カルチャー
RADICAL Localism Vol.3/「ラディカルローカリズム」とは?
文: ロジャー・マクドナルド
2022年1月7日
photo & text: Roger McDonald
cover design: Aiko Koike
edit: Yukako Kazuno
このコラムのタイトルにもなっているフレーズは、なんとなくこの数年私が田舎に住みながら考えてきたことを指しているのではないかと思います。そして、2020年のパンデミックがこの考えをさらに加速させました。文化芸術の視点から言うと、この2年間、簡単に移動することができなくなり「文化の中心」と思われてきた大都会にアクセスしにくくなりました。さらに、海外にも容易に出向くことができない。
この状況のなかで、自分が住んでいる地域や、コミュニティーのなかでどのような「文化」体験が可能なのか? 地元に元から根付いているさまざまな文化を体験するだけでなく、私がとても興味深く思っているのが「ローカルなスケールで、いかに先駆的でインターナショナルな視点を持った文化の実験ができるか」ということです。近代ではこのような「前衛」文化は、おもに大都会で起きうるものとして考えられてきたのではないかと思います。しかし、歴史を丁寧に振り返ってみると、都会のさまざまな制約や抑圧から脱出して、 山や田舎で先駆的な芸術実験をしていた人たちがたくさんいることが分かります。
20世紀の初めにはさまざまな芸術の「コミューン」運動がありました。スイスとイタリアの山奥で 生まれた「モンテベリタ」では、多くのアーチスト、作家や研究者が集まり、菜食主義・服を着ない生活・ジェンダーの平等などを取り入れた実験的な生活をし、社会主義的な生き方が実践されていました。

日本には白樺派運動があり、やはり実験的な生き方をする「新しき村」が田舎で実行されていました。このような運動は芸術的な要素だけではなく、政治的な視点から言えば、近代資本主義や産業化がもたらす疎外感や自然界に対する破壊に対する抵抗でもあったのです。


ロシアの思想家、無政府主義者ミハイル・バクーニンは、このような運動における、重要な思想家でした。「トップダウン」中心の、権力が強い社会ではなく、民主的で協力的な社会について論じたのです。20世紀初めには、大都会ではなかなか実現できない、自律的、自己組織化された小さなコミュニティーの原型が多く見られました。
1960年代、特にアメリカ西海岸で広まった「カウンターカルチャー」(ヒッピー)運動と「Back to the Land movement」(土に戻る運動)もこのような歴史と強く関係しています。もちろん「土に戻る」運動には、つねに保守的な政治に利用される恐れはあって、開かれた議論や視点が大事です。しかし、近代主義の大都市中心の文化芸術の発展に対して重要な「オルタナチブ」を示しているとも思います。
日本各地でも、地域再生運動や、町おこし運動が盛んになり、地方に移住する人たちも増えていると思います。 私が言う「ラディカルローカリズム」は、単に地域経済の再生や町おこしとは異なります。むしろ、バクーニンから広まる哲学の実践のことを指しています。それは既存の経済システムを維持しながら「成長」することではなく、むしろ「ラディカル」既存のあり方を変える、実験的な試みだと思っていて、白樺派、マハトマ・ガンディー、ヴァンダナ・シヴァやジル・ドゥルー ズとフェリックス・ガタリのような思想家たちが言及してきた世界と生き方を参考にしています。
都会とつながりを持ちながら、ローカルなスケールで実践できるさまざまな民主的なこと:生活の質、食、農業、労働、生涯学習、エコロジー運動、そして文化芸術。このようなことは、おそらくみんなで作り続けることでもあり、大きな達成というよりも「戦術」的で弱々しいかもしれない。しかし、歴史から学べるように、人間が探ってきた大事な運動でもあると思うのです。
大都会の美術館は観客動員、市場やメディアに大きく左右されている一方、山のなかにある、ローカルなアート体験は、もしかすると別の鑑賞の質を追求できるのではないだろうか? 哲学者のドゥルーズ&ガタリが言っていたように、資本の中心から距離があることで、また別の「欲望」や「主体性」が生まれてくる。都会は「キャプチャーのネットワーク」、つまり全てが資本のシステムにキャッチ、飲み込まれていくのに対して、山や田舎では、別の可能性が開かれているのではないだろうか? 別の視点から考えると、私が住んでいる望月は「過疎地域」で、ある意味ではこれからの「脱成長」社会を見せてくれるかもしれない。このようなことを謙虚な態度で考えながら「ラディカルローカリズム」を想像し、実践しています。
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