LIFESTYLE

シティボーイのための宴会芸。Vol.2

宴会芸と暮らす

2022.03.03(Thu)

photo: Kyuseishu
text: Michael Mitarai 
edit: Yukako Kazuno

もちろんボクたちにも生活はある。ボクたちというのは、宴会芸学会の研究員のことだ。宴会芸は、アマチュアによるアマチュアのためのもの。つまり、みんなそれぞれに働き、食べ、眠り、宴会芸を研究している。そこには、暮らしというものがある。

シティボーイ諸君は、宴会芸を研究しているボクらをどこか遠い世界の話のように感じているかもしれない。今まで紹介してきた写真はどれも白黒で、やっていることも昭和の宴会芸ばかりだったから、無理もない。

ところが実際、今日も東京のどこかでボクたちは宴会芸と暮らしている。宴会すらままならない今を生きながら、宴会芸の価値を見つめている。そう、僕らは同じ空の下にいる。

そういうわけで今回は、シティボーイ諸君を宴会芸研究員の部屋に招待して、研究員のライフスタイルをお見せすることにしよう。仲良くなるには、家に遊びに来てもらうのが1番だからね。

ウェルカムシティボーイ。それではさっそく始めよう。

THIS IS MYLIFE! 宴会芸研究家の部屋

NAME|赤城山ニコル  
PROFILE|岐阜生まれ、京都育ち、東京在住。会社員として働きながら、コンセプター、宴会芸研究家とマルチに活動している。

宴会芸学会の赤城山ニコルが最近引っ越したのは、都内某所のヴィンテージマンション。65㎡の0(ゼロ)LDK。そのリノベーションには、大学で建築を学んだニコルの哲学がつまっている。

「これからの暮らしって、仕事も遊びも生活も区別がなくなっていくと思う。だから、壁っていらないかも」

そう思ったニコルは、家を仕切る壁をすべてブチ抜き、1部屋にしてしまった。眠るときはカーテンで仕切って、即興の寝室をこしらえる。

「昔の日本家屋ってふすまで仕切ってたじゃないですか。それと同じことですよ。」

ベッドに寝そべり読む本から目を上げず、ニコルはそう言った。

この部屋にはもう1つ特徴がある。ガラス張りのバスルームだ。

これにもニコルは「そんなに珍しいですかね?田中康夫元長野県知事の執務室もこんな感じでしたよね?」と涼しい顔。自然光をたっぷり取り込むために、これが1番効率的だった。「太陽って、明るいじゃないですか。」そう言って笑うニコルの笑顔もまた、太陽のようだ。

会社員、コンセプター、宴会芸研究家。遊びも仕事もマルチに楽しむニコル。昔はタクシーで東京中を駆け回っていたが、最近はやはりリモートでの活動が多い。良い部屋づくりは、良いアウトプットに直結する。だから、一切の妥協は許さない。

この部屋で暮らしながらニコルは、絶滅危惧宴会芸と向き合っている。

『絶滅危惧宴会芸 自虐のブタおに』

割りばしを鼻に刺す。このシンプルな芸の歴史はとてつもなく長い。浮世絵界のレジェンド葛飾北斎の『北斎漫画』にも登場するので、江戸時代から存在していたことは証明済みだ。

ボクたちがまだ見つけられていないだけで、旧石器時代の壁画にだって描かれているかもしれない。ひょうきんものたちが脈々と受け継いできた芸が時代を越えて、21世紀のZoom会議でも活躍するのって、なんだかとてもロマンチックだ。

