ファッション

僕の買い付け物語。/DANJIL 渡部功司

2021年11月13日

僕らの古着ワンダーランド。


illustration: Hirochika Machida
text: Ku Ishikawa
2021年12月 896号初出

古着といえば、やっぱり気になる買い付けのこと。
異国の地で何を見聞きし、どうやって探すのか?
町田にある古着屋『danjil』の渡部功司さんの買い付け物語。

 

 

スニッカーズを片手に巡る西海岸のローカルショップ。

 スケートブランドや4大スポーツのグッズ、〈ラルフ ローレン〉に、〈GAP〉のオールドもの。1990年代のアメリカのカルチャーを感じる服がずっと好きなんです。買い付けに行くのは、シアトルやカナダのバンクーバー。お店を出した2003年当時から買い付け先として開拓されていたロサンゼルスなどに比べて、欲しいものが買えたからです。特にシアトルはジミ・ヘンドリックスやニルヴァーナゆかりの音楽の街。1990年代のアメリカ文化の薫りがまだまだ残っていました。

 でも、この年代の物って極端に数が少ないんです。アメリカが不景気だった影響もあり、1980年代までの大量生産・大量消費が終わって、スモールブランドが増えた時代。そもそも物がないから、まとめて持っているディーラーもいないので、買い付けは、現地の人が普段使いするローカルなショップを車でひたすら回ります。フリマやスリフトはもちろん、スケートショップ、釣具屋などのアウトドアショップ、ご当地の『HMV』や『タワーレコード』まで。地方のお店には、当時の在庫が眠っているんです。ただ、ごっそり出ることはほぼない。基本的にはセールで売り切るし、デニムにせよスニーカーにせよ、3つまとまって出たら万々歳、というレベル。だから現地では店が開いている時間はずーっと車でお店巡り。ご飯、というか栄養補給はガソリンスタンドでまとめ買いしたスニッカーズばっかりです。

 でもそんなふうに偏ったものばかり集め続けていると、次第に現地で顔も知られてきて、思わぬ買い方ができることもあります。あるときは、廃業するお店の在庫を丸ごと買ったことがありました。現地の顔見知りから「閉店しようとしてるスポーツショップがあるんだけど、お前、買わないか」と連絡が来て。行って見てみたら、4大スポーツもののウェアやキャップが、6畳2間の部屋を埋め尽くすほどどっさりあったんですよ。しかも、どれも1990年代らしい完璧なロゴやグラフィック。キーホルダーや缶バッジなど、細かいものまで含めると2万点くらいはありましたかね。即決と行きたかったですが、何しろ量が多いので。清水の舞台から飛び降りる覚悟で買わせてもらいました。ただ、日本では全く人気のないチームのグッズも多くて、5割くらいはまだ倉庫に眠ってます。だからまだ、全然元を取れていないんですけどね(笑)。

プロフィール

渡部功司

わたなべ・こうじ|1979年、福島県生まれ。2003年に’90年代のストリートものを主に扱う『danjil』をオープン。NFLのフーリガン集団に絡まれたときは死ぬかと思ったそう。