カルチャー

人生で大切なことは映画が教えてくれた。/森田るり

2022年8月5日

illustration: Kei Mogari
text: Ichico Enomoto, Katsumi Watanabe, Koji Toyoda, Ryoko Iino, Aya Muto
2022年8月 904号初出

人生とは…
寂しさと上手に付き合えばいい。

森田るり
森田るり 漫画家

 17歳ってこれから環境が大きく変わる年齢。地元を出て、不慣れな街で新しい生活を始めたときに、寂しい気持ちで胸がいっぱいになることもあると思うんですよ。でも、その孤独感とうまく付き合ってもらうことができたら、と、私なりに考えたのがこの3本。まず、『スイス・アーミー・マン』。この映画は本当に寂しいところから始まるんですけど、孤独の描き方が愛らしくて綺麗で。鬱蒼とした森の中で孤独を抱えたポール・ダノ演じる主人公ハンクがバスや家を模したオブジェを作るシーンがあるんですが、完成度がものすごい。あれを見るに孤独というのはクリエイティビティを育てる栄養でもあり、意外と悪いことばかりじゃないぞーって思えてくる。

 その一方で、昔の親友と疎遠になる寂しさもあると思います。そんなときは、『フランシス・ハ』。主人公のフランシスと親友のソフィーがキャッキャッとやっているんですが、物語が進むにつれて、あの蜜月はまるで嘘であったかのように2人はすれ違うようになってしまいます。でも、お互いの立場が今までと異なることになったとしても、仮に約束を破られたりしても、親友は親友だし、楽しかったあの日々が絶対に失われることはない。そんな気持ちを胸に、現実世界のうまくいかない感じをちゃんと受け止めて、前に進もうとするフランシスの姿には孤独な読者諸氏はたぶん励まされるはず。

 その点、アルフォンソ・キュアロンがメガホンを取った『天国の口、終りの楽園。』は、少々ビター風味(この映画はゲイフォビックな会話がよく出てくるのでちょっと注意)。冒頭では仲良しだった馬鹿な男の子2人が1人の人妻との紆余曲折を経て、ラストでは完全に疎遠になってしまうんですが、その物悲しさもある意味美しい。いや、でも、もしかしたら、そう思えることが大人になるための第一歩なのかも。寂しいが美味しいと思えるようになったら人生の楽しみ方がもっと増えるのでは。

天国の口、終りの楽園。 映画特集
監督:アルフォンソ・キュアロン/2001年/106分
仲良しの男友達2人が、とあるパーティで知り合った人妻とともにカリブ海沿岸の伝説のビーチ「天国の口」を目指す。夏のメキシコを駆け抜ける官能的なロードムービー。青年をガエル・ガルシア・ベルナル、ディエゴ・ルナが演じる。

プロフィール

森田るり

もりた・るり|漫画家。熊本県生まれ。美大を卒業後、2013年に講談社の漫画雑誌『アフタヌーン』で漫画家デビュー。代表作は『我らコンタクティ』。新作の『自転する彼(女)』は、「コミックDAYS」にて読めるぞ。