ちなみに、ニコルは友人であり研究仲間のロブスター夫人が自ら3Dプリンタで作ったオーダーメイドの<金のブタ鼻棒>を愛用している。

「何度も洗って使えるし。ささくれが鼻に突き刺さらないところも気に入ってる。」

何事も、自分で作ってやってみる。宴会芸は、エンタメのDIYなんだ。

『絶滅危惧宴会芸 なんでも南京玉すだれ ザル篇』

「ストライーク!!」

コンクリートの壁が、ニコルの声を跳ね返す。宴会芸の練習の時間だ。

ザルを顔に掲げ、ダイナミックに叫べば、宴会場は野球場になる。この芸は、想像力豊かにザルをいろんなものに見立てるもので、宴会芸研究ではトランスフォーメーション型の連続芸に分類される。ザルをお腹の上に置いてラッコ。ザルの上にまたがってトイレ。と、軽やかにつないでいこう。股間においてボカシ!というくだりはバブル期宴会芸のご愛敬(失礼!)。日本の伝統芸、南京玉すだれにインスパイアされた芸だ。南京玉すだれを知らないシティボーイは、調べてみてもいいし、気にしなくても構わない。

この芸で使うザルも「友達のおじいちゃんが作ってくれたハンドメイド」らしい。

ストーリーある道具とのコラボレーションで芸の味わいもグっと増すんだ。民藝と宴会芸がつながるって、とっても素敵だと思う。

『絶滅危惧宴会芸 ザ・マルチプロレス』

プロレスがエンターテイメントのど真ん中だった80年代~90年代の文献には、多くのプロレス宴会芸が登場する。中でもひときわ過激な芸がこれだ。人間ではなくイスを相手に戦いながら、レフリーもやればTVアナウンサーも、すべて1人でこなす。ひとりの時には最適な宴会芸だと言っていい。

物言わないイスの声を代弁し、動かないイスの技を受け、孤独な死闘を繰り広げる。徐々にイスを追い詰めて、最後は大声を張り上げカウントして、喜びを爆発させる。

ここには、まぎれもないプロレスのカタルシスがある。彼がレスラーじゃないと、だれが言えるだろう。

『絶滅危惧宴会芸 どんたく』

1960年代の文献で「無芸な人も安心して取り組める芸」と紹介されているのがこの芸。日本三大祭りの一つ「博多どんたく」よろしく、しゃもじを打ち鳴らしながら行進をする。ただ、それだけ。でも、不思議な高揚感と一体感が生まれるんだ。ホームパーティが中だるみしてきた時とか、企業研修のワークショップとか、今の世界でも色々と活躍できそうな芸だね。しゃもじがなければ、なんでもいい。ボクらは自由なのだから。

かつてボクらは仕事場から宴会場に行き、宴会場から家に帰る日々を送っていた。宴会場は僕らのサードプレイスだった。しかし今は、ワークとライフと宴会芸の境界があいまいになっている。家にいながらどう宴会芸と向き合うかが、こんなに重要になってきた時代もない。暮らしを整えることは、宴会芸を整えること。なんてったって、日々の生活が宴会芸に現れるんだからね。ニコルはそのことを最もわかっている研究員だと思う。

今回は、宴会芸研究員の部屋を舞台に、宴会芸との暮らし方を紹介した。好きなものに囲まれて、好きなことを研究する。ニコルのライフスタイルは、シティボーイ諸君にも気に入ってもらえるんじゃないかな。

それでは、また来月!

「世界は宴会場。生きることは宴会芸。」

プロフィール

マイケル御手洗

マイケル・みたらい|1986年生まれ。日本宴会芸学会研究員。専門は宴会芸哲学。2018年に開催された第74回日本宴会芸学会で「特別講義:マイケル御手洗の宴会芸白熱教室」を開講。カントやベンサムを引用しながら“宴会芸における正義とは何か?”を語り掛ける、ナラティブでプラクティカルな講義を繰り広げ、宴会芸研究に新しい地平を切り開いた。西海岸ロックとエシカルコーヒーを愛する。日本宴会芸学会のSNS担当でもある。ご意見・ご感想・宴会芸情報、お待ちしています。

Instagram
https://www.instagram.com/enkai.gakkai/

YouTube
https://www.youtube.com/channel/UC69Br8A65aveM5NdLwe0JqQ

Official Website
https://enkai-gakkai.com/

第74回日本宴会芸学会「マイケル御手洗の宴会芸白熱教室」講義録
https://note.com/enkaigei_gakkai/n/na28f8b82ef45

 
SHARE: