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あらためて遊歩大全 #8 / 家事と緑の世界編

装備の整理や救急処置と、大自然。

2021年9月6日

photo: Hiromichi Uchida
composition: Kyosuke Nitta
cooperation: Kazuhiko Kai
2014年12月 812号初出

時は1968年。反社会運動真っ只中のカリフォルニアにて、新しい発想での自然回帰・ウォーキング哲学を提唱し、ヒッピーを大自然へと誘った『The Complete Walker』(著・コリン・フレッチャー)は、全米でベストセラーに。その後改訂版として登場した『The New Complete Walker』を、1978年に芦沢一洋が熱のこもった言葉で翻訳・出版し、日本でも空前絶後のバックパッキングブームが巻き起こった…。


それ以降、山を歩いて旅する者たちのバイブルとなった『遊歩大全』。文庫版ですら976ページもあるこの長旅をギュッとまとめて、目次順に解説!8回目は『家事と緑の世界編』。

遊歩大全

– 状況に応じたパッキング。-

 パッキングは用具の出し入れの手順と、最も機能的な荷重の配分(重いものは背中に近く、高いところへ)を考え、最高のバランスを追求すること。常識と、何度かの失敗があればできるようになるはず。渡河のときにはすべてパッキングし直す。底にはかさばるけれど浮きやすく、濡れてもいいもの(水筒、ポット、コンテナなど)。その上に、あまり濡らしたくないもの(プラスチックシートで包む)。一番上に絶対濡らしたくないもの(一つ一つビニール袋に入れてから寝袋で包み、大きなビニール袋に入れて、ポンチョで包む)。

– 食料補給・トイレのこと。-

 食料補給の方法で、コリンの経験上ベストだったのは「前進基地システム」。約1週間ごとに田舎町の郵便局に立ち寄り補給しつつ、次の郵便局に必要なものを手配するようにサービス会社や友人に手紙を出す。他に、貯蔵庫をルートに隠しておく、パラシュートによる空中投下など。

 トイレは「ネコ式トイレ法」。穴を掘り、事後はその上に砂ないし土をかける。穴は6〜8インチ(15〜20㎝)の深さ。プラスチックのスコップがあると便利。穴は川から少なくとも50フィート(15・2m)以上離れた場所に掘ること。できれば眺めのいいところに。他人への配慮も重要。

– 危険を避けるサバイバル術。-

 コリン曰く、「サバイバルの成否は、80%はこれまで身につけてきた能力の質が問われ、あとの20%はその土地に対する知識の有無で決定される」「さらに、100%の冷静さを保つ者だけが勝者になり得る」。ラトルスネーク(がらがら蛇)もハイポサミア(低体温症)も、正確な知識と安定した精神が、危機と恐怖を追い払う。なお、スペースブランケットは持っていて損はない。

– ウィルダネスの保護のために。-

 ひとたびウォーカーになれば、誰もが自然保護論者になるものだ。だが、その確信を振りかざしてはいけない。独善的な人間は人をうんざりさせ、警告の効力はなくなり、むしろ敵意さえ生む。自分の独善を抑えるよう、心からの努力をしなければならない。そうしないと、望む勝利の機会をみすみす逃すことになる。こんなことを、コリンは自分に言い聞かせるように綴る。

– 大自然と一体になり、取り戻す、本来の力と感性。-

  旅で見た各地の風景を書き連ねながらも、コリンが伝えたいことはそれぞれの魅力ではない。すべてがどれも、ひとつの緑の世界、つまり大自然がもたらしてくれるものであり、求めているのは自然そのものだ、と言う。そして、冒頭の「なぜ歩くのか?」で提唱した“パターン〟を繰り返し、そうして気付くのは自然からもらい受けた新鮮で緻密な力・感性を都会の暮らしの中で失っていたこと、そして今は取り戻していることだ、と。これは、自分自身がリフレッシュされたということ。自分の目で物事を見、考え、自分だけの人生を生きていけることにひとすじの光明がさしたことを意味しているのだ、と述懐。そして、こう締めくくる。「ウォーキングという、限りなく単純な行為から得られるものの、なんと多いことか」

遊歩大全
1987年には上下2巻が1冊(左)に。その後に絶版となり、入手困難な状態が続いたため“伝説のバイブル”と呼ばれていたが、2012年に山と渓谷社より文庫版(4・厚さ3.5㎝。¥2,200)が登場した。(右)