ファッション
古着のクロニクル。【前編】
ファッションとしての古着をひもとく。
2022年6月16日
photo: Yoshio Kato, AFLO
illustration: Shinji Abe
edit: Koji Toyoda
2017年12月 848号初出
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1972
下北沢に『シカゴ1号店』開店。
伝説の古着屋『極楽鳥』が開店したのもこの頃。
ファッションとしての古着の始まりは、このあたり。千駄ヶ谷には『極楽鳥』という、伝説の古着ショップがあり、古着とともにネオンサインなどアメリカ雑貨などが売られていたと聞く。当時、人気だったユーズドアイテムは〈シーファーラー〉のネイビーカラーのセーラーパンツ。
レーヨンやシルクのアロハシャツ、ネルシャツなど。アイコンはニール・ヤングやアメリカなどのロックバンドだった。LP盤のジャケットを食い入るように眺めたとか。デニムパンツの主流は〈リーバイス〉517や505など少しヒッピーの匂いがするもの。501派は少数だったという。
1975
『Made in U.S.A. catalog』が発売。
ファッションから日用品までを網羅した『Made in U.S.A. catalog』。表紙に〈リーバイス〉501が大きく描かれ、このパンツがメインストリームになる大きなきっかけとなる。
1976
原宿に『クリームソーダ』がオープン。
竹下通りには人気の古着屋『赤富士』があった。
オープン当初の『クリームソーダ』はロンドンやアメリカ西海岸で仕入れた、古着のアロハシャツやラバーソールなどを販売。原宿に集うとんがったキッズたちに“フィフティーズ”という言葉をいち早く教えた。系列の古着屋『ガレージパラダイス』も人気。『ポパイ』も創刊され、西海岸のスタイルが注目され始める。また、『ビームス』や『SHIPS』の前身『ミウラ&サンズ』でもデッドストックを扱っていた。アイテムとしては、〈リーバイス〉911や518などピケやカツラギパンツが流行。
1979
原宿に『サンタモニカ』が開店する。
アメリカ古着の“良心”かつ、日本の古着シーンを代表する店などがオープンして、来るべき’80年代への盛り上がりの土台が整っていく。
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1981
原宿に『バナナボート』と『デプト』がオープンする。
開業時より『バナナボート』はヴィンテージデニムのデッドストックを集めていた。’66年製501がバリバリ揃っていたそう。一方の『デプト』はトレンドセッター的存在。ヨーロッパ古着やサイケデリックなアイテム、古着のスカーフなどをいち早く取り入れていた。同じ頃、アメ横では『クリスプ』が、アメリカ直輸入のデッドストックを大量に仕入れ、注目を浴びていた。〈リーバイス〉のファーストやセカンドのジージャン、501XXがゴロゴロ置いてあった。当時のXXの価格はなんと3万8000円くらいだったとか。安い!
XX。パッチのXXの文字で見分けた。
1983
原宿に『ボイス』がオープン。
映画『アウトサイダー』が公開される。
『アウトサイダー』はフランシス・フォード・コッポラ監督作品で、マット・ディロンやトム・クルーズなど若手俳優が繰り広げる群像劇。ライダース、Tシャツ、デニムのシンプルな格好よさは、後に、木村拓哉が「影響を受けた」と公言するほど。原宿にレギュラー古着の殿堂『ボイス』もできる。
1984
原宿に『フェイクアルファ』がオープン。
この街が古着の中心地に。
『シカゴ』『サンタモニカ』『ボイス』などアメカジ古着ブームを牽引する名店が出揃い、〈リーバイス〉の501も浸透。当時は、耳付きが当たり前。6900円くらいだった。同じ頃、出来たてのヴィンテージショップ『フェイクアルファ』にはXXなどを求め人が集まるように。
1986
映画『トップガン』が公開され、フライトジャケットが人気に。
雑誌『ブーン』が創刊。
『トップガン』の主演トム・クルーズの影響もあり、MA-1がブームに。古着屋では新品とユーズドともに飛ぶように売れた。同年、雑誌『ブーン』が創刊。’90年代に入ると、毎号“即ゲット指令”が下され、“うんちく”のあるヴィンテージ至上主義の象徴となる。
1988
“渋カジ”が大ブーム!
