LIFESTYLE

シティボーイのための宴会芸。Vol.3

宴会芸のシック

2022.04.05(Tue)

photo: Kyuseishu
text: Michael Mitarai 
edit: Yukako Kazuno

春だ。春だよ。春だよね?
出会いと別れの季節の中で、笑いの中に涙が混じり、パッと咲いてはパッと散る。
宴会芸はソメイヨシノと並ぶ、日本の桜の代表格だ。
さて、桜は美しいとか綺麗とか言われるけれど、宴会芸を称える言葉としてどんな形容詞が思い浮かぶだろう。
面白い、笑える、くだらない。そのあたりだろうか。

歴史を振り返ると、実は、「粋(いき)」という言葉こそが、宴会芸に向けられる最大の賛辞だった。その証拠に、明治の宴会芸を現代に伝える名著『宴会お座敷芸』は、編者・大通散士のこんな檄文から始まる。

“はしがき
酒席に列して無芸大食は、野暮の骨頂。これ浮世の面白みを解せず。芸なし猿の不可趣味をして、直ちに大通粋人となるの秘法を御伝授いたすは本書の特色ならんか。(後略)”

(念のためお伝えしておくと、この文献は実在する。)

「大通粋人」、大いに通で粋な人。それって、シティボーイの究極の姿だと言っても過言ではないと思う。宴会芸には「芸なし猿」を「大通粋人」へと導く力がある。この力強い言葉に僕はいつも勇気をもらってきた。「粋」はフランス語で「chic(シック)」。海外の友達に宴会芸を説明する機会があったらこう言って欲しい。『宴会芸とは、宴会場で己のシックを競いあう文化だよ』と。

そういうわけで今回は、「宴会芸のシック」についてお話しようと思う。キザでも野暮でもない、クラシックで実用的な宴会芸をシティボーイ諸君に伝えたい。宴会のある日常が戻ってくる予感のする今春。シックな宴会芸を身につけて、宴会場に集合だ!

シックな宴会芸とは例えばどんなことだろう?

①知性をともなう古典芸
何百年もの長きに渡り、演じ続けられてきた宴会芸がある。時の試練を経て今に伝わる古典芸には、宴会場のセンパイたちの知性がたっぷり詰まっている。それはまさに、ジャパニーズ・クラシック。歌舞伎や能、狂言のように「型」を受け継ぐつもりで大切に演じてみよう。きっと、新しい発見があるはずだよ。

「松づくし」

愛媛県松山地方の郷土芸能「伊予漫才」で演じられ、新年には寄席にもかかる松づくし。不老長寿の象徴・松が描かれた扇子を体中に身に着けて踊る。ここにあるのは、有無を言わさない「おめでたさ」。目的に対してどこまでも真っ直ぐな実用性が、すごくシックだ。ちなみに、伊予漫才や寄席では、1人で20個くらいの松を身に着けるという曲芸的なシックが加わる。縁起物を買ってくるのではなく、自分自身が巨大な縁起物になるという発想。宴会芸におけるコペルニクス的転回、なんていうとキミは笑うだろうか。

「二人羽織」

二人一組で前後に並び、一つの羽織(なければコートでも構わない)を着る。つまり、頭は前の人、腕は後ろの人の、二人で一人の人間となる。その状態で、うどんやおでんを食べたり、お茶を飲んだりする。当然、うまくいかず「熱い!」とか「こぼれる!」と大騒ぎするのを楽しむ芸。うまくいかないのが見どころという“失敗芸”なので不器用な人でも安心して取り組める。そして、手が頭に反抗しているシーンは、それだけで見るものの心をざわつかせる何かがある。脳に対する身体性の逆襲。そんな長編SF小説にもできる重厚なテーマをサラっと宴会芸に盛り込むとは。古典って、なんてシックなんだ!

②実用的な即興芸は、持っておいて損はない。
宴会芸には“その場にある道具を使い即興で演じる”という美学がある。もちろん、結婚式の余興のように準備を重ねる芸は素晴らしい。でも、そういう芸を披露できる機会は人生の中でもそれほど多くはない。即興芸は、なんでもない日常の小さな宴会を彩るものだ。だからこそ、実用的な美しさがある。バーテンダーがそっとオリーブを差し入れるさりげなさで、会話の合間に宴会芸をする。そんなシックな大人に、僕たちは憧れる。

「痛い!」

鼻の穴に指を思い切り突っ込んでいるように見せながら「痛い!」と叫ぶ。ただ、それだけ。道具は何も使わないし、ひとりでもできちゃう。やると決めてから1秒でオチでたどり着くスピード感が最高にシックだ。即興芸の理想形に限りなく近い。ウケなかったら何食わぬ顔で元の会話に戻ろう。女性コンビでやると「ザ・W」といった趣もあるね。

