ファッション
古着のクロニクル。【後編】
ファッションとしての古着をひもとく。
2022年6月23日
photo: Yoshio Kato, AFLO
illustration: Shinji Abe
edit: Koji Toyoda
2017年12月 848号初出
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1997
原宿に『ナンバー44』がオープン。
町田、柏、大宮、藤沢など郊外の古着タウンが盛り上がりを見せる。大阪に突如、“デカ履きブーム”が到来する。
スイス軍のミリタリーブランケットに手を加え、コートに仕立てるなど、『ナンバー44』はアメリカものが優勢だった東京にヨーロッパ古着という新しい価値観をもたらした。この頃から、都心近郊の街に古着屋が林立。毎週末、町田(東京)、柏(千葉)、大宮(埼玉)、藤沢(神奈川)に古着ハンターたちは遠征していた。なかでも、〈エヴィス ジーンズ〉や〈ウェアハウス〉などが、“ヴィンテージレプリカデニム”というジャンルを新たに打ち立てた大阪は、古着文化もかなり独特だった。US12サイズくらいの〈アディダス〉ジャバーなどのヴィンテージスニーカーを、ぎゅっと紐を縛った“デカ履き”の若者が闊歩していた。ハードコアやパンクに影響を受けて、短パンで脚にはタトゥーというスタイルもこの頃のトレンドだった。
1998
原宿に『ベルベルジン』1号店がオープン。
映画『バッファロー’66』も公開され、ヴィンセント・ギャロの古着を匂わせるスタイルが人気を得る。
現在の古着のトレンドセッターというべき『ベルベルジン』の歴史はこの年に始まった。当時から抜群の品揃えで、遅れてやってきたルーキー的存在だった。ヴィンセント・ギャロのタイトでこなれたスタイルに、古着好きは反応した。’50年代のレザーのスポジャケも人気。
1999
草彅剛がベストジーニスト賞を初受賞。
’70年代のサーフスタイルがギャル男の間で突如、流行する。
生粋のデニムラバーである草彅剛が念願の栄誉に輝き、長髪&茶髪&色黒のギャル男たちが、’70年代サーフブランドのヴィンテージ品に群がる現象が巻き起こる。古着屋スタッフの肌も少し黒かった。
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2000
渋谷に『ミスターハリウッド』が、
高円寺に『スティッフシム』、町田に『バックストリート』がオープンする。
古着屋および古着のスタイルがさらに新しい展開を見せたのはこの年。古着と新品を分け隔てなく行き来する若者が増え、その象徴が『ミスターハリウッド』。同じビルの系列店である古着屋『ゴーゲッター』と行き来しながら買い物をする人が多く見られた。ひとつのスタイルにこだわらず、古着らしいアイテムと、時代に関係なく面白いものを集めた“ニューエイジ系”の草分けとなったのが高円寺の『スティッフシム』だ。後に『黒ベンツ』『ロアール』など、そのスピリットは受け継がれていくことになる。古着の細分化と同時に深化の進行を象徴するのが『バックストリート』。〈パタゴニア〉のグリセードジャケットやダスパーカなど、’90年代のアウトドアの名品に特化したラインナップは熱狂的な支持者を得た。ちなみに、この頃、ブルース・スプリングスティーンなども頻繁に着用していた、’70年代の〈イーストウエスト〉のレザージャケットが、なぜかモード愛好者にも支持されるように。
2003
写真集『マイ・フリーダム!』の第一号が上梓される。
青山に『LAILA VINTAGE』が開店する。
“本物”を撮影しまくった、一つのドキュメンタリーでもある。
サーフィン、バイク、ホットロッド系など、’40~’70年代のアメリカのスポーツTシャツを撮影した、田中凛太郎の写真集『マイ・フリーダム!』の1号目が発表される。10号まで発売され、古着屋に置かれる書籍ナンバー1と言っていいほど。青山という古着屋らしくない街に開店した『LAILA VINTAGE』は、〈イヴ・サンローラン〉や〈クリスチャン ディオール〉などメゾンヴィンテージという新しい地平を切り開く。一方、〈ポロ ラルフ ローレン〉のネイティブガウンなどが局地的に人気を得た。
2005
中目黒に『ジャンティーク』、祐天寺(当時)に
『トランポット』がオープン。ロックTシャツが大人気となる。
元『サンタモニカ』のバイヤー、内田斉さんが満を持して自身の店『ジャンティーク』をオープン。古着だけでなく、取っ手や鍵などアンティークパーツを展開するスタイルは、後続の古着屋に新しい道を示した。『トランポット』は深夜系古着店というジャンルの先駆けになる。この頃、ヴィンテージTも注目され、なかでもロックTは爆発的な人気に。’80年代の“パキメン”と呼ばれる、パキスタンコットンを使ったロックTは3万円まで高騰。
