TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#2】オフィスに吹き込む風とペーパーウェイト。

執筆:Atelier HOKO

2025年4月19日

Atelier HOKO


text: Atelier HOKO
translation: Tsukasa Tanimoto
edit: Miu Nakamura

シンガポールでは毎年11月から1月にかけて、人々が互いに優しくなるような雰囲気が漂う。年末だからでも、クリスマスが近づいているからでもなく、主にモンスーンの季節がやっと到来し、雨が多く湿潤ではあるものの、同時に気温がかなり下がって涼しくなるからである。馴染みのない者のために補足すると、シンガポールでは季節の変化がほとんど存在しない。年間を通じて暑く、湿度が高い状態が続く。モンスーンが訪れても湿度はさほど変わらず(むしろ悪化することさえあるが)、なぜか人々の気分は軽くなる。不快な湿気が目に見えぬ毛布のように肌にまとわりつく感覚の代わりに、雨粒や地面の水たまり、濡れた衣服を通じて「湿度が見える」ようになるからである。もしかすると、このように湿気を視覚的に捉えられることによって、より耐えやすく感じるのかもしれない。

気温が下がることによって、オフィスでは数ヶ月間、エアコンを使用する必要がなくなる。窓を大きく開け放ち、風を取り込みながらシーリングファンが室内を換気し、生み出される心地よいホワイトノイズが仕事のリズムを支える。これは、生活における素朴な喜びの一つであると言えるだろう。

しかし、そこからが問題の始まりである。オフィスでは、スケッチ、文章の執筆、下書きの編集、模型製作、メモの記録、エッセイの印刷、そして長年にわたって蓄積してきた書籍、大量の紙を使用している。ある意味では、物理的な物に囲まれることで、できる限りコンピューターの画面を見つめないようにしている。ただ、紙と風は決して相性が良いとは言えない。風通しの良いスタジオは心身にとっては快適であるが、人生の中で何度も経験するように、風で紙が飛ばされそうになったり、開いた本のページが勝手にめくられたりと、現実には不便が伴う。

時が経つにつれて、紙を使った作業を継続しながら風を楽しむためには、文鎮を使うのが有効であるということに気づく。当然ではあることだが!

私たちのオフィスには至るところに文鎮があり、常に手の届く場所にある。特別に目を引く存在ではなく、いわゆる美しいとされるものでもない(というのも、重ければ何でも文鎮になり得るから)が、常にそこにあり、常に機能的であり、どんな紙の束の上にも堂々と鎮座する準備ができている。文鎮を使うという行為は、風によって引き起こされる混乱の中で、小さな制御感をもたらすものと言えるだろう。

実のところ、私たちは文鎮のことをあまり深く考えることはない。購入した時点から特別な用途を持つ専門的な文房具や道具の方を、より価値のあるものとみなしがちである。しかし、ふと作業机のまわりに目を向けてみると、文鎮が至るところにあることに気づかされる。そして、もはや文鎮のない日々の業務など想像もできなくなっていることに気づく。もちろん、これは一年中続くことではない。窓を閉め、シーリングファンが止まり、外の湿気に対抗するためにエアコンがフル稼働する時期になると、文鎮たちは部屋のあちこちの隅にひっそりと身を寄せ合い、再び雨が降るのを静かに待ちながら、まるで冬眠しているかのようである。

プロフィール

Atelier HOKO

あとりえ・ほこ|アルヴィン・ホーとクララ・コウによる、シンガポールのインディペンデントリサーチプラクティス。彼らが発行する雑誌「Science of the Secondary (取るに足らない科学)」には、毎号日常生活の中にある、あまり気に留められないモノ・コトが毎号ひとつ取り上げられ、様々な視点から探求したことがまとめられている。

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