「まりつき」

かつて平安貴族が蹴鞠(けまり)を楽しんだように、まりは日本のクラシックな遊び道具だ。これは、そのまり自身になってしまうという宴会芸。二人一組になり、一方の身体をまりに見立ててまりつきをする。まり役の人は無表情で観客をじっと見つめてほしい。なるべくなら偉い人とか真面目な人にやってもらいたい。普段とのギャップが抜群に間抜けだし、じわじわとシックが沁み出してくるからね。筋トレに夢中なシティボーイ諸君にとっては、ハムストリングスを鍛える絶好の機会でもある。この春のファッションアイテムとして、立派なふとももを手に入れよう。

「おいしそうなトロ」

『私はこれからおいしそうなトロをいただきます』。高らかにこのセリフを言った直後に、己の舌を箸でつかみ、ペロリと平らげる。やる前は本当に刺身に見える?と半信半疑だったが、実際にやってみると、思わず横取りしたくなるくらいにトロだった。オーダーした刺身盛り合わせがなかなか来なくてみんながイライラしている時。ペロリと繰り出す。そんな実用的なユーモアって、とってもシックだと思う。

③定番モチーフをシックに演じるには。
誰もが知っている定番モチーフを宴会芸にすることは、諸刃の剣と言われている。芸の狙いはシンプルに伝わるけど、一歩間違えれば幼稚園のお遊戯会になってしまう。(もちろん、幼稚園のお遊戯会は最高だけど、シティボーイらしくはないよね。)でも、ディテールにちゃんとこだわれば、ド定番アイテムだってシックに着こなせるってことを、宴会場の賢人たちは教えてくれるんだ。

「シェー」

シェーと言って、わかるシティボーイはどれくらいいるだろう。シェーとは、昭和の天才漫画家、赤塚不二夫氏の代表作『おそ松くん』の登場人物イヤミが驚くときの決めポーズだ。最近こそあまり見ないが、2010年頃までは、日常会話の流れで「シェー」を繰り出す人がそこら中に居た記憶がある。昔の映画では、ゴジラもシェーをやっていた。誰もが知るド定番のモチーフだからこそ、自分のものにするのはちょっとした工夫が必要だ。80年代の文献では、イヤミ最大の特徴である前歯をブロックチーズで表現するというやり口が紹介されている。なるほど。神は細部に宿る、とはよく言ったものだ。仲間と一緒に披露すれば、なかなかシックな集団芸のできあがりってわけ。

「赤鼻のトナカイ」

毎年クリスマスシーズンに現れる珍獣「赤鼻のトナカイ」になりきるのがこの宴会芸。鼻の頭に梅干しを付けて、手を思い思いに角に見立てる。ただそれだけで、君はトナカイになれるし、宴会場はサンタクロース村に変わる。季節外れなんて言われても気にしない。梅干しが一つあれば、僕たちはいつだって赤鼻のトナカイになれる。そういう自由のことを、僕たちはシックと言うんだ。

言うまでもないけれど、宴会芸に使ったチーズや梅干しは、それぞれの研究者たちが美味しくいただいた。フードロスってのは、最も粋じゃない行いの一つだからね。持続可能な宴会芸というのも、シックには欠かせない条件だ。

カンのいいシティボーイの諸君なら、長い歴史を通じて人々がああでもないこうでもないと工夫してきたものは、洋服も宴会芸も同じようにシックだということをわかってくれたと思う。

春だ。シックな宴会芸を身につけ、花咲く街に繰り出してくれると、うれしい。

それでは、また来月会おう。

<世界は宴会場。生きることは宴会芸。>

プロフィール

マイケル御手洗

マイケル・みたらい|1986年生まれ。日本宴会芸学会研究員。専門は宴会芸哲学。2018年に開催された第74回日本宴会芸学会で「特別講義:マイケル御手洗の宴会芸白熱教室」を開講。カントやベンサムを引用しながら“宴会芸における正義とは何か?”を語り掛ける、ナラティブでプラクティカルな講義を繰り広げ、宴会芸研究に新しい地平を切り開いた。西海岸ロックとエシカルコーヒーを愛する。日本宴会芸学会のSNS担当でもある。ご意見・ご感想・宴会芸情報、お待ちしています。

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第74回日本宴会芸学会「マイケル御手洗の宴会芸白熱教室」講義録
https://note.com/enkaigei_gakkai/n/na28f8b82ef45

 



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