渋谷発信のスタイル“渋カジ”が嵐のように広がっていった。紺のブレザー、ボタンダウンシャツ、〈リーバイス〉の501。それに〈ティンバーランド〉のデッキモカシンを合わせるのがお決まりのスタイルだった。古着屋では、レギュラーの501も飛ぶように売れた。
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1990
“渋カジ”が“キレカジ”へと進化する。
“渋カジ”を経てアメカジは細分化される。〈バンソン〉のライダース「TJP」をまとうバイカーのようなハードコアスタイルもある一方、品を求めた若者たちはジャケットにジーンズを合わせる“キレカジ”に。程よく色落ちしたブラックの501を古着で買い求めた。さらに’92年になると“デルカジ”へと進化。
1991
原宿に『マービンズ』がオープン。
ヴィンテージ人気は一気に加速。“両V”、“雪柄スウェット”、“66モデル”などの古着用語が日常会話で飛び交うほど。“ヴィンテージ博士”というべき、店主・半沢和彦さんに会いたくて、『マービンズ』に古着好きは殺到。時を同じくして、オールドスケートブーム到来。〈パウエル&ペラルタ〉、〈サンタクルズ〉や〈タウン&カントリー〉などの’80年代に登場した初期アイテムが早くもヴィンテージ化現象が巻き起こる。
“両V”スウェット¥9,800
1992
カート・コバーンが“カリスマ”となり、街にグランジスタイルが溢れる。
前年、全世界4000万枚の売り上げを誇るモンスターアルバム『ネヴァーマインド』を発表したニルヴァーナの人気が爆発。特に、ボーカル&ギターのカート・コバーンがカリスマ的人気を得る。彼のネルシャツやモヘアカーディガンの古着スタイルは、その音楽にちなんで“グランジ”と呼ばれた。
1993
映画『マイ・プライベート・アイダホ』が公開され、リヴァー・フェニックスの人気は最高潮に。
カート・コバーンと並ぶ、当時の古着アイコンが俳優のリヴァー・フェニックス。この映画での、ワッペン付きワークシャツの上にボアブルゾンを羽織り、浅くニットキャップをかぶった姿は古着のこなれ感としては最高峰。彼はこの年、カート・コバーンは翌年、夭折する。
1994
〈グレゴリー〉のロゴが大きく変わり、タグによる付加価値が生まれる。
バックパック界のロールスロイスこと〈グレゴリー〉が前年にロゴをがらっとチェンジ。それまでの幾何学的なデザインから、さらっと筆で描いたようなものになる。変更前のロゴを支持する者たちは“旧タグ”を探し求めることに。以降、見た目は同じでもタグなどのディテールで価値が変わる文化がより広まる。
1995
浜田雅功のスタイルを真似る“ハマダー”が街に増殖。
“ハマダー”とは、浜田雅功の定番スタイル、スカジャンにヴィンテージデニム姿をまんま真似る人たち。この年、H JUNGLE WITH T名義で「WOW WAR TONIGHT」が大ヒットし、キムタクとW主演のドラマ『人生は上々だ』も放送された。
1996
アトランタ五輪を契機に、Jリーガーの前園真聖の人気が爆発。
パフィーがデビューして、女子もヴィンテージに目を向け始める。
映画『トレインスポッティング』が公開され、ユアン・マクレガーのチビTスタイルが注目される。
渋谷に『ヌードトランプ』がオープンする。
ブラジルを相手に世紀のアップセットを起こしたサッカー五輪代表の中でも、前園真聖が際立った存在感を見せる。極上のヴィンテージスウェット&デニムパンツを身に着けて、『ブーン』などストリート雑誌の表紙を飾りまくる。大きめのデニムパンツに〈レッドウィング〉のブーツという、パフィーのヴィンテージスタイルは男女問わず支持される。
00(ベルベルジン)
うん百万円という501XXもざら。それでも売れた驚異の時代だった。ありきたりなヴィンテージに飽き足らなくなった人たちはデニムのカバーオールを探すなど、古着はより細分化されていくことになる。
一方、映画『トレスポ』人気を受けて、サイズの小さい“チビT”を探す男子が続出。こちらはかなりチープな価格で手に入った。古着人気を受けて、代々木公園などフリーマーケットに人が溢れかえる。
¥25,800(ベルベルジン)
さらに渋谷には『ヌードトランプ』がオープンし、ユーゴスラビア製の〈プーマ〉など、ヨーロッパ製のスニーカーを大量に仕入れる。また、’80年代の〈コンバース〉オールスター、通称“銀箱”のヒットも。『AMETORA』によると、この年、アメリカからの中古衣料の輸入額が13億円相当に到達。’91年は2億4000万円だったことを考えると異常な量だった。
special thanks: Manabu Harada, Yosuke Otsubo, Yutaka Fujihara(BerBerJin), Hitoshi Uchida(Jantiques), Kazuhiko Hanzawa(Marvin’s), Koji Tanigawa(Paletown), Ethan Newton(Bryceland’s & Co.), Rintaro Tanaka
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