カルチャー
ナタリー・エリカ・ジェームズ 選/逃れられない恐怖を追求するコズミック・ホラー。
2021年8月13日

真夏のホラー大冒険。
photo: Tim Herbert
coordination: Mifumi Obata
illustration: ONO-CHAN
text: Tomoko Ogawa
2021年9月 893号初出

ニコラス・ローグ
1973年|イギリス、イタリア|110分
仕事でベニスを訪れたイギリスの考古学者ジョンと妻ローラは、盲目の霊媒師と出会い、事故で失ったばかりの娘の幻影を見、霊媒師を通じて娘と通信を図る。
©︎1973 NATIONAL FILM VENTURES. ALL RIGHTS RESERVED
私が好きなタイプのホラーは、実存的もしくはH・P・ラヴクラフトが名づけたコズミック・ホラーと呼ばれる類いのもの。ドアを閉めれば終わりではなく、逃れられないアイデンティティや死をテーマにした物語に惹かれてしまいます。
トーンやムードも含めてくすぐられるのが、ニコラス・ローグ監督の『赤い影』ですね。水死した娘の幻影につきまとわれる夫婦の物語として、未知のものの感覚に触れる見事な作品。幽霊が壁に隠れて空に昇っていくシーンは、いまだに最も恐ろしいシーンのひとつだと思う。黒沢清監督の『回路』も、現実社会の問題や、人間の孤独、テクノロジーがいかに人間を孤立させているかを語っています。恐怖心がスリル満点のローラーコースターとなって、強い言葉として心に残る。「ホラー最高!」ってなりますよね。

黒沢 清
2001年|日本|119分
一人暮らしのOLミチは、同僚が自殺し、勤め先の社長が失踪し、周囲に異変が。一方で大学生の亮介には、インターネットを介して奇妙な現象が起き始める。
©︎角川映画・日本テレビ・博報堂・IMAGICA/2001
11歳のときに、親の監視下から初めて離れて友達グループと映画館で観た、『アザーズ』もお気に入り。屋敷に新しい使用人がやってきてから起こる不可解な現象を目の当たりにして、友達と顔を見合わせながら感じた恐怖感と、映画が終わったという安堵感とカタルシスが印象に残っています。大好きな人たちと恐怖を共に経験し、生き延びたという感覚が忘れられなくて、いまだに人と映画館へホラーを観に行きます。

アレハンドロ・アメナーバル
2001年|アメリカ、スペイン、フランス|104分
第2次世界大戦末期。ジャージー島に立つ広大な屋敷に暮らすグレース、娘アン、息子ニコラスのもとに、使用人志望の3人の訪問者が現れる。
© 2001 SOGECINE Y LAS PRODUCCIONES EL ESCORPION.
この3作は、見慣れたものが見慣れない何かへと変わる恐怖が映し出されますが、これは私の作品にも影響するテーマなんです。私は6歳まで日本に住んでいたのですが、数年ぶりに祖母に会いに行ったときに、彼女が認知症になっていて、私のことは覚えてませんでした。その悲しみと子供の頃の思い出、悪夢、記憶が失われていく中で、何かにしがみつこうとしている祖母の状態が重なって生まれたのが、『レリック—遺物—』です。もう一つのインスピレーション源としては、ハンス・バルドゥングというルネサンス期のドイツの画家の「女の三世代と死」というシリーズ。死すべき人間の無常感と確実に関係する、〝ヴァニタス〟というジャンルの芸術にも夢中だったりします。
現実で最も怖いのは、鋭いくちばしを持つ鳥ですが(笑)、深いところでは、死、自己の喪失、狂気が恐ろしいですね。世界に悪があるのかどうかはわからないけど、その一部が自分の中にあるかもしれないことが重荷ではあって。だからこそ、恐怖を追求しながら超現実的なイメージで遊べて、主観的なストーリーテリングがしやすいホラーは、私にとって完璧な仕事のジャンルだと思います。

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プロフィール
ナタリー・エリカ・ ジェームズ
映画監督。メルボルンを拠点に活動する日系オーストラリア人の監督・脚本家。全米興収3週連続1位記録のデビュー作『レリック—遺物—』(8月13日よりシネマート新宿他公開)の詳細は本誌P77にて。
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