ライフスタイル

僕が住む町の話。Vol.10/文・須藤蓮

ノマド的自主興行

2022年6月4日

cover design: Eiko Sasaki
text & photo: Ren Sudou

僕は今、自作の映画「逆光」の自主興行をしている。

まるで旅芸人のように、いろんな街に数ヶ月ずつ滞在しながら映画の上映と宣伝活動をする、このスタイルを勝手に「ノマド的自主興行」と呼んでいる。

だから今の僕にとって「住む街」は月ごとに変わっているのだが、新しい街と出会うたび、それぞれの違いにびっくりする。

東京生まれ東京育ちの自分にとって、街ごとに人の傾向や価値観がこんなにも違うということはとても新鮮だ。

例えば映画の舞台でもある広島県の尾道市では、街の人たちの文化・哲学の成熟度が高すぎて面食らった。尾道の人たちの前では、「インスタ映え」とか「バズる」とか東京では気軽に使ってる言葉が、使えなくなる。なんというか”実の伴っていないこと”に安易に頷かない迫力のようなものがあるのだ。 フラッと入った喫茶店の店主さんに、自分のしている活動や映画の甘さについて的確に突っ込まれてビビったりする。一方で、誰かがやりたいことをやる時には、みんなで応援するような温かさもあって、それゆえに東京では絶対に見かけないような面白いお店がそこらじゅうにある。しかも全てDIYで行われていたりする。そんな尾道の人たちは、僕らの自主制作も自主配給もすごく応援してくださって、常にDIY的にいろんなアイディアを試すことができた。例えば無料のコーヒーをリヤカーで配ってみたり、街のいたるところに場所をお借りして写真展をやってみたり、お寺の本堂で大友良英さんのライブという奇跡のようなことも、街の人たちとのコラボで実現できた。結局僕は3ヶ月ほど滞在していたのだが、尾道の人たちから「なんか至る所で映画にまつわる対話が生まれてるよ」と言われることがとても嬉しかった。(ヒヤヒヤもした)。もちろん全員が僕の映画を気に入ってくれてたわけじゃない。でも僕が熱中症で体調を崩したとき、映画をボロカス言ってた奴が、すかさずウィダーインゼリーを差し入れに来てくれたりした。尾道には、車社会になる前の街並みがまだ残っているそうだ。街の人たちはそれを「ヒューマンスケール」と言う。

常に「人が主役」という感じがする。

そんな尾道市から1時間ほど移動すると、広島市にたどり着く。すると同じ広島県内とは思えないほどに、空気も人もガラッと変化する。写真を加工で明るくすると、一気にパアッと楽しそうになるが、広島市滞在は、いつもそんなフィルターを通したような明るい日々だった。

そして、とにかくアツかった。自主映画を背負って全国をまわろうという自分の暑苦しさもなかなかのものだけれど、それを軽々と受け止めて、快く胸を貸してくれる、そういうカッコいい大人たちがたくさんいて、毎日感動させられた。

人々の中に”広島が文化を発信できる街であってほしい”という熱意があって、それだけ街のことが好きなんだと感じるたびに、自分はこんなに地元を好きだったことがないことを思い出して、ちょっと羨ましく思った。

そして京都にたどり着いたのは、2ヶ月に及ぶ東京公開を終えた後だった。実は東京公開で僕はクタクタに疲れていた。どうも東京にいると僕はつい瞬間的な競争に勝って、数字を出さないと評価してもらえないと思いこんでしまう癖があり(受験戦争の弊害かもしれない)だからやたら毎日、興行成績に怯え苦しんでしまった。

これまで僕は京都という街に、大切なことを何度も教えてもらってきた。大学2年生の頃に、生きる意味を見失った時にも、その迷いから解放してくれたのが京都という街だった。

だからまた何か大切なことを教えてくれるんじゃないかと思いながら、京都に入った。そして毎日、街中を自転車で走り回った。若い仲間たちと、チラシとポスター片手に駆けずり回り、行く先々でたくさんのイベントを企画した。

東京で結果に執着しすぎるがあまり、楽しむということを見失っていた僕は、それを取り戻したかったのだと思う。
そして今回教わったのは、「立ち止まることの豊かさ」だった。時には歩みを止め、じっと自分を見つめて、大切なことを確かめる。そしてまた歩く。そんな積み重ねの先にしか本当の道はなく、その道中にこそ価値がある。そんな新しい教訓を、京都の街が教えてくれた気がしている。

そして僕が今どこにいるかというと、福岡にいる。福岡はとにかくオシャレだ。街全体が全盛期の原宿のようにファッションに敏感で、コーヒーショップに洋服やギャラリーが併設されていたりする。しかもオシャレな人たちがみんな、すごくノリもいい。初めましての挨拶の後にすぐ飲みに誘ってくれたりする。「遊ぶことやカッコいいことを全力で肯定する街」福岡からは、ものすごく元気をもらえる。

福岡の次は、ついに岐阜が待っている。なぜに岐阜かというと、実はこの夏、岐阜の柳ヶ瀬商店街という巨大な商店街の夏祭りをジャックして、1970年代という自作の設定に準えて、昭和レトロ映画祭をすることになったのだ。 街とそこに住む人。
そして映画がつないでくれる縁。その可能性に誰よりも自分が一番びっくりしながら、こんな大冒険を続けている。

須藤蓮

プロフィール

須藤蓮

すどう・れん|俳優。1996年、東京都生まれ。大学在学中の2016年に「第31回 MEN’S NON-NO 専属モデルオーディション」でファイナリストとなり、翌2017年より俳優デビュー。俳優の他にも、監督・プロデューサーとして活動し、初監督・プロデュース・主演作品『逆光』が2021年夏に公開され、現在は福岡キノシネマ天神にて公開中。その後名古屋シネマテーク(6月25日~)、岐阜シネックス(7月16日)公開が決定している。また、7月23・24日には「ぎふ柳ヶ瀬夏まつり」を『逆光』チームとしてプロデュース。夏まつりの目玉イベントでもある「一日限りの昭和歌謡ショー」では歌い手も募集中。応募はこちらから。

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