カルチャー

おもしろい映画、知らない?/W.デーヴィッド・マークス

音楽が重要な役割を果たすコメディ映画

2021年11月20日

illustration: Gramas
text: Keisuke Kagiwada

どストライクに好きな映画というものを、どうやって探せばいいだろう?
アクション、コメディといっても色々だからジャンルでは絞りきれないし。問答無用に師弟関係の描かれた映画に涙腺がユルかったり、倦怠期の夫婦モノとか、特定の人物設定がツボだったり。その傾向をもっと定められたら、ハズレなしの日々が待っている(はず)。
「何回でも観られるわコレ!」って映画に出合う確率を30%くらい上げるため、ポパイが気になる方々に頭を捻ってもらうことにしよう。

 コメディはコメディでも、ただ笑わせるだけの作品には惹かれません。ビジュアルが作り込まれていて、アート性もあって、なおかつ音楽が重要な役割を果たす。そんなコメディが好きなんです。

 例えば、『スパイナル・タップ』。架空のメタルバンドのツアーの模様をドキュメンタリー風に撮った作品なんですが、「こんなバンドが本当にいたんじゃないか?」ってくらいリアルに撮られているのがすごい。コメディに関していうと、メタルをものすごく微妙に小馬鹿にしているところが、オルタナティブ・ロック世代としては共感して笑えます。だけど、困ったことに、この映画を通して聴くとそんな彼らの音楽がとてもよく思えるんですよ(笑)。実際、子供の頃はこの作品の音声をカセットに録音して聴いていましたから。それは音楽の使い方がうまいってことだと思います。ただ、さっきも言ったようにこの作品のコメディはすっごく微妙なので、初めて観た人にはちょっと笑えないかもしれません(笑)。

スパイナル・タップ
(監督:ロブ・ライナー|1984年|アメリカ|82分)
架空のヘヴィメタルバンドの全米ツアーの模様を追うフェイク・ドキュメンタリー。メタル文化に対する風刺が随所に込められている。

 よくできた映画の中で聴くと、普段は嫌いな音楽もよく思えるというのは、『バッド・チューニング』についても言えます。1970年代のテキサスで高校生たちがダラダラとパーティをするだけの作品で、彼らが聴いているのはエアロスミスとか。だけど、世界観がしっかりしているから面白いし、まったく好きじゃないエアロスミスもよく思えるんですよね。『バッド・チューニング』と同じくリチャード・リンクレイター監督の初期作『スラッカー』も好きです。あの作品は編集のリズムというか、映画自体の作りが音楽的だと思うんですよね。

バッド・チューニング
(監督:リチャード・リンクレイター|1993年|アメリカ|110分)
1976年テキサス。当時若手だったマシュー・マコノヒーやレニー・ゼルウィガーが夏休み初日の高校生を演じる。

 あとは、ザ・モンキーズが出演している『ザ・モンキーズ 恋の合言葉HEAD!』も好きですね。すっごく変な映画なんですよ。ジャック・ニコルソンが脚本を書いていて、たぶんドラッグをやっていたんだと思うけど、サイケデリックな論理で話が進んでいく(笑)。でも、ベトナム戦争に対する強烈なアイロニーでちゃんと笑わせてくれるし、モンキーズの音楽もいい。たぶん、この映画の中で流れるモンキーズが作った曲は、彼らの中で一番いいんじゃないかな。個人的に,60年代で一番面白い映画だと思います。

ザ・モンキーズ 恋の合言葉HEAD!
(監督:ボブ・ラフェルソン|1968年|アメリカ|97分)
時はベトナム戦争真っ最中のアメリカ。ザ・モンキーズの面々にも召集令状が届く。彼らは戦場へと赴くが……。サイケデリックでハチャメチャなコントのオムニバス的作品。

プロフィール

W.デーヴィッド・マークス

ファッションジャーナリスト。1978年、アメリカ・オクラホマ州生まれ。ハーバード大学時代は、伝説的コメディクラブ「ハーバードランプーン」に所属。著書に『AMETORA 日本がアメリカンスタイルを救った物語』。