カルチャー
RADICAL Localism Vol.4/未来はどうやって想像できるのか?
文: ロジャー・マクドナルド
2022年2月7日
photo & text: Roger McDonald
cover design: Aiko Koike
edit: Yukako Kazuno
望月はまた寒い冬を迎えていて、この時期は、暖かいストーブの前で本を読むことが多くなります。特に今年は、この数年のうちに出版された「気候フィクション」とも呼ばれるジャンルを読んでいます。

これは、気候危機をベースに書かれた、文学でSF的なアプローチから、超リアルなアプローチまであって、面白いジャンルです。ひとつ共通しているテーマは、地球のシステムが限界を超えて、危機的状況のなか「どうやって未来を考えられるのか?」に注目しているところです。さらに言うと「未来そのものを想像できる時代なのか」ということです。文学作品のなかでは、色々なユートピア、カタストロフや人間の生き方の可能性がマッピングされています。
昔から、文学だけではなく、映画でもこのようなことは行われてきました。気候変動がストーリー の背景にあって、描かれる未来は多様。私が見た映画の中で、特に二つ、記憶に残る作品を紹介します。2013年、監督ポン・ジュノの『スノーピアサー』では長い電車が、気候変動によって破壊された地球を永遠に一周するストーリーで、電車は、今の世界の格差を極端に表現しています。

2017年監督アレクサンダー・ペインの『ダウンサイズ』はちょっと珍しく、気候変動を緩和するために人間をミニチュア化するストーリーです。二つの映画は、今の経済成長で豊かな生活を重要な要素として考えていると思います。『スノーピアサー』では格差問題がさらに大きくなっていて、社会が完全に分離している未来を描いています。『ダウンサイズ』で描かれるミニチュア化は、消費中心な生活を維持するために導入され、根本的に、人間や自然界の関係の見直しはありません。つまり、この二つの映画の未来像では、今と同じ生活や便利さを求めている未来が象徴され、人間や社会が変わることへの難しさを感じます。
もちろん地球は今、映画や本のストーリーのような状態ではありませんが、現実的に将来、海面上昇が進めば、この地球に存在する多くの国がなくなることもリアルではないでしょうか。マーシャル諸島や、モルディブ諸島はまさに今、非常に具体的な危機を経験していて、「未来」と言う言葉の響きも重いでしょう。日本にいる私たちも、島国の未来として関係していることを想像しなければいけないと思います。
2021年9月に興味深い研究がイギリスの「ランセット」で発表されました。これは、10カ国16〜25歳の若い人たち10,000人を対象に行われた調査です。気候変動や、これに対する政府のレスポンスに対して回答する内容でした。59%が気候変動に関して「非常に心配」と答え、50% が「悲しみ、不安、無力さ」を感じていることも明らかになりました。気候変動における精神的不安やストレスは現実問題です。そして、これが健康やウェルビーイングに与える影響も大きいでしょう。

多くの若い人が不安な気持ちを感じているなか、新たな宇宙への投資も起きています。億万長者によって莫大な資本が使われ、個人の宇宙旅行や未来の宇宙開発の動きがあることも興味深いです。 1960年代には、宇宙とは多くの人にとって明るい未来の象徴であったことは事実だと思いますが、 今起きている宇宙成長は、果たして地球の多くの人に支持されているのでしょうか? むしろ格差の象徴として考える人も多いのではないでしょうか。
さらに宇宙ビジネスが溢出するCO2も問題として指摘されています。ロンドン大学の研究によると*(参照)長距離の飛行機旅行は、乗客一人当たり1〜3トンのCO2を排出するということです。ひとつのロケット発射には平均4人の乗組委員が乗るため、CO2排出は200〜300トンにものぼるとされています。
これからの世界をどうやって想像できるのか? みんなが共有できる未来への物語はあるのでしょうか? 今、科学者たちの研究を通じて感じるのは、もしかすると一番重要なストーリーを語っているのは地球そのものかもしれないと思います。このストーリーに耳を傾けるとき、人間は謙虚になって、今までと違う地平線に向かって動けるのでしょうか? まず、フィクション、映画やアートを通して、いろいろな未来を想像してみることは大事なスキルかもしれないと思います。
*https://www.theguardian.com/science/2021/jul/19/billionaires-space-tourism-environment- emissions
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ロジャー・マクドナルド
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