで教育を受ける。大学では国際政治学を専攻し、カンタベリー・ケント大学大学院にて神秘宗教学(禅やサイケデリック文化研究)を専攻、博士課程では近代美術史と神秘主義を学ぶ。帰国後、インディペンデント・キュレーターとして活動し、様々な展覧会を企画・開催。2000年から2013年まで国内外の美術大学にて非常勤講師もしている。2010年長野県佐久市に移住後、2014年に「フェンバーガーハウス」をオープン、館長を務める。著書『DEEP LOOKING 想像力を蘇らせる深い観察のガイド』が発売中。

【多津衛民芸館リニューアルオープン記念イベント】
2022年9/23(金)アートキュレーターとして活躍するロジャー・マクドナルドが手掛けた新しい展示の世界を、館長・吉川徹とともに解りやすく解説。10/23(日)には、特別講義・対談を開催予定。民藝の最高峰、日本民藝館よりゲスト村上豊隆(日本民藝館学芸員)を迎え、異ジャンルの専門家たちが「民藝」について語る。
第1部 民藝の今とこれから(村上豊隆)
第2部 なぜ、多津衛民芸館はユニークなのか?~新展示から読み解く~

Official Website
fenbergerhouse.com