カルチャー

おもしろい映画、知らない?/信濃八太郎

アニメーションが素敵な実写の映画

2021年11月14日

text: Satoshi Taguchi
illustration: Gramas

どストライクに好きな映画というものを、どうやって探せばいいだろう?
アクション、コメディといっても色々だからジャンルでは絞りきれないし。問答無用に師弟関係の描かれた映画に涙腺がユルかったり、倦怠期の夫婦モノとか、特定の人物設定がツボだったり。その傾向をもっと定められたら、ハズレなしの日々が待っている(はず)。
「何回でも観られるわコレ!」って映画に出合う確率を30%くらい上げるため、ポパイが気になる方々に頭を捻ってもらうことにしよう。

 イラストレーターという職業柄、劇中のアニメーションには注目してしまいますね。パレットクラブという絵の学校に通っていたとき、原田治先生に「タイトルデザインがいい映画を集めてみたよ」とリストを頂いたのがきっかけです。載っていたのはヒッチコック作品などでお馴染みのソウル・バスやモーリス・ビンダー。どれも素晴らしい作品ばかりで感激しました。

 劇中のアニメですぐ思いつくのは『ロビン・フッド』。エンディングのタイトルを、ジャンルイジ・トッカフォンドが作っています。実際にあったシーンをもとに、筆で着色したアニメーション。すごくカッコイイ。物語のフィナーレで感動したはずなのに、それを上回ってしまいましたから(笑)。主演のラッセル・クロウの暑苦しい顔がどっかに行っちゃうくらい、あの映像にはシビれちゃったんです。トッカフォンドは〈ユナイテッドアローズ〉のCM(1998年)も手掛けてますね。

ロビン・フッド
(監督:リドリー・スコット|2010年|アメリカ、イギリス|140分)
中世英国の伝説的な英雄、ロビン・フッドを描いた、歴史スペクタクル。美しくて重厚感のある映像は巨匠監督ならでは。

 それから『怪物はささやく』。ジム・ケイという、絵本版『ハリー・ポッター』なども描いている方の絵がすごく美しい。オープニングだけじゃなくて、劇中にも2度、アニメが登場します。この映画ではイラストレーションがとても大事な役割を担っているんです。同業者として嬉しいし、励みになります。『デトロイト』もそう。監督のキャスリン・ビグローが「ジェイコブ・ローレンスの絵がないと、映画は成り立たなかった」と話していたくらいで。オープニングタイトルでローレンスの作品をもとにして、アメリカでいかに人種差別が根深いものかを伝えていく。一見、素朴なタッチですが、誰にも真似できない世界観なんです。映画へ一気に引き込まれます。

怪物はささやく
(監督:フアン・アントニオ・バヨナ|2016年|スペイン、アメリカ|109分)
英国で人気のダークファンタジー小説を映画化。子供向けのようにも感じるが、答えはNO。物語は奥深く、心理描写も繊細。美しいアニメはもちろん必見。
デトロイト
(監督:キャスリン・ビグロー|2017年|アメリカ|142分)
1967年のデトロイト暴動を題材にした作品。中盤以降は実際にモーテルで起こった殺人事件に焦点が絞られる。人種差別、密室、白人の狂気。歪んだ暴力を描く。

 邦画もいくつかありますが、『金田一耕助の冒険』はぜひ。本編は当時流行した映画やCMのパロディがてんこ盛りで、今見るとけっこうシュールなんですが。その一方で、主演が古谷一行と田中邦衛、客演に三船敏郎、岡田茉莉子、横溝正史。やけに豪華ですよね。なんていうか、昭和の大人たちが楽しみながら作りました、みたいな世界なんです。しかもアニメーションは和田誠さんですから。チャーミングでタイトルからすでに、素敵な余裕みたいなのが伝わってくる。和田さんといえば『ゴールデン洋画劇場』のオープニングも大好きです。

金田一耕助の冒険
(監督:大林宣彦|1979年|日本|113分)
横溝正史『瞳の中の女』をもとにしたパロディ満載のコメディ作品。和田誠による冒頭のアニメーションシーンはお茶目で今も色あせない魅力が。

プロフィール

信濃 八太郎

しなの・はったろう|イラストレーター。1974年生まれ。学生時代より安西水丸氏に師事。現在は書籍や雑誌、広告、舞台美術などで活躍。2017年よりWOWOWの映画番組『W座からの招待状』に出演中。

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