2006
CFDAを受賞したトム・ブラウンが牽引する形でアメトラブーム到来。
〈トム・ブラウン〉の出現で、古着界にもアメトラブームの兆し。古着の〈ブルックスブラザーズ〉のシャツや〈シエラデザインズ〉の60/40クロスパーカを探す人が増える。その一方、エプロンやガウン、3ボタンのヘンリーネックにサスペンダーパンツなどクラシックなスタイルも流行。アメリカンヴィンテージクラシックの再評価を受けて、ハンティングJKTにも注目が集まる。また、ヴィンテージ店では、USネイビーのN-1などミリタリーものも人気に。
2007
京橋に『マインドベンダーズアンドクラシック』がオープン。
フランスのモールスキンのジャケットやリネンのアトリエコートなど、通好みのヨーロッパのワーク古着が一般層にも浸透する。
2009
渋谷の『ゴーゲッター』をきっかけに、オーバーサイズ古着が広まる。
バイヤーの伊藤陽介(現『シーン』代表)が、〈マリテ+フランソワ ジルボー〉のパンツなどのビッグシルエットの古着を打ち出す。この頃、すでにオーバーサイズのチェスターコートや〈チャンピオン〉のリバースウィーブでもワンポイント刺繍や目玉なしのXL以上のものをいち早く提案していた。
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2012
〈リーバイス〉606に代表されるスリムデニムの枯渇が始まる。
マック・デマルコの古着スタイルが密かに注目される。
501に押されて人気薄だったオレンジダブの606の価格が高騰。4900円くらいで販売されていた〈リー〉の「リーンズ」なども同じように値が上がり、デッドストックで10万円オーバーに。同年、カナダのインディーロックヒーロー、マック・デマルコがデビュー。着古したダックジャケットに、タバコの銘柄や観光地もののよくわからないキャップといういでたちは、新しい古着スタイルのアイコンとなった。
2013
〈イッセイ・ミヤケ〉や〈ヨウジ・ヤマモト〉など日本のデザイナーズものが古着シーンに躍り出る。
NYに『プロセール』がオープンして、’90年代古着の火付け役に。
’12年、ヨーロッパの雑誌『エンセンス』が〈イッセイ・ミヤケ〉や〈ヨウジ・ヤマモト〉など、日本のデザイナーズ特集「BACK TO JAPAN」を組む。これによって、日本でも早い人たちが“ジャパニーズモード”の古着を探すようになった。NYでは’12年末にオープンした『プロセール』が’90年代ものの古着を取り扱い、大人気に。日本でもキッズたちがその手の古着を必死で探すように。
2015
幡ヶ谷に『ペールタウン』がオープンする。レディスで〈リーバイス〉701がスマッシュヒット!
SNSなどの発達で、今まで脚光を浴びてこなかった古着とともにZINEやカセットテープなどを置き、独自な目線で古着を提案する店が増加。『ペールタウン』はその先駆け。レディスで〈リーバイス〉の701が人気に。アイコンはマリリン・モンロー。〈リーバイス〉の「シルバータブ」もリバイバル。
2016
青山の『H ビューティー&ユース』で
ヴィンテージ古着のコーナーができる。
青山にできた『H ビューティ&ユース』のひとつの売りとして地下に古着コーナーが常設される。『ビームス』も原宿店でポップアップ的に古着を置くなど、“セレクトショップにある古着”が日常的に。この年にまたまた〈チャンピオン〉のリバースウィーブブーム到来! XL以上が人気。また、〈シュプリーム〉が作ったアイテムが古着で流行るという現象も。ダービージャケットや〈ザ・ノース・フェイス〉のマウンテンライトジャケットなどのオリジナルが古着屋でも人気に。
2017
原宿に『オフショア』がオープンする。
〈ラルフ ローレン〉の”92コレクション”が復刻され、オリジナルが大人気に。
’90年代初期のスケートブランド、アートT、マルタン・マルジェラ時代の古着の〈エルメス〉のコートなどを同じ目線で紹介。ここで古着屋のミックス感はひとつの極みに達する。ヴィンテージの〈ラルフ ローレン〉マニアにはお馴染みだった“92コレクション”が復刻。’90年代古着人気の高まりと相まって、オリジナルの価格は青天井。
special thanks: Manabu Harada, Yosuke Otsubo, Yutaka Fujihara(BerBerJin), Hitoshi Uchida(Jantiques), Kazuhiko Hanzawa(Marvin’s), Koji Tanigawa(Paletown), Ethan Newton(Bryceland’s & Co.), Rintaro Tanaka
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