カルチャー
二十歳のとき、何をしていたか?/友近
2022年4月18日
photo: Takeshi Abe
text: Keisuke Kagiwada
2022年5月 901号初出
田舎にもこんなアホなことをする奴がいることを、
プロにも知ってもらいたい。
その願いが叶うまでの道のりとは?
芸人デビューする前から
レポーターとして活躍。
〝ナチュラル・ボーン・コメディアン〟。要するに、〝生まれながらの芸人〟という意味だが、友近さんほどその称号がふさわしい人もいないんじゃないか。
実際、幼少期より土曜ワイド劇場や五社英雄監督作品の妖艶であると同時にちょっぴりおかしな世界観に魅せられ、姉と一緒にそれにインスパイアされたコントをやってはふざけていたというのだから、本人の言葉を借りれば「今と何も変わってない」。そんな友近さんの胸には、いつしか「田舎にもこんなアホなことをする奴がいることを、プロにも知ってもらいたい」との思いが芽生え、芸人になることに憧れを抱くようになっていく。だがしかし、そこからの道のりは独特としか言いようがない。なんせ友近さんは芸人になる前、レポーターとして既にテレビに出演していたというのだから。
「大学3年生のとき、地元愛媛のテレビ局が女性レポーターを募集していて、メディアに出ることで芸人になるきっかけができるのではと思い応募してみたんです。それでオーディションに行って歌を披露したら、局の方の目に留まって。『『長崎歌謡祭』という全国の各都道府県から歌のうまい素人を集めた歌謡祭があるから、愛媛代表として出てよ』と言ってくださったんです。しかも、『うちの番組から選出されたってほうが面白いから』って、レポーターにも採用していただいて。それから、大学卒業くらいまではずっとレポーターとして活動していました。まぁ、それは完全にアルバイト感覚でしたけどね」
となれば、卒業と同時にいよいよ芸人を目指すのかと思いきや、友近さんが就職先として選んだのは、なんと温泉宿の仲居さん! しかし、そこにも日常の延長でコントを演じずにはいられない、〝ナチュラル・ボーン・コメディアン〟らしい理由があったようだ。
「やっぱりそれも〝土曜ワイド劇場好き〟が関係しているんですけど、よく仲居さんが事件を目撃したりするじゃないですか。そういうことがあるんちゃうかと思って(笑)。だから、それも〝仲居さんコント〟がしたかっただけなんですよ。高校、大学とずっと女子校で、仲良しの子とふざけてばかりいたのですが、その延長で仕事をしていた感じでしたね。お客様には失礼な話ですけど。業務もそこそこに、パントリーに集まってお菓子を食べたり(笑)。本当に楽しいだけで、何も辛いことはありませんでしたね」
そんなある日のこと、友近さんの身に、ふたたびテレビと急接近するチャンスが訪れる。素人さん数珠繋ぎの番組から人の紹介で番が回ってきて出演することになったのだ。そこでディレクターに得意のものまねを披露したところ気に入られ、またしてもレポーターとして採用されることになったという。結果、1年で仲居さんの職を辞した友近さんが、ローカルタレント業に専念するようになったのは、24歳のときのことだ。
「それからは毎日レポーターをしていましたね。週末の観光情報を取材したり、FAXを読み上げたり、料理コーナーをしたり……。でも、こっちとしてはお笑いをやりたいわけだから、すぐにふざけちゃうんですよね。最初は私のものまねを見て気に入ってくださったディレクター兼カメラマンさんが私のコーナーをたまたま担当してくださったのですが、その方が番組のコーナーを辞めてからは、自分らしさを発揮できなくなりました。局の偉い人には『ふざけないで、ちゃんと情報を伝えてくれ』と言われましたし、苦情の電話もよく来ました。地方の人はローカルタレントとアナウンサーを混同している場合が多いので、『なんだあの方言丸出しで下品なことを言っている奴は!』って」
AT THE AGE OF 20
自分の笑いを追求すべく、
NSCの門を叩いた26歳。
「ただ、言っていることはそのとおりだし、私としても今ほど伝え方を知らなくて、ふざけ方も独りよがりになっていたと思うんです。それに、視聴者に『ひょうきんなことをしているのに、どうせネタは作れないんでしょ』って思われていたら嫌だなとも思えてきて。完全に被害妄想なんですけど(笑)。だったら、自分が考える面白さだけを追求できる舞台で力を試したいなって思いが募り、仕事は順調だったんですけど、すべて辞めてNSCに入学することにしたんです」
このとき、友近さんは既に26歳になっていた。周りにいるのは、高校や大学を卒業してすぐの年下ばかり。しかし、そんなことに気を揉んでいる暇など、友近さんにはなかった。
「ありとあらゆるジャンルのネタを書いて、毎日先生にネタ見せをしていました。26歳だから、焦りもあったんでしょうね。幸い貯金があったので、他の子たちみたいにバイトをしなくてもよかったというのもありますけど、毎日ネタ見せしていたのは、私含め数人だったと思います。最初は気の合う人がいたらコンビを組もうかなと思っていたんですけど、価値観の合いそうな人がいなくて。そもそも私たちの期は不作で有名。同期ではようやく最近、おいでやす小田が出てきました。逆にコンビを組もうと言ってくれた人はいましたけど、ここで後悔するのは嫌やし、ウケてもスベっても自分の責任になるほうが楽だと思って、早いうちからピンでやっていこうと決めていましたね」
ストイックなネタ作りの日々は、思いのほかすぐに報われることになる。スナックのママをテーマにしたネタの面白さが、とある先生を経由してバッファロー吾郎さんたちに伝わり、在学生にもかかわらず2人が主宰するライブに出演することになったのだ。まさに幼き日に胸に抱いていた「こんなアホなことをする奴がいることを、プロにも知ってもらいたい」という思いが結実した瞬間だ。
「あのときは嬉しかったですね。ネタを作っているときは、バッファロー吾郎さんや中川家さんをテレビで見ながら、『早くこの人たちに見てもらって、認められたい』と思っていましたから。本当にそっちばかり見ていました。その当時のオーディションライブのお客さんは、女子中高生がほとんどなんで、私のネタはどちらかというと30代より上のほうをターゲットにしていたのでウケないんですよ(笑)。だけど、バッファローさんたちが舞台袖で笑ってくれていたので、このネタは間違ってなかったんだと思えて、自信にも繋がりました」
その後、NSCを卒業した後の友近さんの快進撃はご存じのとおり。NHK上方漫才コンテストをはじめとする数々の賞を総なめにした上、テレビやラジオで引っ張りだこになったまま現在に至る。
「なるようになるってよくいいますよね。この年になったらその気持ちもわかりますけど、20代の頃は、『とにかく自分が面白いと思う芸人さんと共演したい』という一心で、がむしゃらに頑張っていた気がします。今はバッファロー吾郎さんにしても中川家さんにしても仲良くお仕事をさせてもらっているので、それで言うと、あの頃に思い描いていた理想の自分になれているのかもしれませんね」
プロフィール
友近
取材メモ
友近さんは、4月からbayfmのラジオ番組『シン・ラジオ -ヒューマニスタは、かく語りき-』で金曜パーソナリティを務めている。「個人的にもラジオが一番向いていると思っているので、3時間も1人でしゃべる機会をいただけたのは嬉しいです。くだらないアホみたいな話ばかり長々としゃべれたらいいなと思っています。真面目な話もしますけど(笑)。あと、おじさんが好きなので、おじさんに特化したコーナーを作りたいですね」
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