カルチャー
RADICAL Localism Vol.7/カタストロフに適応するためのアート
文: ロジャー・マクドナルド
2022年5月7日
text: Roger McDonald
cover design: Aiko Koike
edit: Yukako Kazuno
![フェディル・テチヤニッチ](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2022/05/Fedir-Tetyanych-5.jpeg)
ウクライナ、キエフ出身のフェディル・テチヤニッチ(1942-2007)は、ウクライナ前衛芸術の先駆者として、幅広く作品や文書を残しました。彼は非公式美術(unofficial art)を代表するアーチストです。
![フェディル・テチヤニッチ作『バイオテクノスフィア』](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2022/05/Fedir-Tetyanych-Biotechnosphere-city-of-immortal-people-1989-Kiev.jpeg)
『バイオテクノスフィア』と呼ばれる装置のような作品があるのですが、これは地球にカタストロフが起きたときに、人類を救うものとして制作されました。彼が活躍していた1980年代には、ウクライナでチェルノブイリ原子力発電所事故が起きたのですが、彼にとってカタストロフが現実として起きた大きな出来事で、それまでの生活を支えてきた時空が破壊されてしまったことでもあったのです。原発事故周辺から多くの人が避難し、そこで当たり前とされていた時間の流れと、自由に動ける空間が変わってしまいました。
テチヤニッチは「Fripulya」という概念を中心に考えていました。これは英語の自由=freeと、脈拍=pulse, pulsationを融合した造語で、宇宙の無限を意味します。 彼はまた「私は無境界」と宣言しました。ソビエト時代の文脈から考えると、あらゆるイデオロギーや人間の地球や動物、人間への暴力に対して抗議していたとも言えるでしょう。
1970〜1980年代には、このような考えを実践するアーチストが、世界中で作品を制作していたことも興味深く思います。日本では松澤宥(1922- 2006)、キューバ系アメリカのアナ・メンディエタ(1948-1985)や、アメリカ人のアンナ・ハルプリン (1920-2021)が挙げられるでしょう。彼らはエコロジー的な視点をベースに置いて、地球のシステムが限界を超えていることを感知し、核兵器と戦争、そして近代資本主義経済社会がもたらした様々な険悪な影響について作品を通して警報を鳴らし、別の生き方や可能性を探りました。私はこのようなアーチストたちを「ビジョナリー」と呼んでいます。
![テチヤニッチの『バイオテクノスフィア』](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2022/05/Fedir-Tetyanych-2.jpg)
テチヤニッチの『バイオテクノスフィア』は 大災害の際、人類を支えるための万能モジュール/カプセルのようなオブジェです。廃棄された木材やアルミホイルなど、日常生活で発生する廃棄物から作られていますが、レオナルド・ダ・ヴィンチの空想的な発明を彷彿とさせる作品も制作していました。彼は、街や自然のなかで制作し発表していたので、 写真やスケッチ以外に現存する作品はほとんどありません。現在進行中のロシアウクライナ戦争では、テチヤニッチのアーカイブもキエフにある家族の実家に残っているそうです。(3月2日friezeでの記事: https://www.frieze.com/article/nikita-kadan-interview-2022 )
プロフィール
ロジャー・マクドナルド
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