カルチャー

RADICAL Localism Vol.10/「安定した自然」がない世界

文: ロジャー・マクドナルド

2022年8月7日

熱波で赤く染まったヨーロッパ、2022年夏。

 2022年6月、気になる科学論文が発表されました。IOP出版の『Environmental Research: Climate』(環境研究: 気候)に掲載された、異常気象と気候変動の関係についての論文で、オックスフォード大学、インペリアル・カレッジ・ロンドン、ビクトリア・ユニバーシティ・オブ・ウェリントンの研究者によって書かれました。

 この論文は、比較的最近発展している「アトリビューション・サイエンス(帰属科学)」の方法を使って、異常気象イベントと気候変動の関係がどのぐらいあるかを研究したものです。熱波など一部の異常気象については、世界中で気候変動との関連性が明確であること、また、保険会社・経済学者・政府によって、その影響の程度が過小評価されている可能性が高いことを指摘しました。論文では、さらに詳しい研究が必要だと強調されていますが、今世界中で起きている熱波や大雨と人為的気候変動の関係は否定できず、真剣な問題として考えるべきだと思います。

 私が住む長野県、望月は昔から農業が主な仕事です。12年前、東京から引っ越してきてから僅かですが、自然のサイクルと農家の暮らしや知恵を経験してきました。農耕文化の成功の鍵の一つは、自然のパターンやリズムを予測する知識の蓄積でした。雨が多い季節や日照時間が長い季節を知ることで、農家は作付けや収穫の計画を立てることができるようになったのです。

私が仲間とやっている田んぼ、望月。

 しかし近年、人為的気候変動の影響で比較的安定していた自然のパターン(リズム)が不安定になってきたと思います。今年も梅雨が短かったり、7月に入っても曇りや雨の日が非常に多い日が続きました。農業という重要な文化そのものが、今大きな危機を迎えていると言えるのではないでしょうか。もし、このまま人間の過剰な経済活動が続けば、さらに気候が変わり、人間にとって「安定な自然」もしくは「頼れる自然のパターン」が乱れて、農業と私たちを支える食糧生産に巨大な変化が訪れるかもしれません。

大雨の日本、2022年夏。

 この報告書を読んだとき、人間は開発という概念を維持するために、自然をパターンの繰り返しの予測可能な空間として枠付けしてきたのだと感じました。しかし、私たちが地球から搾取している化石燃料は非常に不安定で、混沌とした自然界のシステムを指していると考えることができます。何十億という生物、植物が無数の破局的な出来事で滅び、ゆっくりと堆積物を作り、それが石炭や石油となったのです。1980年に出版された素晴らしい書籍『オーバーシュート』(Overshoot:The Ecological Basis of Revolutionary Change)では、著者のウィリアム・R・キャットンは大きく自然のシステムを過剰に消費する人間のことを「ホモコロサス」(古代ギリシャ語で「巨大なもの」を意味する)と呼びました。

 経済発展と豊かさを求めている先進国の一人当たりの人間が地球に与えるエネルギー衝撃をこのフレーズで表しています。我々「ホモコロサス」は、今自然界の予測できたパターンまでも変えようとしているのではないでしょうか。私たちは、混沌としたパターンと、加速する不確実な地球システムを作り出しているのです。

プロフィール

RADICAL Localism Vol.10/「安定した自然」がない世界

ロジャー・マクドナルド

東京都生まれ。幼少期からイギリスで教育を受ける。大学では国際政治学を専攻し、カンタベリー・ケント大学大学院にて神秘宗教学(禅やサイケデリック文化研究)を専攻、博士課程では近代美術史と神秘主義を学ぶ。帰国後、インディペンデント・キュレーターとして活動し、様々な展覧会を企画・開催。2000年から2013年まで国内外の美術大学にて非常勤講師もしている。2010年長野県佐久市に移住後、2014年に「フェンバーガーハウス」をオープン、館長を務める。著書『DEEP LOOKING 想像力を蘇らせる深い観察のガイド』が発売中。

Official Website
fenbergerhouse.com