ライフスタイル
【#3】数珠繋ぎ日記
2022年3月1日
text: Keiichi Sokabe
edit: Yukako kazuno
子供たちとスマホを片手に踊っていたら(コロナ禍以降の我が家のニュースタンダードである)、次女の足がピタリと止まり「あ、花粉症来たかも」と言ってくしゃみをひとつした。二月後半ともなれば、そろそろそんな季節なのか、と考える。
ぼくは花粉症は出ない。長女(20歳)も大丈夫そうだ。中1長男はまだ花粉症になるには早いのかな。高校生の次女だけが、ちょっとそれを感じているようだ。そもそも花粉症は遺伝するものなのだろうか? コップの水が溢れるように、体に入り過ぎたアレルゲンが許容値を超えるとアレルギーを発症するという話を聞いたことがある。遺伝だとすると、元妻はどうだったんだろう? 思い出そうとするが、まったく思い出せなかった。一緒に暮らしていた日々はもう遠い昔なのだ。「花粉症がひどいわ・・・」なんて言う会話が、あったような気もするし、なかったような気もする。大切なかけがえのない日々だったはずだが、時間というものは残酷だ(言い換えると、やさしい)。そのうち彼女の好きだったワインの銘柄や、ラーメン屋の名前も忘れてしまうのだろう。声も忘れ、顔も忘れ、さて最後までなにを覚えていることができるだろうか、彼女について。
ぼくは花粉症が出ないと言ったが、実はぼくも二十歳の頃上京してから花粉症を発症し、それなりに苦しんだ。が、ある日、ピタリとなくなったのだ。ぼくのアレルギーは初夏の五月、六月になると目がかゆくなりくしゃみが止まらなくなるというもの。田舎ではその頃、花粉症だという人などまわりにいなかったし、東京に来て発症したので「ああこれが都会の病気か」などと独りごちていたのだが、やはりまわりの友達には何人も花粉症がいた。ぼくのは初夏に出るということで、ポピュラーなスギ花粉ではなく「ブタクサ」の花粉じゃないかと言われたが、ブタクサについてどんな植物か知らず、その名前からしてちょっと臭いような植物を想像し、そんなにいい気持ちではなかった。ブタクサのアレルギー。うん、どうだろう。
ともあれ発症して10年ほどぼくは「ああ、今年も花粉症が・・・」と都会っぽく言い(それでも一般的な時期とは完全にズレているのだが)、毎年初夏の1ヶ月ほどはくしゃみ鼻水目のかゆみに悩まされるという人生を送った。それがある年、出なくなった。あれ? と拍子抜けしたまま、翌年もその次も出なくなった。それ以降、もう出ない。心当たりは、まったくない。生活習慣がドラスティックに変わったなんてことも、全然ないのだ。そんなこともあるのだろうか。いつか専門家に訊いてみたい。
仮説がひとつある。ぼくは並行世界というものの存在を信じていて、ぼくたちのこの世界のすぐ隣かまたは何万光年の遥か遠くには、ぼくたちのこの世界とほとんど同じだけど、ほんのちょっとだけなにかが違うもうひとつの世界が存在している、と。さまざまな世界があり、「曽我部恵一がポパイに原稿を書かなかった世界」などもある。ぼくが花粉症じゃなかった世界ももちろんあり、ぼくは10年前、ふとした瞬間にその世界の自分と入れ替わったのではないだろうか。そういえば、10年前のある日近所の桜並木を家族で散歩していて、ぼくが滑って転んで、家族みんなが爆笑に包まれた日があった。あのとき・・・?
だとしたら、向こうに行ったぼくは、ひょっとしたら花粉症が存在しない世界で、ひとり初夏になるとくしゃみが増えるヘンな奴として、孤軍奮闘している可能性が。ご苦労様、とぼくは心の中で大きな声で呼びかけた。
プロフィール
曽我部恵一
Official Website
http://www.sokabekeiichi.com
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