フード
私のBEST3DISHES/滝沢カレン(3皿目)
『サムラート』のバターチキンカレーとチーズナン
2021年11月17日
text: Karen Takizawa
photo: Naoto Date
illustration: Adrian Hogan
edit: Minori Kitamura
本誌連載「私のBEST 3 DISHES」にて、思い出の3皿を紹介してくれた滝沢カレンさん。
実はページから溢れるほどの超大作を書いてくれたので、ウェブでは特別に全文を公開。
3皿目は『サムラート』のバターチキンカレーとチーズナン。
私がインドカレーと出合ったのは高校1年生の時だった。
高校生にもなると門限は変わり、何より学校が終わるとそのまま寄り道ができるようになった。
なんだか悪い事をしているような楽しさを噛み締めながら、私は毎日渋谷へ足を運んだ。
左には、大親友の幸子。
私は高校のクラスメイトに教えてもらったインド料理屋・サムラートへ、早速幸子を連れて行った。
こんな美味しいもの、私だけが知っていてはもったいない、という
どこからともなく強く芽生える広報精神に、幸子は気持ちよく喜んでくれた。
渋谷の若者たちが右も左も占領する中、急遽異国な雰囲気が現れる。
真っ赤な入口が入りにくさを倍増させながら、私は幸子の手を引く。
席は一階と二階があり、私の青春はこの二階で満たされていた。
販売機で、幸子の分まで堂々と決めながら二階へあがる。
慣れない日本語を明るく投げてくれる店主が、ナンかライスかと聞いてくる。
もちろん、ナン。
幸子がどんな顔をするか、なんて言うか、もうそれが楽しみで仕方なかった。
料理が来るまでは、恋の話や互いの学校の話をしているのに
私の頭は、幸子とサムラートの出合いの光景でいっぱいだった。
数分で、小さなスープ皿に今まで料理として見たこともない橙色をしたルーが運ばれてきた。
溶けかけているバターがあまりにも気持ちよさそうだ。
鶏肉は頭までルーをかぶってこちらにちょこんと姿をみせる。
最近発見した美味しい香りが私をさらに空腹にする。
お腹の中から「おい!早くこっちへ届けてくれ!」といまにも怒られそうなほど、グゥと強く発する。
少し遅れて、人間の上半身くらいあるナンがやってきた。
お皿はナンに隠され、どこのバランスで耐えてるのかわからないほど。
テーブルには、一気にインドが開かれる。
幸子はあまりのナンの大きさに、何枚も写真を撮っていた。
好き嫌いがとても多い幸子。
もしかしたら、この味は苦手かもしれないと少し不安になりながら、幸子の食べる姿を観察していた。
ナンを一口サイズにちぎると、バターチキンカレーに沈め、口に入れた。
「え?!うますぎる!」
これが幸子の第一声だった。
この瞬間どれほど、私は胸を張っていたかわからない。
まるで、サムラートを日本へ持ってきたのが私かのように誇らしかった。
幸子は、食べてるあいだずっとずっと「うまい」と何度も言っていた。
私もそう思っていた。
「ほんとに美味しい。こんな食べ物、似たようなものすら食べたことなかったよ」
まず、日本のカレーすら給食くらいでしかまともに食べたことのなかった私は、飛び抜けたインドカレーに恋をした。
甘くて、濃厚で、しばらく口に居座るあの味は私を夢中にさせた。
そこに、ナン。
パン好きの私からしたら、こんなにおっきくて、たくさん食べられるナンがこの世の最強だと信じていた。
その日から幸子と私は、渋谷へ行くたびにサムラートへ行った。
将来の夢を語りあったり、恋の悩みを打ち明けたり、勉強の難しさを頷き合ったり、 中学時代を何度も笑い話にしたり、旅行の計画をした場所も、ぜんぶぜんぶそこは、
サムラートの二階席だった。
お昼ご飯におやつ時間に、夕飯時間、どこにサムラートが入っても万々歳だ。
何度も、サムラートで満腹になり、おばあちゃんの夕飯を食べきれずに怒られたこともあった。
それでも、私の青春は譲らなかった。
勉強や仕事、遊び、恋にまっすぐ突進な若かりし私は、同じ温度でサムラートがここに入る。
サムラートへ迷いなく力強く進む一歩は、渋谷一だった自信すらある。
そんなサムラートが、私は今でも大好きだ。
幸子が我が家へ来たときは、出前して食べるほど。
「サムラートはうちらの青春だよね」と。
いつかおばあちゃんになった私たちは
どこかのサムラートで人生の思い出を語っているかもしれない。
文・滝沢カレン
甘くて優しいスパイス使い。
バターチキンカレーの生みの親。
『サムラート』のバターチキンカレーとチーズナン
1980年創業当時、28種のスパイスを使い日本人向けの甘口にアレンジ。甘味とコクの秘訣はカシューナッツ。窯焼きのチーズナン(¥580)はバターと黒ごまの塩気が効いて、交互に食べればエンドレス。¥1,580※ディナー価格
インフォメーション
サムラート
東京都港区南青山1-3-6 ☎03·3408·5656 11:00~22:30 木休 ※文中の渋谷店は現在閉店しているが、都内で4店舗を展開
プロフィール
滝沢カレン
たきざわ・かれん|1992年、東京都生まれ。雑誌『Oggi』の専属モデルを務める傍ら、日本テレビ系『沸騰ワード10』やフジテレビ『全力!脱力タイムズ』へのレギュラー出演を筆頭にタレントとしても活躍。11月19日より公開の映画『土竜の唄 FINAL』には沙門夕磨役で出演。
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