ファッション
マイク・ミルズとスタイルリファレンス。【後編】
2022年1月19日

STYLE SAMPLE ’22
illustration: Shinji Abe
coordination: Aya Muto
text: Keisuke Kagiwada
2022年2月 898号初出
『カモン カモン』のスタイルとそのリファレンス。

劇中、LAの妹宅にて、甥のジェシーと初対面したときのジョニーの衣装。だからなのか、シャツの上にジャケットを羽織っており、比較的かっちりした“よそいき”のスタイルといえる。「これは僕が一番気に入っているリード衣装なんだ。といっても、ジャケットもズボンも靴も、僕の私物なんだけど(笑)」とマイクは笑う。

ジェシーとLAの海辺を散歩するときのジョニーの衣装は、SCENE1とは一転してリラックスした装いだ。映画はモノクロなので詳細までは判別できないが、マイクいわく、ブルーのシャツに黒いTシャツ、そしてグリーンのアーミーパンツを着用しているらしい。「これも僕のアーミーパンツで……っていうか、全部僕の私服(笑)」

「ジョニーに関してはユニフォーム的なスタイルを目指した」。だから、常にシャツ姿なのだが、それは寒空のNYをジェシーと歩く際も同じ。「4枚のヴィンテージの白いシャツを、白からグレーに4種のフェードで染め、彼はそのうちのどれかをいつも着ている」。上に羽織った〈ザ・ノース・フェイス〉のジャケットもマイクの私物。






マイクの着こなしへの哲学は、もちろん、最新作の主人公のスタイルにも反映されている。『カモン カモン』では、ラジオジャーナリストのジョニーと、彼が預かることになった甥ジェシーが、不器用ながら歩み寄ろうとする姿を美しいモノクロ映像で描いているのだが、ジョニーを演じるホアキン・フェニックスの服もシンプルでカッコいい。実は彼の衣装の大部分は、マイクの私物だという。
「カメラテストのとき、ホアキンが作業中の僕を呼び止めて、突然『その靴を貸して』って言ったんだ(笑)。実は僕らが選んだ別の服もあったんだけど、彼は気に食わなかったらしく、機嫌が悪くて。彼がその気になってくれるならと、喜んで差し出したよ。そしたら、『じゃあ、そのズボンも』という具合にどんどん奪われて、結果として劇中には僕の服がたくさん登場することになったんだ。なぜ彼がそうしたのか、未だにわからないんだけどね。別に僕を演じているわけでもないのに……。でも、そこを議論するつもりはまったくなかった。あと映画作りっていうのは、いかに予算をやりくりするかが問題となるんだけど、僕の服を使えば、衣装代はゼロになるわけで、そこはありがたかったね」
取材時にマイクが履いていた白い〈コンバース〉も、ホアキンに奪われ、劇中に登場することになったアイテムのひとつだ。
「この靴は、よく履くようになってもう数年たつかな? 〈コンバース〉は子供の頃にも持っていたけど、カリフォルニアのスケート少年だったから、当時よく履いていたのは〈ヴァンズ〉だったんだ。〈コンバース〉でスケートはナシって時代だったから。でも、履き心地がいいんだよね。この〝Chuck 70〟と呼ばれるモデルはメモリーフォームが入っていて特に快適。しかも、50〜60ドルと安いんだ。なんで〝70〟というのかは謎だけど……。ホアキンがこの靴を気に入ったのは、彼はビーガンで動物性の素材の洋服が一切着られないから。レザーはもちろん、ウールもダメ。となると靴が難しくなってくるんだ。そんなことは初めてだったから、彼の希望に適応するのは興味深い体験だったよ」
そんなジョニーの衣装にもまた、インスピレーション源となった実在の人物がいるそうだ。Joy Division、初期のスタンリー・キューブリック、ジョナス・メカス、The Fallのマーク・E・スミス、ロバート・ラウシェンバーグ……。共通するのは、みんなシャツとメンズトラウザーズ、そして場合によってはテーラードジャケットを着用しているということ。ホアキンの予想外の振る舞いで大変だったとはいえ、たしかにジョニーの衣装にはそうした人々のエッセンスが感じられる。彼らのスタイルをマイクは「ちょっとポストパンク、もしくはアートワーカーのメンズ服」と呼ぶ。そうしたコンセプトは、マイク自身が普段着る服にも当てはまるのだろうか。
「うん、そうだね。どこかお堅い要素というか〝故意的な堅さ〟がありながら、〝シンプルでフラット〟。もしくは、〝おかしな淡泊さ〟、〝堕落した簡素さ〟があるスタイルだよね。この〝堕落した簡素さ〟っていうのは、スケーター的エッセンスだと思うんだ。スケートやパンクのカルチャーっていうのは、いつも何かをいじって自分流に変える工夫をして、その洋服の持つ意味や記号性で遊ぶ傾向にあるんだ。今日もそうだけど、僕もそんな服をよく着ているよ」


『突撃』撮影時のスタンリー・キューブリック、29歳。まだ晩年のようにヒゲを蓄えておらず、好青年風のビジュアルだ。「初期の彼はノーネクタイでシャツとテーラードジャケットをよく着ていた。ジョニーにSCENE1のシャツの上にジャケットを着せたのは、彼のようなスタイルの影響なんだ。ジョニーの場合はテーラードジャケットではないんだけど」

1976年にグレーター・マンチェスターで結成された、ポストパンクを代表するバンド。「ボーカルのイアン・カーティスをはじめジョイ・ディヴィジョンのメンバーはみんなシャツにメンズトラウザーズというスタイルをしていたんだ。“故意的な堅さ”と“シンプルなフラットさ”っていう言葉は、彼らのスタイルにこそ当てはまると思う」

マーク・E・スミスは、ジョイ・ディヴィジョンと同じく1976年にグレーター・マンチェスターで結成されたポストロックバンドThe Fallのリードシンガーだ。「マークもまた、シャツにメンズトラウザーズというスタイルだよね。ポイントはシャツの袖をいつもまくっているということだね」。実際、劇中のジョニーも袖をまくってシャツを着ている。

映画監督のジョナス・メカスもまた、初期のキューブリックと同じくテーラードジャケットにシャツというスタイルが定番だった。「ただ、彼の場合は、いつもシャツがくちゃくちゃで全然かっちりしてないんだ(笑)。スタイリッシュじゃないスタイルというのがいいよね」。いつもかぶっている帽子もメカスのチャームポイントだ。

「彼もよくシャツの袖をまくっていたよね」とマイクが語るのが、絵画と立体のカオス的な融合を目指す「コンバイン・ペインティング」で知られる、ロバート・ラウシェンバーグだ。しかし、作品のもたらす過激なイメージに反して、着ている服はシンプルっていうのは#1で紹介したマグリットと近いかも?
プロフィール
MIKE MILLS
インフォメーション
『カモン カモン』
ラジオジャーナリストとして全国各地を旅してインタビューすることを生業とするジョニーは、妹に頼まれ甥ジェシーの面倒を見ることに。しかし、安請け合いしたばかりに、ジェシーとの暮らしは苦難の連続だった。そんな2人の姿を通して、大人と子供、そして過去と未来のありうべき関係が探求される。今春公開。
©︎Aflo©︎gettyimages©︎2021 Be Funny When You Can LLC. All Rights Reserved.
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