LIFESTYLE

RADICAL Localism Vol.6/中世の修道院から見えてくる未来

文: ロジャー・マクドナルド

2022.04.11(Mon)

photo & text: Roger McDonald
cover design: Aiko Koike
edit: Yukako Kazuno


ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの書籍

 最近、もう一度ヨーロッパ美術史を読んでいて、とくに初期ルネサンス時代の絵画について考えています。この時代の絵画はとくに好きで、色々な文化や形式が混ざって、新しい表現が生まれようとしていた時代だと思います。歴史的にこの時代は「中世」あるいは「暗黒時代」と呼ばれていて、古典ローマ文明の長い崩壊の後の時代を指します。

 この時代に大きく花開いたもうひとつの文化は、キリスト教の修道院です。これはアッシジのフランチェスコや、ヌルシアのベネディクトゥスが始めた、非常に厳しくシンプルな生活を実践する修道会のことを指します。フランシスカン、ベネディクト修道会から、新たなフレスコ画や多くの人に芸術を通して物語を発信する方法が生まれました。この時代に、修道院という非常に興味深い場所も生まれたのです。自給自足のコミュニティーの「原型」として考えてもいいでしょう。


修道院の庭

 パーマカルチャーの共同創始者の一人であるデビッド・ホルムグレンは、2009年の書籍『未来のシナリオ―ピークオイル・温暖化の時代とパーマカルチャー』(日本語訳2010年・農山漁村文化協会)で、この中世時代の修道院を「ライフボートコミュニティー」つまり「救命艇のような共同体」と定義しました。ホルムグレンから見ると、修道院の壁の中では、ヨーロッパの「基礎的」思想、 文化芸術や様々な知恵を守ることができて、イタリアルネッサンスで再発見されるまで、安全に保管できた場所のひとつであったと述べています。これは興味深い考えで、もっと幅広く見てみると、色々な文化においても修道院や、お寺の役割でもあったのかもしれません。

 ひとつ、修道院の例を紹介します。ドイツのベネディクト会修道院長であり、作家・作曲家・神秘思想家・医学作家・芸術家のヒルデガルト・フォン・ビンゲンが1150年に設立した、ルペルツベルク女子修道院です。ここで彼女は、非常に多様な研究や活動を実践しました。3歳から始まったとされる「ビジョン」神秘体験をベースに、ヒルデガルトは絵の入った詩「シヴィアス」を執筆し、多くの宗教曲も書きました。ヒルデガルトの聖歌は、中世の作曲家の中で最も多く現存しています。

 ヒルデガルトは、 霊的な力、ハーブやチンキを使ったヒーラーとしてよく知られています。『自然学』には、植物・石・動物の薬効に関する彼女の理論と実践を詳述した9冊の本が収められており、ホップが防腐剤として、ビールに使われることに初めて言及した本だと考えられています。修道院は理想の生き方の見本でもあり、苦しんでいる人たちにも広かれていた「心のケア」を実践する場所でもあったのです。野菜・果樹・ハーブ・酪農・図書館・学校・ゲストハウス・様々な職人の工房や、病院も修道院の敷地に存在していました。このような非常に総合的なコミュニティーを表す、最も古いプランは、ザンクト・ガレン修道院で、9世紀に書かれた、現存する唯一の中世初期の主要な建築図面です。


スイスの都市ザンクト・ガレンにある修道院の建築図面

 このコラムでいろんな「オルタナティブ」な生き方やこれからの時代においてのコミュニティーの形を考えていますが、中世の修道院もひとつ何か大事なモデルを提示してくれていると思うのです。私が住んでいる過疎地域では、昔の修道院のような壁に囲われた空間ではなく、例えば、ある街全体を「修道院的コミュニティー」として考えることもできるのではないでしょうか?多くの地域では多分、部分的に実践されている要素があるでしょう。修道院の事例から学べることはこの「バラバラ」な要素を総合的に考え、繋がっている、ひとつのストーリー(ビジョン)があるコミュニティーとして再評価することかもしれません。これからの危機の時代において、修道院から学べることは大きいと思います。 これに、21世紀の技術、デジタルテクノロジー・スキル・言葉や緊急性を加えて、人間が昔から守ってきた知恵と一緒に考え、全てと深く関係性を持っている「ケア」を軸に置いているコミュニティーを作っていけるのではないでしょうか?


ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの書籍より

 そして、修道院が持つ幅広い世界観も大事です。つまり、宗教や儀式を通して人間と宇宙 「コスミック」な領域の関係性を考え、実践するとともに、土や地球の生命システムとも非常に深く繋がっている。手仕事、体から学ぶ経験と一緒に、瞑想・芸術や民主的な話し合いといった要素が全て、修道院には存在していたのではないかと思います。今の時代では、テクノロジーが急遽、私的な役割を果たしていますが、この中世時代の実践から学べることは、我々は、複雑で多様な要素の関係性の中で生きているということではないでしょうか。 テクノロジーや最新の科学も総合的な生活のひとつとして迎え入れて、幅広い経験や知恵があることを意識しながら未来を想像することが求められているのではないでしょうか?

プロフィール

ロジャー・マクドナルド

東京都生まれ。幼少期からイギリスで教育を受ける。大学では国際政治学を専攻し、カンタベリー・ケント大学大学院にて神秘宗教学(禅やサイケデリック文化研究)を専攻、博士課程では近代美術史と神秘主義を学ぶ。帰国後、インディペンデント・キュレーターとして活動し、様々な展覧会を企画・開催。2000年から2013年まで国内外の美術大学にて非常勤講師もしている。2010年長野県佐久市に移住後、2014年に「フェンバーガーハウス」をオープン、館長を務める。

Official Website
fenbergerhouse.com
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