ライフスタイル

【#2】数珠繋ぎ日記

執筆: 曽我部恵一

2022年2月22日

text: Keiichi Sokabe
edit: Yukako kazuno

子供を連れ待望のスパイダーマン最新作『ノー・ウェイ・ホーム』へ。(期待を遥かに超える出来に、号泣。満員の館内でぼくがいちばん泣いていたと思うが、その話はまたの機会に。)

本編が終わった刹那、「プチプチ、パチパチ・・・」という聴きなれたレコードのスクラッチノイズが場内に響き渡る。すぐにそれがデ・ラ・ソウル’89年の名曲「マジック・ナンバー」のイントロとわかり、ストーリーと相まって、2022年スパイダーマンの新作のエンディングテーマにデ・ラ・ソウルの、それもぼくがいちばん好きな曲が使われている事実に鳥肌が立ち、再びさめざめと涙してしまった。

観た方はお分かりになると思うが、「3は魔法の数字さ」というフックを持つこの曲がエンディングを飾るのはなんとも絶妙。歌のキュートさはこの物語りをぼくらの足元にまで運んできてくれた気がした。
ボブ・ドロウが’70年代に作ったキッズソング「Three Is A Magic Number」を大胆引用したこの曲は、デ・ラ・ソウルの歴史的名盤であるデビューアルバム『3 Feet High And Rising』のトップを飾る。メンバーたちの家に大量にあったという古いレコードからのめくるめくサンプリングが鮮やかに舞うこのアルバムが、ファンクやソウルのブレイクビーツ中心だったヒップホップのネタの領域をグッと広げた。

出てすぐ地元の輸入盤店でこのアルバムを買った。新品シールドの取り出し口をそっと切ってレコードに針を落とすと聴こえてきたのはプチプチいうスクラッチノイズ。新品のはずなのに傷がついてる?!とめちゃくちゃ焦ったが、曲たちはぜんぶ最高。何度も聴くうちにそれはサンプル元のレコードに入っているノイズだと理解した。全編いたるところで聴こえてくるそれらスクラッチノイズがアルバムのチャームになっていて、この作品が傷だらけの古いレコードをたくさん組み合わせて作られたものだということを伝えてくる。田舎の高校生はNYのゲットーの様子は知らなかったが、ヒップホップの有り方の一端を垣間見た。

ノイズまみれのレコードの音と一緒に、彼らは彼らの出自や文化もサンプルしている。そうアタマで理解できたのは大人になってからだが、高校生にもどこかあたたかなワイドさが伝わってきた。ヒップホップを好きになったし、レコードを好きになった瞬間だった。

レコードのスクラッチノイズが最新のエンターテイメントの中で華麗に響き渡る2022年。中一の長男が「あの曲YouTubeでよく聴いてる、最高」と言う。「パパも高校生の時にな・・・」と長話になりそうなのをグッと堪えて、「だよね!」とスマホ片手に一緒に踊っている。

プロフィール

曽我部恵一

そかべ・けいいち | 1971年8月26日生まれ。乙女座、AB型。香川県出身。’90年代初頭よりサニーデイ・サービスのヴォーカリスト/ギタリストとして活動を始める。1995年に1stアルバム『若者たち』を発表。’70年代の日本のフォーク/ロックを’90年代のスタイルで解釈・再構築したまったく新しいサウンドは、聴く者に強烈な印象をあたえた。2001年のクリスマス、NY同時多発テロに触発され制作されたシングル「ギター」でソロデビュー。2004年、自主レーベルROSE RECORDSを設立し、インディペンデント/DIYを基軸とした活動を開始する。以後、サニーデイ・サービス/ソロと並行し、プロデュース・楽曲提供・映画音楽・CM音楽・執筆・俳優など、形態にとらわれない表現を続ける。

http://www.sokabekeiichi.com